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わきまえない女性議員が地方自治体を消滅の危機から救う

女性が議員になることが少ない地域ほど若年女性人口の流出が多い事実が語ること

円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長

 女性対決と言われた1月末の山形知事選は、現職の吉村美栄子氏が勝利しました。山形県は女性の有業率や共働きが高いことで知られていて、知事選では女性政策に脚光があたりました。

 その1月に、世界の政治や経済に力を持つ人たちを集めてスイスのダボスで開かれるはずだった「ダボス会議」は、新型コロナウイルスの影響で5月にシンガポールで開かれることになりました。このダボス会議を主宰するのが世界経済フォーラムですが、この名称、どこかで聞いたことのある人は少なくないと思います。

「コロナ克服・未来創造予算」と名付けた新年度当初予算案を発表する吉村美栄子・山形県知事=2021年2月16日、山形市松波2丁目の県庁

ジェンダーギャップ指数121位の日本

 そう、ちょっと前に話題になった「ジェンダーギャップ指数」を毎年発表している団体です。日本は毎年、指数が悪化していて、昨年はついに153カ国中、121位まで落ち込みました。東京五輪パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の先日の“女性蔑視”発言で、「やっぱり日本は……」とこの数字が“裏書き”されてしまったのは、ほんとうに残念です。

 「ジェンダーギャップ指数」が低いとはどういうことでしょうか。一言でいえば、性差による不平等が大きいということです。健康、教育、経済、政治の4分野の指数なので、そんなものだけでわかりはしない、実際には日本の女性は強いと息巻く人もいますが、実態をみると、説得力に乏しい。

 経済分野では、女性の管理職が少なく、賃金の男女差も大きい。第一子が生まれて退職せざる女性がいまだに6割もいる。男女雇用機会均等法ができて35年も経っているのに嘆かわしい限りです。

 高等教育を受ける女性が増え、教育分野の指数は高いけれど、それでも大学の医学部入学で男性にだけゲタをはかせるような国です。科学研究の分野でも、見えない男女差別があると聞きます。

市区町村議員にも首長にも女性が少な過ぎる

 私がかかわってきた政治分野もまた、男女の差が顕著です。女性の総理はいまだに誕生していませんし、女性の知事は山形県と東京都の2人にすぎません。都道府県議員の女性比率は10.1%。市区町村長を見ると、政令指定都市20のうち女性は2人と1割、1721ある市区町村の長はたった23人、1.3%にすぎません。

 私が25年間続けてきた「女性のための政治スクール」の卒業生で市長選挙に挑戦する人はけっこういるのですが、当選はなかなか難しい。国会議員は少しは増えてきていますが、市区町村議員は市と区で14.9%、町村で10%にとどまります。

 政府は女性活躍を謳(うた)い、2010年に決定した男女共同参画第3次基本計画で「202030」という目標を打ち出しました。2020年までに、各界のあらゆる分野での指導的立場の女性比率を30%にすることを目標にしましたが、無残にもギブアップしてしまいました。

 こうみれば、121位という順位もさもありなむ。ちなみに政治分野だけを見ると、144位とさらに低いのです。

消滅可能性のある町の女性議員は……

 2014年に元総務大臣の増田寛也氏が座長をつとめる日本創生会議が出したレポートは、2040年には1718市町村のうちの896もの自治体が消滅するというショッキングなものでした。消滅自治体には過疎の地だけでなく、東京都の豊島区のような人口の多い区もあり、メディアでもおおいに話題になりました。

 消滅可能性の根拠は、20歳から39歳の女性が減るということです。その年齢層の女性たちに住み続けてもらえる施策ができれば、消滅は防げる。つまり、子どもを産める年齢層の女性がいかに住みやすい町、子育てしやすい町と捉えてくれるかが鍵を握るということです。

 この「増田レポート」を踏まえて、女性の議員比率を調べたのが、樋口恵子さん率いる「高齢社会をよくする女性の会」でした。「面白い結果が出て、『潮』(2015年5月号)にも書いたのよ」と言う樋口さんに、『潮』を送ってもらいました。その面白い結果とは――。

 増田レポートでは、若年女性(20〜39歳)の人口減少率(2010年〜2040年)が50%未満の自治体は799でした。樋口さんたちの調査によると、この50%未満の自治体の議員数の合計は1万8589人(2014年の統一地方選前の時点)で、うち女性議員は2610人、14.0%でした。

 人口1万人以上の自治体で、若年女性の人口減少率が50%以上、つまり消滅可能性があるのは361。それら自治体の議員数は7076人で、のうち女性は689人、9.7%でした。消滅可能性の高い自治体のほうが女性議員は少ないことがわかります。

 また、人口1万人未満の自治体で、人口減少率が50%以上で消滅可能性があるところは523。それらの合計議員数は6025人でそのうち女性は425人、7.1%しかいませんでした。

 この結果について、樋口さんは「女性が議員になることが少ない地域ほど、若年女性人口の流出が多くなっている」と言います。確かに面白い結果です。

大半の女性は政治家にはなりたくない

Jemastock/shutterstock.com

 昨年11月、日本財団が1万人の女性を対象にネットで実施した政治意識調査によると、女性の議員が少ないと思う人は6割超ですが、機会があれば政治家になりたいかという質問には、「思わない」が71%、「あまり思わない」が16.6%で、9割近くが否定的でした。

 その理由を聞くと(複数回答)、「向いていないと思う」が56.8%、「政治家という仕事に興味がない」が34%、「自分の生活や家庭と両立させる自信がない」が25%、「そもそも政治に興味がない」が10%でした。

 こうしてみると、政治の世界に女性が進出するのは、時間がかかるように思えます。ただ、その結果、議会に女性議員が増えないと、樋口さんの調査に見るように、町や村が消えていくことになりかねない。

 それではだめだ、自分のふるさとに活気をもたらし、若い人たちが子育てしやすい町をつくりたい。そう考えて立ち上がる女性たちが、「女性のための政治スクール」に通って各地で議員になっています。

 彼女たちは、児童虐待を防ごうと子ども食堂の予算を増やしたり、学校で女子が休み時間に外遊びをしないのは女子トイレが少ないせいだと見抜いて女子トイレを増やしたり、小さな村や町で地域の声をしっかり聞いて、施策を実行しています。しかし、そうした積極的活動が、ときに「男社会」と言われる議会で、軋轢(あつれき)を生むことがあります。

市民派無所属議員が議会から辞職勧告

 埼玉県に日高市という高麗神社で名高い市があります。高麗神社には、今の上皇様がまだ天皇でいらした時、美智子様と私的な一泊2日の旅行で立ち寄られました。

 人口5万6520人。議員数は16人で女性は2人、12.5%。増田レポートでは20歳〜39歳の女性人口は42.6%で、2040年には49.7%となっていますから、ぎりぎり50%以下で、消滅するかどうかの踏ん張りどころと言えます。

 その日高市議会の女性議員・田中まどかさんは4期目で、前回選挙ではトップ当選。常に市民の声を広く聞き、それを会報やSNS等で発信し、質問もしっかりやってきたからです。ところが、その彼女に議員辞職勧告が出され、可決されてしまった。

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