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習近平総書記演説 米国への「対決宣言」の狙いと背景~中国共産党100周年

台湾問題は譲らない 共同目標は祖国の完全統一  国民との一体感を強調

藤原秀人 フリージャーナリスト

中国共産党の結党100周年祝賀式典が開かれた天安門広場に向かって「100」の形で編隊飛行するヘリ部隊=2021年7月1日、北京

 中国共産党が結党100年を迎えた。香港や台湾をめぐる問題で、欧米や日本との対立が顕著になる一方の中国。そのトップである習近平党総書記は記念式典でどんな演説をするか――。

「売れた喧嘩は買う」と言わんばかりの発言

 世界中が注目するなか、1時間余りの演説をおこなった習総書記だが、「売られた喧嘩は買う」と言わんばかりの強気な発言が続いた。「民主主義陣営」との壁は高く、厚い。

 共産党が記念日と定めた7月1日、「慶祝中国共産党成立100周年大会」が曇り空の北京で開かれた。習総書記は、結党時の党員だった毛沢東が中華人民共和国成立を宣言した同じ天安門楼上で、これまでの百年の歴史を讃え、次の百年の発展を誓った。

 式典は中国時間午前8時(日本時間同9時)ごろから始まった。厳重な警備が敷かれるこのような政治的な大集会の参加者や取材者は、常に開会のずっと前に集合させられる。取材した米ニューヨーク・タイムズの記者は、会場から車で20分ほどにあるホテルで待機して午前3時に出発したと報じた。トイレに行くのも制限されたという。

 式典には習氏ら現役の指導者に加えて、胡錦濤前総書記ら歴代の指導者も天安門楼上に並んだ。天安門前の広場には“共産党予備軍”にあたる共産主義青年団の若者や各界の代表、それに制服姿の軍人らが集まった。早朝から、人によっては過去に何度も予行演習をしたうえでの参加だが、「一生の名誉だ」と感激する人が少なくない。

台湾問題に感じた怒りを含んだ強さ

 私はインターネットのライブ中継を見た。楼上の指導者、長老だけでなく、広場の人たちのだれもマスクをしていないのに驚いた。屋外とはいえ、日本で推奨されているソーシャルディスタンス(社会的距離)は取られていない。新型コロナウイルスを克服したと誇示するかのようだった。

 習総書記の演説は、手あかのついた表現が続き、げんなりとした。だが、米国や日本などから中国側へのけん制が続く台湾問題などでの発言には、怒りを含んだ強さを感じた。「いかなる人も中国人民の国家主権と領土を完全に守るという強固な決心、揺るがぬ意志、強大な能力を見くびってはならない」と力を込めて語ると、7万人あまりと発表された式典参加者から、ひときわ大きな拍手と歓声を受けた。

 中国返還後も大陸に異を唱える香港の「言論の自由」を、欧米などの非難に抗して封じ込めた後、「次は台湾」とばかりの意気込みだ。式典で台湾の防空識別圏にたびたび進入する「殲10」戦闘機が編隊飛行したのが、台湾を意識しているようで、印象に残った。

中国の習近平(シー・チン・ピン)国家主席=2021年4月22日、米国務省ウェブサイトの中継動画

香港の「一国二制度」は軽視

 中国共産党は1921年7月23日から初の党全国代表大会を開いた。「7月1日」はきりがよいこともあって、のちに決められた“誕生日”だ。香港返還の記念日と重なる。

 香港では返還記念日のこの日、民主派による共産党に抗議する集会が開かれてきたが、今年は禁じられた。国家分裂や国家政権転覆、テロ活動、そして外国勢力と結託して国家の安全を害する行為を処罰する「香港国家安全維持法」が、香港議会の審議を経ずに中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会で可決、去年の6月30日に施行された。それ以後、北京の意向に沿わぬ活動は、禁止される前に自粛するケースが増えている。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は北京の式典に出席した。

香港では中国への返還24周年を記念する政府主催の式典が開かれ、共産党100年も祝福した=2021年7月1日、香港

 香港をめぐっては、米国や旧宗主国の英国などから中国に対する批判が続くが、習総書記は演説で「中央の全面的な管轄権を実行する」と語った。香港住民による統治を掲げた「一国二制度」を軽視するかのように、外国からの批判を一蹴した。

 アヘン戦争に敗れて英国に奪われた香港は1997年に中国に復帰した。毛沢東に続く第二世代の最高指導者、鄧小平が英国のサッチャー首相(当時)と返還に合意し、第三世代の指導者、江沢民元総書記が返還式典に臨んだ。

「台湾統一」は習氏のライフワーク

 一方、台湾については、鄧氏が「平和統一」を目指したがかなわず、江氏はミサイル演習に至る台湾海峡危機を招いた。その後の胡錦濤氏は共産党と対立してきた国民党とのトップ会談を実現させた。

 台湾対岸の福建省で長年勤務し、総書記就任後の2015年11月に当時の馬英九総統とシンガポールで歴史的なトップ会談をして「一つの中国」の原則を確認した習氏にとって、台湾問題はライフワークであり、統一はこれまでの指導者がかなえることができなかった、是非とも実現したい夢である。そのために総書記の任期延長を狙っている、との見方もあるほどだ。

 返還を果たし、中国の特別行政区となった香港とは違い、台湾は共産党が建国した中華人民共和国の統治がずっと及ばぬ「不可分の領土」である。

 「台湾問題を解決し、祖国の完全統一を実現することは、中国共産党の永久に変わらぬ歴史的任務であり、中華の人々全体の共通の願望だ」。習氏はこの日の演説でこう語った。

 私は長年、「台湾統一」について、大陸と台湾の人々を取材してきた。台湾の民意が統一から離れる一方、大陸は「統一したい」でブレはほとんどなかった。共産党は経済成長を続けることで民心を掌握してきた。豊かになり、価値観も多様になるなかでも、「台湾統一は民心を束ねる夢だ」という声は根強く、「中国人には台湾問題に介入する米国が統一の最大の障害と見える」(北京大学教授)。

David Carillet/shutterstock.com

共産党員だけを対象にする制裁は現実的ではない

 習氏は「中国共産党と中国人民を分断して対立させようとするどんな企ても絶対思いのままにならない。9500万人余の党員は許さない。14億人余の人民も許さない」と強い調子で述べた。党員と国民の一体感を強調しつつ、米国に向けて発言したに違いないだろう。

 そのうえで、「中国の人民は、外部勢力によるいかなるいじめ、圧力、奴隷のように酷使されることを決して許さない。もしそんなことをしようと妄想すれば、14億人を超える中国人民の血肉で築かれた『鋼鉄の長城』に頭をぶつけ血を流すことになろう」と強烈な表現で訴えた。

 欧米諸国は香港や新彊ウイグル自治区などでの弾圧を理由に、中国側を制裁したり、ちらつかせたりしている。最近はその対象を共産党や党員に絞ってきているが、このような「中国国民分断」は現実的だろうか。

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