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私たちはなぜ入管収容者支援とウィシュマさんの死の真相究明にとりくむのか~千種朋恵さん

ウィシュマさんと面会したSTART学生メンバーインタビュー

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 およそ5カ月前の3月6日、名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33)がなくなりました。入管の対応の問題点が指摘され、世の中の注目が集まりましたが、その陰にあったのが、学生をはじめとする支援者らの地道な面会活動です。ウィシュマさんと面会を重ね、その言葉を聞き、衰えていく様子を目撃していなければ、問題点は浮かび上がらなかったかもしれません。
 面会を重ねた支援団体「START〜外国人労働者・難民と共に歩む会〜」の愛知県立大学支部代表、千種朋恵さん(20)にインタビューしました。朝日新聞ポッドキャストにもご出演いただいているので、そちらもぜひお聞きください。
 《START〜外国人労働者・難民と共に歩む会〜》

 東海地方を中心に、日本で暮らす外国人労働者・難民を支援する、学生と社会人による団体。名古屋入管に収容されている外国人との面会、仮放免された人への家庭訪問、在留資格取得・仮放免許可の申請書類作成の支援などにとりくんでいる。関東を中心に活動する「BOND」(バンド)、関西の「TRY」のメンバーらとともに、「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」を結成し、オンラインによる署名活動を実施している。
 《在留資格》日本国籍をもたない人が日本に滞在するための資格。
 《仮放免》在留資格がなく入管の施設に収容された人が、一時的に収容を解かれること。

Zoomでのインタビューに答えるSTARTの千種朋恵さんZoomでのインタビューに答えるSTARTの千種朋恵さん

「人なつっこい人」 ウィシュマさんの印象

 ――STARTは昨年12月以来、ウィシュマさんと面会を重ね、入管に対して「入院、点滴を」「仮放免を」などと申し入れてきましたね。きっかけは?

 名古屋入管の収容場の同じ区画に収容されている方から、ウィシュマさんのことを聞いて面会しました。体調が悪化してからは2日に1回くらい、できれば毎日、メンバーが会っています。私自身は2月上旬に2回、面会しました。

 ――どんな方でしたか。会ったときの印象は?

 2回とも途中で嘔吐し、面会が中止になったので、「危ない状況だな」と感じました。

 それから、すごくフレンドリーというか、人なつっこい、人に関心を寄せる方なのかなという印象がありました。初めてあった時、ウィシュマさんは「寝ていると支援者の顔が浮かんでくる」と話し、STARTの学生メンバーの名前もしっかり覚えていました。アクリル板越しに私のほうに手を伸ばして、「よろしくお願いします」とあいさつしてくださいました。

 1回目に面会した時はふらついた状態で職員に支えられながら、2回目は車イスに乗って面会室にこられました。ウィシュマさんは「歩けない。だけど職員からは『リハビリだから歩いて』といわれる」といっていました。「ロッカーに預けてある荷物を取りにいきたいから、手伝ってほしい」と職員に頼んだら、「一人で歩いてとりにいって」といわれたと。すでに何回か転倒されていたと思うんですけど、一人で歩くのが怖いから荷物をとりにいけないんだと話してくれました。その時はほんとに怒りというか、「何やってんだ。どこがリハビリなんだ」と強く感じましたね。

 《筆者から》面会記録が語ること

 STARTのホームページでは、メンバーがウィシュマさんとあった面会記録が公開されている。そこには、収容に至った経緯や、ウィシュマさんの様子、語った言葉の要点が記されている。たとえば次のような内容だ(《》は筆者による補足)

 「食べないといけないけど、ご飯も水も吐いてしまう。すぐに助けてください」
 「『帰る《帰国するという》サインをしたら、病院に行かせてあげる』と《入管職員に》言われた」
 「職員から『目が元気だから元気だ』と言われた」
 「職員は、外に出るために、私がずっと嘘をついている(演技をしている)と思っている。だれも私を信用していない」
 「歩けないのにリハビリだから『歩け』と言われている」
 「トイレに行けない、お腹が痛い、口から血が出る。床に転んでそのまま寝た。寒かった」

 STARTは「このままでは死んでしまう。すぐに入院させて点滴を打ってもらいたい」と入管に申し入れたが、実現しなかったという。
 最後の面会予定は3月5日。入管職員から「『動けない』と言っていて、面会室に来られない」との報告があり、面会は中止に。翌6日、「見回り中の職員の呼びかけに反応なし」「緊急搬送された病院で午後3 時25分に死亡」と記され、面会記録が終わっている。

必死に生きようとしたのに、詐病とみなされて

名古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(中央)と妹たち。出国の2日前に撮影したものだという=遺族提供名古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(中央)と妹たち。出国の2日前に撮影したものだという=遺族提供
 ――ウィシュマさんの死について、法務省・出入国在留管理庁が4月に公表した「中間報告」を読んで、どう感じましたか。

