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ロックダウンのフランスでマクロン再選に赤信号。ワクチンで挽回できるか?

世論調査で支持を伸ばす国民連合のルペン党首。フィリップ前首相の人気も上がり……

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

 新型コロナの感染増加とともに政治家の支持率、ひいては選挙への影響が出ている。日本の場合、秋までに必ずある衆院選や自民党総裁選の影響はどの程度あるだろうか? 4月初めに3回目の「ロックダウン」に突入したフランスでは、マクロン大統領の再選に赤信号が点滅している。

3回目のロックダウン宣言をするマクロン大統領=2021年3月31日、仏TF1テレビの画面から(山口昌子撮影)

マクロン周辺に衝撃を与えた調査結果

 3月中旬、マクロン大統領周辺に衝撃が走った。大手世論会社Infoが3月18日(木)に発表した世論調査で、「今週の日曜日(3月21日)に大統領選の決戦投票が実施されるとしたら、誰に投票するか」の設問に対し、極右政党・国民連合のマリーヌ・ルペン党首と回答した者が28%と、マクロンの24%を抑えてトップになったのだ。

 昨年10月実施の調査ではルペン24%、マクロン23%で並んでいた。低迷するマクロンを尻目に、ルペンがじわじわと支持を広げ、マクロンの「再選なし」の可能性が示唆されたかたちだ。

ルペン支持の増加はコロナのおかげ

 マクロンとルペンは2017年の前回大統領選(普通選挙、2回投票制)の決戦投票を争った間柄だ。

 フランス大統領選(普通選挙、2回投票制)は、1回投票で得票率が過半数を獲得した者がいない場合、2週間後に上位得票者2人による2回目の投票、つまり決戦投票が実施される。2017年は2回目の投票でマクロンが66.06%、ルペンが33.94%で、マクロンが圧倒的勝利を収めて大統領に就任した。

 ルペンはその後、人種差別標榜の父親ジャン=マリ・ルペンが創設した極右政党のイメージを払拭すべく、党名を国民戦線(FN)から国民連合(RN)に改名するなど穏健路線に変更。最近は「国民全員の大統領」を標榜するため、RN党首も近く辞任して、大統領選に集中する考えを表明している。

 もっとも、ルペンへの支持率が伸びたのは、こうした政策路線の変更より、この1年、吹き荒れた「コロナ」のおかげといえる。つまり、春に2カ月、秋に2カ月の厳しいロックダウンを敢行したマクロン政権に反発する民意が、ルペンへと流れた結果である。今回の4月2日からの最低1カ月の3回目の全国規模のロックダウン実施で、さらにマクロンへの支持が下がる可能性もある。

いったん上昇後、再び下降した支持率

 マクロンが「これは戦争だ」と激を飛ばした1回目のロックダウンでは、外出は自宅から1キロ、1時間以内、外出理由を記入した許可証持参でしか認められず、「死活問題」にかかわる食料品と薬局以外、レストラン、カフェ、美術館や映画館などはすべて閉店・閉鎖されるという厳しい措置が取られた。違反したときの罰金は125ユーロ(1ユーロ=約125円)だ。

 国民が“対コロナ戦”に耐えられたのは、正体不明のコロナへの恐怖に加え、この厳しい措置によってコロナがいったんは収まり、レストランや美術館も夏に向けて順次、再開されたからだ。マクロンの支持率は、暴力デモへと発展した市民デモ「黄色いベスト」(2018年11月から2020年初頭)への対応のまずさなどから20%台に急落していたが、対コロナ政策で成果を上げた結果、40%台に急上昇した。

 ところが、夏のバカンスシーズンになって国民が“浮かれた”せいもあり、秋には再び感染が拡大し、2回目のロックダウンを余儀なくされた。食料品店と薬局に加えて、「テレワーク」用の「IT関係店」の開店が許可されるなど、多少緩和されたが、ロックダウンに倦んだ国民の「反ロックダウン」傾向の高まりもあり、マクロンの支持率も30%台まで再び下降した。

3回目のロックダウンが「ゆるゆる」になったワケ

 マクロンは今回の「3回目」の実施に当たり、感染力や死亡率の高い英国や南アの変異種が急増した結果、「感染者が約450万」、「死亡者も10万」と述べ、「ロックダウンやむなし」を強調した。国民に「命と(ロックダウンの)不自由さとどちらも取るか」と覚悟を迫ったわけだが、春と秋に比較すると今回は「ゆるゆるロックダウン」だ。

 「死活問題にかかわる開店リスト」に、書店・レコード店、花屋、美容院といかにもフランス的価値観で選択された店が加わったほか、外出も10㌔以内までは許可証なしでOK、時間制限もなしだ。レストラン、カフェ、映画館、美術館などは閉鎖中だが、マクロンは演説で、「5月中旬」の開館を示唆して、国民に希望を持たせるのに懸命だった。

 国民の注視の的だった「学校閉鎖」に関しては、復活祭(4月4日)のバカンスと重なることもあり、「保育園から高校までの学校閉鎖」を宣言した。

 フランスでは「子供は親が面倒を見る」が基本で、「鍵っ子」の発想がない。学校閉鎖の場合、低学年の児童がいる家庭では子供の面倒をみるため、母親か父親が「一時的に失業」して子供の面倒をみることになる。失業手当が額が跳ね上がり、経済的影響が大きい。テレワークも、子供の面倒を見ながらでは能率が上がらない。政府も国民も、学校閉鎖はなるべく回避したいというのが一致した意見だ。

 フランス政府のコロナ禍らがみの種々の支援金の総額は、2020年に1600億ユーロ(1ユーロ=約125円)という巨額に達した。国庫は空っぽと言われている。今回の1カ月の外出禁止による支出も「11億ユーロ」(ルメール経済相)と試算されている。マクロンにとって「ゆるゆるロックダウン」は、支持率への懸念はもとより、経済情勢への懸念にも根ざしている。

ジムが閉鎖されたため、公園でボクシングのトレーニングをする人たち=2021年3月26日、パリ8区の公園(山口昌子撮影) 

 そんなこともあり、これまで3回目のロックダウンを回避するため、いくつかの応急措置が取られた。1月中旬にまず、「夜間外出禁止令」が全国的に発令された。午後6時から午前6時までは外に出てはいけない。(3月28日以降は夏時間への変更に伴い午後7時から午前6時まで)。

  3月中旬からは、パリを含む首都圏など16県(10万人の人口に対し400人前後の感染者)に対し、日中の10㌔以上の外出禁止、時間の制限なしを実施。1週間後には19県に拡大したが感染者は増加の一途をたどり、ついに4月2日から全土での外出禁止、ロックダウンに踏み切ったわけだ。もちろん、「夜間外出禁止令」も続行中だ。

もうひとりの“ライバル”、フィリップ前首相

 マクロンにとって頭が痛いのは、ルペンのほかにも「コロナ」で支持率が上昇した“ライバル”がいることだ。

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