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コロナ禍における政治リーダーの説明責任

知事たちはいつどのくらい頻繁に記者会見をしてきたか

河野勝・内村太地 / 早稲田大学政治経済学術院教授・早稲田大学河野勝ゼミ17期生

 国家が危機に直面した時、国民が政治リーダーに危機を乗り越えるための指針や希望を示してほしいと期待するのは当然であろう。現下のコロナ禍において、人々は生活様式の大きな変更を強いられ、自らも感染するのではないかと日々不安に怯えている。そうした中にあって、感染状況とその対策について説明を尽くすことは、まさしく政治の責任である。

 世界には、ドイツのメルケル首相、ニュージーランドのアーダーン首相、米ニューヨーク州のクオモ知事など、毎日のように会見を開き、この責任を果たそうとしてきたリーダーも多い。では、日本ではどうか。日本の政治リーダーは、この未曾有の危機に際して、説明責任を果たしてきたといえるであろうか。

知事たちはどのタイミングで、どの程度の頻度で会見を開いたか

緊急事態宣言の期間延長と解除について記者会見する菅義偉首相=2021年2月2日、首相官邸

 菅義偉首相は、2020年9月に就任して以来、記者会見をほとんど開かず、また開いても十分に質問に答えないと批判を浴びている。安倍晋三前首相も、退任を決意する前の一時期、1カ月以上にわたって会見を行わず、その間内閣支持率は大きく下落した。実は、政府全体としてみれば、官房長官や担当大臣らが頻繁に会見を行っている。にもかかわらず、首相に対し厳しい評価が向けられるのは、国のリーダーとして自らコロナとの戦いの先頭に立ち、自身の言葉でメッセージを発信すべきだとの意見を多くの国民が共有しているからにほかならない。

 こうした中、注目されるのが都道府県の知事たちの行動である。周知のように、日本では、コロナの感染状況も、またそれに対応する保健所や医療の体制も、各自治体で著しく異なる。日々の動向に関する情報は、国より前にまず都道府県レベルで集約されるので、知事のリーダーシップなしに各地の実態に合わせたコロナ対策を構築することはできない。加えて、各知事は、国が決めた方針や措置を地域の人々に伝達し、様々な機関と連携・調整しながら、それらを実施していく中心的役割を担っている。国のトップである首相と並んで、都道府県の知事たちが人々に対して負っている説明責任も極めて大きいと考えなければならない。

 以上の問題意識を背景に、筆者らは、コロナ感染の第1波と第2波に当たる時期、すなわち2020年1月から9月までの期間に、全国の知事たちが開いた記者会見のデータを集めた。具体的には、まず都道府県庁のホームページ(HP)に公式な会見の情報が網羅的に掲載されているかを問い合わせ、掲載されていない場合は直接、情報提供を求めた。このデータに基づき、小論では、コロナの感染状況が日々変化する中で、知事たちがどのタイミングで、またどの程度の頻度で、会見を開いたかを検証していきたい。

首相が会見を頻繁に行えば行うほど、知事の姿勢が後押しされる

 知事が行う会見には、大きく分けて定例会見と臨時会見とがあり、その他にも「ぶら下がり」などと呼ばれる形態もある。この中で特に重要と位置付け、以下で主な分析対象とするのは、臨時会見である。コロナ情勢にかかわらず実施される定例会見や、非公式なぶら下がりでなく、その時々の判断で開催が決定される臨時会見にこそ、知事の説明責任を尽くそうとする姿勢が最もよく表れる、と考えたからである。

 臨時会見の重要性は、定例会見が慣例としてしばしば記者クラブとの共催で行われるのに対して、臨時会見の多くがむしろ知事や県側のイニシアティヴで開催されるという事実によっても裏付けられる。

 筆者らは、上述のデータ収集と同時に47都道府県の広報担当者にアンケートを依頼しすべてから回答を得たが、その結果によると、臨時会見の開催を提案する主体として最も重要なのは誰かとの質問に対し、記者クラブという回答肢を選んだのは愛媛と徳島の2県にすぎなかった。圧倒的多数からは、知事が最も重要な提案主体である、もしくはそうした主体の一つである、との回答を得たのである(一方、定例会見に関しては、19もの都府県が最も重要な提案主体として記者クラブを単独に選んだ)。

 さて、昨年1月から9月までの間に全国の知事たちが行った臨時会見の総数は1,222回で、同時期の定例会見(898回)より多い。定例会見は、基本的に週に一度しか開かれないが、臨時会見を週に複数回行ったことのある知事も少なからずいた。また、会見日を曜日ごとに集計した表1をみると、知事たちは定例会見が行われない週末にも臨時会見を開いていた(2020年は1月1日が水曜日だったので、小論の分析での「週」は水曜から火曜のサイクルをさす)。他の年と比較していないので断定はできないものの、コロナ禍において、知事たちは定例会見だけでは十分でないと判断し、自らのイニシアティヴで臨時会見を開いてきたといってよいであろう。

表1 知事による記者会見の曜日ごとの回数(2020年1月1日から9月29日まで)

 続いて、表2は、首相による会見が開かれた前後の数日間に、知事も記者会見を行ったかどうかを調べた結果である(ここでは臨時と定例を合算している)。

 この表によると、首相会見の当日に最も多くの頻度で会見が行われ、次に前日および翌日の頻度が高く、首相会見から時間が離れるほど知事たちの会見が少なくなっている。こうした傾向は、全般的に見てとれるが、とりわけ緊急事態宣言下の4月から5月初旬にかけて顕著である。

 この結果からは、首相が会見すると、あたかも各自治体に波及するかのように、その内容を予測したり説明したりするべく、知事による会見も一段と増える効果を持つことが読み取れる。すべての国民に向けた首相の方針や意図が、知事の

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