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能吏型政治家・菅首相の限界と活かし方~安倍よりも岸元首相に似ている菅

不況、労働・教育問題、社会保障制度、日中関係……前途多難な局面で必要なことは

五百旗頭薫 東京大学大学院法学政治学研究科教授(日本政治外交史)

 昨秋、高い支持率で発足した菅義偉政権だが、日本学術会議会員候補のうち6人を任命から除外したことをきっかけに、首相の高圧的な政治手法への批判が強まり、さらに「Go To キャンペーン」への固執に象徴される新型コロナへの対応の遅さに非難が集中。さらに首相の長男がからむ官僚接待問題や、コロナ禍での与党議員の会食などの不祥事が続くなど失点続きで、支持率は低迷している。

 さりとて、野党が得点を挙げているかとえいば、さにあらず、国民の不満の受け皿にはなれていない。これはあまりにも言い古された指摘で、言うために口を開けるのさえ億劫(おっくう)なほどである。

衆院予算委で答弁する菅義偉首相=2021年3月1日

失点を重ねたメディアの報道

 しかし、私はこの間一番失点を重ねたのは、実はメディアの報道だと思っている。

 菅が自民党総裁に当選した時、メディアは苦労人として礼賛する報道で大騒ぎした。だが、菅の政治手法に高圧的な面があることは、安倍晋三政権で官房長官をつとめていた時から霞が関の常識であり、まともに取材している記者ならば、皆知っていたはずである。

 案の定、菅の本性はすぐに露見した。そうすると、メディアは騒ぐ。お里は秋田だと騒ぎ、お里が知れたとまた騒ぐ。二度大騒ぎして、メディアとしては「一粒で二度おいしい」のかもしれないが、振り回された読者はいい面の皮である。

 いや、一粒で三度おいしいのかもしれない。「ガースーです」という発言やぎこちない笑顔、答弁の言い間違いや長男の官僚接待問題などで、弱い面、気弱な面が目立ち始めている。いじめっ子と思ったら、いじめられっ子かもしれない――。叩(たた)こうとする者にとって、これほど愉快なことはない。

菅首相とは何者か、何を求めるのか

 コロナ感染者が減り、ワクチンが入り始めた。コロナは小康状態に入るだろう。菅政権も、官僚接待問題がどう展開するか次第ではあるが、恐らく小康状態に入るだろう。とはいえ、ここで気が緩むと、これまでのコミュニケーションの不全がそのままになってしまう。それだと、夏に予定されている東京五輪・パラリンピック(オリパラ)ひとつ、気持ちよくできないだろう。

 オリパラは、たとえばワクチン接種を入国条件にするならば、外国人を入れて開催することも不可能ではないかもしれない。それでも開催への抵抗が根強いのは、オリパラさえ出来れば国民の機嫌がよくなるという、菅政権の算段が見え透いていることもあるのではないか。まだ危機感のある間に、菅首相が何者であるかについての定見を持ち、菅に何を求めるのかを考えた方が良い。

 そうでなければ、「菅イメージ」はまた豹変(ひょうへん)し、国民を振り回すかもしれない。なにしろ、今年の政治には、オリパラと選挙という波乱含みの要素があるからだ。

サプライズの達人、菅首相と小池都知事

 オリパラの開催予定地・東京の小池百合子都知事は、国際オリンピック委員会(IOC)会長を含めた四者会談への欠席を表明することで、東京五輪パラリンピック組織委員会会長・森喜朗の辞任をうながした。開催地の首長には、あなどれない拒否権があることを示した。おそらく7月の都議選を控え、オリパラがあくまで不評な場合の火の粉をどう避けるか、したたかに考えているであろう。

都庁を訪れた東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会〔左)とひじでタッチをする小池百合子知事(右)と=2021年2月19日

 仮にオリパラが中止になった場合、政権へのダメージは計りしれない。それを知る菅は9月に衆議院議員の任期満了を迎える。もちろん、その前に自分から衆議院を解散するという選択肢もある。

 菅も小池もサプライズの達人だと思う。小池は2017年の衆議院議員総選挙において希望の党を育てるのには失敗したが、その後、静かに都政の運営を続け、コロナ禍で見事に復活した。第2次以降の安倍晋三政権で一貫して官房長官をつとめた菅は、発言力を低減させた時期もあったが、安倍との関係を保ち、次期政権をゆだねられた。

 二人とも、死んだふりが得意なのだ。死んだふりが得意というのは、生き返るのが得意だということだ。今年は何が起こるかわからず、菅叩きに一喜一憂している場合ではない。

安倍前首相・菅首相・岸元首相を比較すると……

 安倍と菅はよく比較される。政治スタイルなどが対照的という指摘がある。それは良い。安倍と安倍の祖父の岸信介・元首相を、同じ系譜とみなす先入観もある。間違ってはいない。安倍と岸は、日米関係を重視し、憲法改正を模索したという理念面ではよく似ている。


 三者の関係を示せば、

安倍≠菅
安倍=岸
よって菅≠岸

となろうか。

 だが、最後の式は間違いを含んでいると私は思う。政治スタイルを見れば、岸の本当の後継者は菅かもしれないからだ。

 岸にはニヒルなほどのリアリズムがある。これに対して安倍には、好き嫌いはさておき、まず志やイデオロギーがある。それがつまらないことで妨げられていると感じれば、癇癪(かんしゃく)も起こす。

 もちろん、リアリズムもあり、なにより成功したいという意欲が人並み以上なので、軌道修正はできる。だから言動に振幅があり、それが安倍政権期の政治のドラマを作ってきた。

 その点、岸はもっとそつがない。そつがないと好かれないことも知っており、世間にリップサービスを試みるが、もともと不慣れなので見透かされてしまう。長所も短所も、菅と似てはいないか。

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