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トランスジェンダーを不可視化する日本の選挙制度

多様な性のあり方をどのようにカテゴリー化することが妥当なのか

三浦まり 上智大学教授

 意思決定に女性を増やす方法として、あらかじめ一定数を定めるクオータ(割当制)という方法がある。世界の約130カ国で議会の選挙に導入されている。

 男女別に数を集計する際に問題となるのが、生まれた時に割り振られた性別や男女二元的な性別に異和を感じる人を、どのように数えるのかという点である。日本では候補者や当選者の男女の数は戸籍上の性別を用いて集計がなされているが、性自認で数えるべきではないかという意見もある。性自認を集計する場合は多様な性のあり方をどのようにカテゴリー化することが妥当なのかという論点が浮上する。

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厳格なクオータが実施されるメキシコの場合

 厳格なクオータを実施し、性自認での立候補を認める国ではどのようなルールを用いているのだろうか。参考になるのがメキシコである。メキシコでは厳格なパリテ法(50%のクオータ)を施行しており、下院の女性割合は48.2%で、世界5位となっている(IPU, 2021年4月現在)。そのメキシコで性別を偽って立候補しようとしたケースがあり、トランスジェンダー団体から制度の悪用であるとの抗議の声が上がっている。何が起きたのだろうか。

 2021年5月に、トラスカラ州の地方選挙で「メキシコへ力を(Fuerza por México)」党が男性候補者18人を女性として選挙人登録したところ、選挙管理機構(選挙管理委員会)によって受理された。この18人は当初は男性として登録したが、政党名簿がパリテ(男女同数)の基準に達していないとして却下された。そこで女性として性別変更して申請し直したところ、申請通り受理されたのである。この決定に対して、メキシコのLGBTTTIQ+団体(注1)は、18人の候補者が性別を恣意的かつ疑わしい方法で変更したと批判し、選挙管理機構に抗議している。

 メキシコは2014年の憲法改正で男女同数の候補者擁立を規定し、基準に満たない候補者名簿は選挙管理機構が受理をしないという厳格な仕組みを施行する。そのため、性別を偽称する事態が発生したわけだが、選挙裁判所が存在し、そこが性別の判定を行う権限を有している。今後は選挙裁判所が判断を下すと見られるが、この18人は一旦男性として選挙人登録をしたことを考えると、女性としての立候補が認められる可能性は低いと考えられる。

(注1)
メキシコではLGBTTTIと表現することもあり、これはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスセクシュアル、トランスジェンダー、トラヴェスティ、インターセクシュアルの略称である。「Q+」は「クエスチョニング」「クィア」の頭文字で、アセクシュアルやXジェンダーなどさまざまなセクシャルマイノリティを含む。

不正をただすプロセスも明確化

 メキシコでは似たような案件が2年前にも起きている。ガーディアン紙の報道によると、以下のような経緯であった(注2)。2018年にオアハカ州で立候補した15人の候補に対して、選挙裁判所はトランスジェンダーだと偽ったとして、女性として立候補することは不適格であると判定した。他方、州の選挙管理機構が不適格と認定した2人のトランスジェンダー候補者に対しては、トランス女性としての生活実態があるとして、判定を覆し、立候補を認めた。

 このようなことが起きた背景には、オアハカ州の独特の文化がある

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