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グリーン税制をめぐる世界の潮流

またも場当たり的でお粗末な日本

塩原俊彦 高知大学准教授

 地球上にある炭素(カーボン)の総量をこれ以上、増やさないように、温室効果ガスの排出を抑制するだけでなく、排出された二酸化炭素を吸収することで、結果的に排出量を全体としてプラスマイナス・ゼロにするという「カーボンニュートラル」を本気で実現するためには、さまざまな税制改革が必要となることは明らかだ。

 何しろ、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換が進めば、ガソリン税(揮発油税と地方揮発油税、図1参照)そのものが大幅に減ることになり、このままの税制はそもそも維持できない。加えて、いわゆる「カーシェアリング」の浸透も、自動車関係税の減少につながるだろう。ここでは、グリーン税制のうち、とくに自動車にかかわる税制の世界的な改革の動きを解説しながら、日本の遅れた改革議論を批判したい。

不可思議な日本の議論

 2020年10月26日、首相に就任した菅義偉はその所信表明演説において、「グリーン社会の実現に最大限注力してまいります」としたうえで、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」とのべた。同年11月、菅は主要20カ国・地域首脳会議において、2050年までに温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする目標を掲げ、脱炭素社会の実現を今度は世界に向けて宣言するに至る。

 官邸のサイトには、「グリーン社会の実現」なるページが設けられ、宣言の実現に向けた方向性が示されている。その柱となるのは、①革新的なイノベーションの推進、②エネルギー政策の推進、③グリーン成長戦略の実行計画、④グリーン成長に関する情報公開、⑤脱炭素ライフスタイルへの転換、⑥新たな地域の創造――というのがそれである。だが、「税制グリーン化」というきわめて重要な柱が抜け落ちている。

 実は、環境省は2012年から、環境面から望ましい税制のあり方について総合的・体系的な検討を行うことを目的として、「税制全体のグリーン化推進検討会」を設置し、いまでも同検討会は存続している。そうであるならば、なぜ「グリーン社会の実現」に「税制グリーン化」戦略が入らなかったのか。「小泉進次郎大臣がいかにマヌケであるかがわかる」と書くと、「言い過ぎである」との批判を受けることになるかもしれないが、税制改革なし「グリーン社会の実現」を達成することはできないのだから、税制の面からこの問題に積極的に取り組むことは当然であると指摘しなければならない。

 おそらく環境省と財務省はこの問題にタッグを組んで、強力に問題解決に取り組まなければならないはずだ。だが、財務大臣が世襲政治家の代表格、麻生太郎であることも、日本にとって大きな不幸ということになる。

欧州の取り組み

 2012年に環境省が前記の検討会を設置したのは、経済協力開発機構(OECD)の2010年に出した報告書(Taxation, Innovation and the Environment, OECD, 2010)を受けたものである。環境省に先見性があったわけではないが、世界の潮流に合わせて日本政府も何かをしなければならないという問題意識は強かったと考えられる。

 この報告書の「政策概要」によると、「課税は最小限のコストで環境目標を達成できる」のであって、だからこそ環境問題にかかわる政策目標を達成するには税制改革が不可欠な

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