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総務省接待問題、安倍・菅政権のコロナ対応があぶり出す「時代遅れ」な日本

官僚の機能不全と自民党の政策提示力の低下に打つ手はあるのか

星浩 政治ジャーナリスト

 総務省幹部が放送関連会社の役員を務める菅義偉首相の長男らから接待を受けていた問題は、国会で追及され、総務省幹部の懲戒処分や内閣広報官の給与返納などに発展した。外務事務次官を務めた藪中三十二氏は民放テレビの報道番組で「官僚の接待が問題となった20年前の感覚がいまだに残っていることが驚きだ」とコメントしていた。まさに時計の針を戻したような接待スキャンダルである。

 おりしも、新型コロナウイルス対策をめぐるデジタル化の不備や世界的に進む温暖化対策への対応の鈍さなど、日本政治の立ち遅れが表面化している。安倍晋三政権とそれを引き継いだ菅政権が招いた「時代遅れの日本」があぶりだされてきたといえる。

旧態依然の接待が繰り返された総務省

衆院予算委に出席した接待を受けた総務省の幹部4人=2021年2月22日

 総務省幹部の接待疑惑は、週刊文春がスクープした。総務省の事務方ナンバーツーである谷脇康彦総務審議官ら4人が、映画製作・配給会社である東北新社で衛星放送などの業務を担当する菅首相の長男らから料理屋で接待を受け、タクシー券や手土産も受け取っていたという内容だ。

 官邸で首相の記者会見を取り仕切る山田真貴子内閣広報官も、総務審議官だった当時に1人7万円を超える接待を菅氏の長男らから受けていたことが判明。総務省幹部との癒着の根深さを物語っている。

 霞が関の官僚と業者との癒着は、1990年代の大蔵省(現財務省)スキャンダルで極まった。銀行や証券会社が大蔵官僚を接待し、「ノーパンしゃぶしゃぶ」という言葉が癒着の象徴となった。それを受けて、公務員倫理法や倫理規定が整備され、利害関係者との接触は厳密に規制された。霞が関の官僚たちには「業者と飲み食いしたらアウト」(局長の一人)という意識が広がった。

 ところが、総務省では旧態依然の業者による接待が繰り返されていたのである。原因は明らかだ。

 総務省は菅氏が副大臣と大臣を務め、官房長官時代も大きな影響力を維持してきた。「菅氏の直轄地」(総務相経験者)といわれる。長男を通じて衛星放送などの事業拡大を狙った東北新社と、菅氏の意向を忖度(そんたく)して接待に応じれば出世の道も開けると計算した官僚たち。双方の思惑が癒着につながったのである。

 総務省でも山田氏や谷脇氏らは旧郵政省出身。旧自治省出身者の中には東北新社との癒着を苦々しい思いで見ていた官僚たちもいたという。

安倍・菅政権の「刷新」と「時代遅れ」の二面性

 総務省で国家公務員倫理規程に反する接待が続いていたのは、安倍政権の後半から菅政権にかけてである。アベノミクスによる経済政策が進められ、1億総活躍や地方創生、働き方改革などの看板が次々と掲げられ、後継の菅政権では「既得権益打破」「前例踏襲打破」が叫ばれた。その裏側で旧態依然の官業癒着が繰り広げられていたのである。

 安倍・菅政権は政策の「刷新」を掲げていたのに、具体的な刷新は進まず、「時代遅れ」の部分を引きずってきた。その「二面性」が際立つ。各論に目を向けてみよう。

 安倍政権末期のコロナ対策はスムーズに進まなかったが、例えば、感染者についての保健所のデータがファクスで都道府県に送られていた。一律10万円の給付金を配る際も、住民基本台帳と銀行口座が連動しておらず、マイナンバーを使っても、紙の住民基本台帳との照合に手間取るなどして、給付には長い時間がかかった。安倍政権下で進めていたはずだったデジタル化は、世界水準に比べて大きく立ち遅れていたことが露呈した。

 菅首相が「感染対策の決め手」と位置付けるワクチン接種が、医療従事者を対象に始まったが、高齢者らへの接種は当初の予定から大きく遅れている。接種するワクチンは米国のファイザー社製や英国のアストラゼネカ製に頼る。日本政府が研究開発に多額の助成金を支出してきた国産ワクチンは間に合いそうにない。

 感染が拡大する中で、医療体制のひっ迫も明らかになってきた。厚生労働省や都道府県が民間病院に感染者の受け入れを求めようとしても、根拠となる法律が整備されていない。感染拡大など緊急時の医療システムが整っていなかった。医師会や病院関係団体など利害関係が入り組む中で、安倍・菅政権は抜本的な医療改革には切り込んでいなかったのである。

 菅首相は就任早々、温暖化対策をめぐって、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロに抑える「カーボンニュートラル」を実現すると表明。内外から一応、評価されたが、その道筋は明確ではない。米バイデン政権をはじめ、世界中で脱炭素を技術革新につなげる動きが急速に広がっているのに比べると、菅政権の取り組みは周回遅れである。

 安倍・菅政権は「女性活躍」を唱えて、中央省庁の幹部に多くの女性を起用した。だが、世界水準には遠く及んでいない。働く女性から強い要望が出ている選択的夫婦別姓制度については、自民党内保守派の抵抗もあって、実現のめどが立っていない。菅首相は一時、選択的夫婦別姓に理解を示したが、自民党内の事情を見て、慎重な姿勢に転じている。まさに「時代遅れ」の典型である。

官僚の能力や情報を生かせず

接待問題をめぐる総務省幹部の処分について記者会見する武田良太総務相=2021年2月24日、東京都千代田区

 時計の針を戻したような官僚接待と、世界水準から大きく遅れをとる各種の政策。「一強」を誇った安倍政権と、霞が関の官僚ににらみをきかせてきた菅首相の政策が「時代遅れ」になった背景に何があるのか。

 第一に、

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