 全体を通して、ウィシュマさん本人から点滴や入院の要望はなかった、外部の病院にいった時にも医師から点滴や入院の指示はなかったと主張する中間報告になっています。

 しかしその後、いろんなことが明らかになってきました。たとえば2月5日に受診した消化器内科の医師の診療記録には「(薬を)内服できないのであれば点滴、入院」と書かれていました。なくなる2日前の3月4日に受診した精神科の医師は、入管に仮放免を勧めていました。なぜ中間報告にそういうことを載せないのか、とても疑問に思います。

 中間報告には、ウィシュマさんは入管から出された給食はあまり食べなくても、パンを食べたり炭酸飲料を飲んだりしていたという記述が何度かあって、まるでウィシュマさんは詐病だった、病気のふりをしていたと主張しているような内容です。

 なぜ本人が炭酸飲料とかを購入して食べていたかというと、自分が食べられるものを必死に探していたんです。時には水も吐いてしまうから、砂糖を溶かして試していたようで。でも、パンや炭酸飲料も吐いてしまっていました。

 生きるために必死だったウィシュマさんを詐病扱いし、入管にとって都合の悪い事実は捻じ曲げ、隠蔽している報告書だと感じます。許せません。

入管職員の説明で医療がゆがめられた

 入管の医療にはたくさんの問題があります。外部の病院にいきたいといっても、連れていくかどうかを決めるのは入管側。私たちなら医師に直接、自分の症状や要求を伝えることができますが、被収容者の場合は、医者と患者の関係を入管が支配している状態です。

 ウィシュマさんが亡くなる2日前の3月4日、ウィシュマさんを診察した精神科の医師は、入管職員から「支援者から『病気になれば仮釈放してもらえる』と言われた頃から心身の不調を生じている」という口頭の説明を受け、詐病の可能性があると考えたそうです。このような職員からの説明がなければ詐病は疑わなかったと、この医師は証言しています。医師は入管職員に仮放免を勧めましたが、明確な判断には至らずに「様子見」をした。入管の情報提供によって医師が先入観をもって診察し、結果明確な判断ができなかったと思います。

 さらに、この医師は、診察した際のウィシュマさんの様子は「ぐったりしていた」が、入管職員から「いろいろ検査したが、内科的には問題がない」「体は大丈夫」といわれ、精神科のほうだけみておけばよいと思ったそうです。しかし、実際は、内科では胃カメラの検査しかしていませんでした。もし、このとき適切な診察が行われ、仮放免の判断が医師から出されれば、ウィシュマさんは助かっていたかもしれません。

 入管職員の説明によって医療がゆがめられ、結果、ウィシュマさんはなくなってしまいました。

 ほかの被収容者の方でも、自分がどういう状態で、なんのために薬をもらっているのかもわからずに飲み続けている人もいて、ほんとに危険な状態だと思います。

開示されない映像、どこに民主主義があるのか

 ウィシュマさんの件でも、入管法改正案でも強く感じるのが、どこに民主主義があるんだということです。来日しているウィシュマさんの妹さんたちが、ウィシュマさんが収容されていた居室の監視カメラのビデオ映像の開示を要求していますが、法務省・入管は「保安上の理由」を口実にずっと拒否している。だれがみてもおかしいことがまかり通ってしまっているのが日本の現状です。民主主義がうわべだけのものになってしまっている。より民主的な社会にするために、とくに次の社会を担う若い学生が問題意識をもって声を上げ、行動を起こしていかないと危ないと感じています。

記者会見する学生支援団体のメンバーたち。左から5人目が千種朋恵さん。右から2人目は死亡したウィシュマさんの妹ワヨミさん=2021年7月7日、東京・霞が関記者会見する学生支援団体のメンバーたち。左から5人目が千種朋恵さん。右から2人目は死亡したウィシュマ・サンダマリさんの妹ワヨミさん=2021年7月7日、東京・霞が関

根本的問題は国家による外国人差別

 ――ウィシュマさんは日本語を学ぶために留学生として来日し、DV被害も訴えていました。確かに在留資格は失っていましたが、何か悪いことをしたわけではなく、むしろ被害者ですよね。

 はい。救済されるべき対象でした。

 ――それなのに入管に収容され、犯罪者であるかのように自由を奪われる。刑務所にいる受刑者にも刑期があるのに、入管に収容されている人にはそうした期限もありません。そんな扱いを受けるべき人たちなのでしょうか。面会活動を通じて、どうお感じですか。

 もちろんいろんな方がいらっしゃるんですけど、人間としてできている方がたくさんいると感じます。自分自身が追い込まれた状況なので、自分が外に出たいという気持ちは強いと思うんですけど、それでも周りに関心を寄せて、「自分が収容されている区画に体調不良者がいるから、その人に面会してほしい」「この人は体調が悪いから、まずこの人から外に出せるようにしてくれ」などと私たちに言ってくれる人もいます。先日は収容されている方たちが収容場の中で、ウィシュマさんのビデオの開示を求める署名活動を行いました。ご遺族やウィシュマさんの気持ちを考えると絶対に許せないと動いたのです。

