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いまさらながらのビットコイン考

いま世界中で暗号通貨をめぐって何が問題になっているか

塩原俊彦 高知大学准教授

 このサイトをご覧になっている読者の多くは「ビットコイン」(Bitcoin)という言葉を聞いたことがあるだろう。

 拙稿「世界の最新ブロックチェーン事情」のなかでも、ビットコインについて説明したことがある。ブロックチェーンと呼ばれる技術を利用した「暗号通貨」として世界でもっとも流通しているものである(なお、暗号通貨はcryptocurrencyの翻訳であり、これを暗号資産と訳すように圧力をかけている日本政府のやり方は批判されるべきであると考えている(詳しくは拙稿「暗号通貨をめぐる翻訳の混乱」を参照)。

 ここでは、同じ2021年6月14日付で、ワシントン・ポスト電子版に「よくある質問と答え:暗号通貨の仕組みを詳しく解説」、ニューヨーク・タイムズ電子版に「ビットコインの残酷な真実」という記事が掲載されたので、この二つの記事を参考にしながら、最新のビットコイン事情を説明したい。これを読めば、いま世界中で暗号通貨をめぐって何が問題になっているかを多少とも理解できるようになるだろう。

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暗号通貨とは何か

 「暗号通貨とは、一般に公開されているソフトウェアによって生成されたコンピューターコードで、オンラインで価値を保存したり送信したりすることができる」というのがワシントン・ポストの記事の説明である。このコードはブロックチェーンと呼ばれる公開記録にまとめられている。

 「ビットコインは、中央銀行や金融機関などの信頼できる第三者の介入を受けずに取引を行う方法として(現在も未確認の個人またはグループによって)つくられた」とニューヨーク・タイムズ記事は指摘している。通貨であるためには、二重使用されないことが絶対条件だから、これをブロックチェーンのアルゴリズムが保証している。

 ブロックチェーンは、これまでに行われたすべての取引を含む大きなファイルで、ダウンロードするのに数日かかることもある。暗号通貨の価値は通常、ドルで表され、取引所が行う公開取引によって決定される。1ビットコインの価格は、5月の約6万ドルから6月中旬に約3万6900ドルになった。同月米東部時間6月22日午前10時時点のビットコイン価格は2万9200ドル程度にまで下落し、3万ドルの大台を5カ月ぶりに下回った(詳しくは日本経済新聞電子版の記事を参照)。

暗号通貨はどのようにしてつくられるのか

 興味深いのは、「ビットコインには本質的な価値がなく、何の裏づけもない」という指摘である。

 ビットコインの上限は2100万枚に固定することが義務づけられている(これまでに1900万枚近くが作成された)から、金と同じように、ビットコインには稀少性があるとの言い分がある。「しかし、稀少性はそれだけでは価値の源泉とは言えない。ビットコインの投資家は、投資から利益を得るために必要なのは、その資産をさらに高い価格で買おうとする人を見つけることだという『大馬鹿者理論』に頼っているように思われる」と、ニューヨーク・タイムズの記事は記している。

 暗号通貨の価値を維持するためには、利用可能な暗号通貨の量を厳密にコントロールしなければならない。暗号通貨を生成するアルゴリズムは、GitHub(ソフトウェア開発のプラットフォーム)などの開発者向けウェブサイトでダウンロード可能であり、理論的にはだれもが新しい暗号通貨を作るために使用することができる。しかし、実際に流通させることができる暗号通貨の量は限られているため、この

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