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東京五輪は大胆に簡素化を~「森発言」を乗り越え今夏に開催するために

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

 オリンピック組織委員会の森会長による女性蔑視と受け取られる発言から約2週間が経過したが、後継者決定をめぐるドタバタ劇により後任の会長もなかなか決まらず、世界の日本を見る眼はますます厳しくなっている。この2週間のタイムロスは極めて大きく、このままでは、聖火リレーの開始が予定される3月25日以前に、東京オリンピックの開催を可能とする具体的な形態が決まらず、結局は東京2020が中止に追い込まれることが懸念される。

IOCのバッハ会長との電話協議後、発言する東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長=2021年1月28日、東京都中央区

世論の反応は変わりうる

 東京オリパラへの出場が確定しているか、あるいは期待されているアスリートの現在の不安な気持ちは察するに余りある。事情は異なるが、モスクワオリンピックのボイコットにより出場が幻となったマラソンの瀬古選手や柔道の山下選手の流した悔し涙が昨日のように思い出される。これに加え、半世紀に一度といわれる夏季大会の日本開催を期待してきた多くの日本国民、さらには世界中のスポーツファンは、是非とも開催を実現してほしいと願っていることは紛れもない事実と思う。

 しかしながら現在の世論調査によると、約8割の日本国民が「中止ないしは更なる延期とすべし」と考えている。その理由は、コロナ感染状況の収束が見えない中で、どのような形態のオリンピック開催が検討されているかが全く知らされていないので、国民の漠然とした不安がそのままこのような数字になっているものと考えられる。

 もし、日本政府とIOCが、医学的知見の責任組織としてのWHOの助言を得つつ、緊密な協議を行って、いかなる形態での開催であれば、コロナが完全に収束していない状況においても、感染拡大の危険性を最小限に抑え込む形で、今夏の東京開催が可能であるかを世界に示すことができれば、国内世論も大きくそれを是認する方向に変化することは十分予想される。

 勿論、世論がすべてではないが、大多数の国民が支持しない状況でのオリパラ開催は成功するはずがない。

コロナ禍におけるオリパラ開催の形態は何か

 感染の危険性を最小限に抑えるためには、大会の根幹にかかわる部分の抜本的な簡素化が必要である。昨年10月に組織委員会が原案を作成し、IOCと協議のうえで決定された簡素化案は、全くの小手先の措置であり、コロナ禍における開催を可能とするには程遠い内容と言わざるを得ない。

 感染リスクの最小限化のためには、オリパラの現場に集まる人間の数を最小限に抑えることが決定的に重要である。それは、行事内容、観客の有無、競技方法、選手・役員などの大会直接関係者、メディア、ボランティア、警備その他の支援要員など多岐にわたる簡素化である。

行事内容の簡素化

1. 聖火リレー

 森会長が述べた「有名人は田んぼを走ればよい」は暴言であるが、確かに沿道に多数の見物人が密集することは避ける必要がある。そのためには、全国を通過するコース自体は変更しないとしても、形式と期間を大幅に修正することが望ましい。例えば、実際にランナーが走るのは一日のうち出発と到着の2区間のみとし、その間は車で運ぶことが一案であろう。これにより期間も一か月程度に短縮され、6月下旬のスタートにすることができると思われる。

2. 開花式・閉会式

 開会式の入場行進に出席する選手は各国とも旗手1名のみとし、役員は制限された人数が観客席で見守る。閉会式には選手、役員は出席せず、次回の開催都市への引継ぎ行事のみとする。

3. 関連行事の中止

 感染防止及び警備の観点から、オリンピック開催に合わせての外国賓客の訪日は一切認めない。関連文化行事も観客を集めた形では行わず、文化活動は原則として、ネット配信する。

2020年3月20日ギリシャから到着した東京五輪の聖火=宮城県東松島市の航空自衛隊松島基地

観客の有無

 観客を認めるか否かの問題は、大会開催の形態に大きく影響を及ぼすものであるので、まず第一に決定しなければならない。

 感染防止の観点からは、基本的には無観客が望ましい。しかしながら、オリンピックという地上最大ともいうべき巨大な国際的イベントが観客の声援なしで行われることは、いかにも寂しく、気勢が上がらない。

 また1年延期で経費が大幅に増加したことに加え、チケット収入がゼロになることによる約900億円の不足分を税金で賄うことは、国と都の財政上、大変厳しいと言わざるを得ない。

 ということは水際対策を徹底するためにも海外からの観客は認めないという苦渋の選択肢が浮かび上がる。国内在住者については、すでに販売済みのチケットを抽選で再調整して、当選者については、PCR検査やワクチン接種を条件として、競技場の収容人数の50%程度に限って認めることとしてはいかがであろうか。

 これは内外差別という批判は起こりうるが、この区別は国籍によるものではなく、あくまでも居住地別ということなので、今回のような緊急事態の対応として、ギリギリ受容されるものと信じる。またこの分のチケット収入の減収については、海外向けのネット放映の拡充などにより、ある程度はカバーできると期待される。

競技方法の調整(公道を使用する競技)

 基本的には、予定されている33競技のすべてが実施されることが望ましいが、競技が公道などの開放スペースで行われることが想定されてる種目(マラソン、競歩、トライアスロン、自転車のロードレースなど)については、観客の制限が容易ではないので、その実施方法については工夫が必要となろう。先日の大阪女子国際マラソンが周回コースで行われたことが一つの先例となる。これらの競技については、開催場所を周回コースなどの閉鎖空間に変更することが一案である。

 しかしこれからそれを模索することが困難な場合には、思い切って、コロナ感染状況が大きく改善していることが予想される来年春以降に開催を延期することが賢明ではなかろうか。勿論、その場合も東京オリンピックの一部として認めるのであり、メダル授与その他の栄誉は全く同等に扱われなければならない。

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