 ――なぜ、そういう人たちを犯罪者扱いしてしまうのでしょうか。

 私たちは「送還一本やり方針」と言っていますが、入管は、個別の事情を考慮せず、いちど入管法に違反した人は一律日本から出ていけ、国に帰れという方針をとってきています。バブルの時には外国人労働者をたくさん受け入れ、非正規滞在者であっても黙認していた時期がありました。しかし、バブル景気が終わって日本人が製造業などの仕事にもつくようになったら、外国人は帰れと。外国人を人としてではなく、都合のいい労働力としかみていない状況がずっと続いています。入管の「送還一本やり方針」のその奥には、国家としての外国人差別があると感じています。

では、どうするか~入管の裁量権を制限しよう

 ――では、どうすべきなのか。入管の強大な権限の制限を唱えていらっしゃいますね。

 根本的には、外国人を差別する政府や入管の体質を変えなくてはなりませんが、そのためには時間がかかると思います。そこで、今からでもすぐにできることとして入管の強大な裁量権を制限しようと主張しています。

 在留資格を与えるか与えないか。仮放免するかしないか。医療を受けさせるかさせないか。すべて入管の裁量で決められてしまっています。たとえば仮放免が不許可になったとしても、理由を聞いても教える義務はないから、どういった審査がおこなわれているかもまったくもって私たちにはわからない。そういったところがほんとに問題だと思っています。

 ウィシュマさんも、入管の「送還一本やり方針」と巨大な裁量権の中で生まれた犠牲者といえるでしょう。制限しないと、次の犠牲者が現れてしまいます。

では、どうするか~当面とるべき3つの対応

 ――当面の対応として、長期収容をやめて仮放免すること。国際基準に基づく難民認定をすること。また在留特別許可の認定基準を大幅に緩和することも唱えています。

 《難民認定》紛争や人権侵害などのため、母国から逃れざるをえない「難民」と認めること。日本で2020年に認定されたのは47人、認定率は0.5%。欧米と比べ際だって低い水準にある。
 《在留特別許可》法務大臣が、その人の事情を考慮して日本での滞在を認めること。

 入管に裁量権があるままでもできることとして挙げています。収容が6カ月を超えると拘禁反応が出るといわれ、精神的な面でも追い込まれる人がいらっしゃる中で、入管としてはそれでも収容し続ける。どこかが痛ければ痛み止め、眠れなかったら睡眠導入剤、精神安定剤、薬漬けの状態にして無理やり収容を続けています。まともな医療が受けられない中で、体調不良者の症状は進行していきます。適切な医療を入管で受けさせないのであれば、早く仮放免しなければなりませんし、1年を超えるような長期収容者についても同じです。

 あとは、ずっといわれていることですけど、日本の難民認定率は低すぎます。

 実際に難民申請しても難民として認められず、仮放免の状態で暮らしている方も多くいます。国際基準にもとづいた難民の受け入れをすることで、救済されるべき人は救済されるようにするべきです。

 それから、仮放免者の事情を個別にみていくと、たとえばすでに30年日本に住んでいて生活基盤が日本にある、国に帰っても頼れる人がいない、家族が日本にいるとか、道理の通った日本在留の理由がある方がほとんどです。個別の事情をみて在留特別許可を認めれば、長期収容の問題、長期仮放免の問題、仮放免者の増大という問題も解決できるんじゃないでしょうか。

 入管側が先の入管法改正案で、長期収容と仮放免者の増大の解決案として出してきたのが帰国を拒否している人に刑事罰を与えるといった、送還一本やり方針を強化するものでした。しかし、国に帰れない人は結局帰れません。これでは、その人たちを追い込むだけで問題の解決にはなりません。日本に残る道理のある人は残れるようにすることで、この問題は解決できると思います。

 ――仮放免だと働けませんが、生活のために働かざるを得ない人もいるでしょう。長期の仮放免が違反を招いている気がします。

 本来仮放免というのは一時的に外に出る制度であって、10年も20年も仮放免者であること自体おかしいんです。在留特別許可という制度を適切に運用して、残れる人は残れるようにしなきゃいけないと思っています。

「おかしい」と声を上げられるのが学生だった

記者会見で、ウィシュマさんに関する資料を示しながら、出入国管理法改正案に反対を表明するSTARTの千種朋恵さん(左)とBONDの菊川奎介さん=2021年5月6日、東京都千代田区記者会見で、ウィシュマさんに関する資料を示しながら、出入国管理法改正案に反対を表明するSTARTの千種朋恵さん(左)とBONDの菊川奎介さん=2021年5月6日、東京都千代田区

 ――こうした問題に関心をもつきっかけは?

 大学1年生の時に、STARTの社会人メンバーの方たちが「難民の話を聞く会」という企画を大学で開いてくださって、そこに参加したのがきっかけでした。日本にきてすでに20年、難民申請もしたけれど通らず、仮放免の状態で10年暮らしている方に直接話を聞きました。その時、入管の収容場の実態、たとえば外の病院に行く時にも犯罪者のような扱いを受ける。腰の後ろで手錠

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