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入管での面会で感じる「同じ人間なんだ」~BOND学生メンバー・菊川奎介さん

声を上げ、行動を起こす人が増えれば変わると信じて

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 名古屋入管に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんの死の真相究明や、入管法改正案への反対運動でめだつ若者たちの姿。そのひとりが「BOND~外国人労働者・難民と共に歩む会〜」の学生メンバーで、早稲田大学政治経済学部4年の菊川奎介さん(21)です。
 ノルウェー留学で知り合ったシリア難民や、入管での面会活動で出会う人たちに「同じ人間なんだ」と気づかされたという菊川さんはいま、「一緒に行動してくれる人が増えれば、政治とか国、入管行政も変わっていく」と確信しています。
 先に公開した「START」の学生メンバー・千種朋恵さん(20)や、高校生だったころに声を上げた宮島ヨハナさん(19)のインタビューもぜひお読みください。朝日新聞ポッドキャストでもこの問題について、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんをはじめ、シリーズでお話を聞いています。
 《BOND(バンド)~外国人労働者・難民と共に歩む会〜》
 関東地方を中心に、日本で生活する外国人労働者・難民を支援する、学生と社会人による団体。入管に収容されている外国人との面会、仮放免者への支援、入管問題の解決に向け、より多くの人に入管収容の実態を伝える情報発信活動などにとりくんでいる。東海を中心に活動する「START」、関西の「TRY」のメンバーらとともに、「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」を結成し、事件の真相究明のためのビデオ開示、再発防止の徹底を求めてオンラインによる署名活動を実施。8月13日に当日までに集まった5万筆を超える署名を出入国在留管理庁に第1次提出した。10月1日の2次提出に向け、署名を継続している。

Zoomでのインタビューに答える菊川奎介さんZoomでのインタビューに答える菊川奎介さん

動かぬ証拠=ビデオ映像の全面開示を

 ――出入国在留管理庁が、ウィシュマさんの死に関する最終報告を公表しました。また、亡くなる前のおよそ2週間の監視カメラのビデオ映像を2時間に編集し、遺族に開示しました。ベッドから落ちて助けを求めるウィシュマさんを床に寝かせたままにしたり、死亡当日、ぐったりしているところに「ねえ、薬きまってる?」と話しかけたりしていたということです。

 最終報告書とビデオを見られたご遺族の発言から、入管職員の外国人嫌悪感情と人権意識の欠如を率直に感じました。「ヒト」を「ヒト」として扱わない、そんな入管の持つ体質を「変えなければいけない」という国民の声が、今回の5万筆を超える署名に込められている。日本人としての恥ずかしさや怒りがこもっていると感じています。

 ご遺族のお話によると、映像と最終報告書の内容には食い違いがあるといいます。何が本当に起こっていたのかを知るためには、ビデオの全面開示が絶対に必要です。入管自身による、入管に都合良く解釈された調査報告書ではなく、動かぬ証拠である2週間分の映像記録の公開が、ご遺族をはじめ私たち学生・市民全員が求めているもの。それこそが再発防止策を講じるカギになると信じています。

 ウィシュマさんの問題はまだ解決されていません。BONDも参加している「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」は、さらなる真相の究明や再発防止の徹底を求める集会を8月21日にオンラインで開催します。若い世代を中心に、この問題に関心を寄せる全国の人たちが一堂に会し、世論の波を起こしたいと思っています。ぜひご参加ください。

出入国在留管理庁に5万筆余りの署名を提出したあと、記者会見する「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」のメンバーら。後列中央はウィシュマさんの妹、ポールニマさん=2021年8月13日、東京・永田町出入国在留管理庁に5万筆余りの署名を提出したあと、記者会見する「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」のメンバーら。後列中央はウィシュマさんの妹、ポールニマさん=2021年8月13日、東京・永田町

ノルウェーで感じた、日本に住む外国人の生きづらさ

 ――菊川さんご自身、難民や外国人労働者の問題に関心をもつようになったきっかけは?

 2019年夏から、ノルウェーに留学した経験が大きかったです。そこでたまたま移民・難民を取り扱う科目に出会い、その授業がおもしろかった。ヨーロッパ諸国の先進的な移民・難民政策を知り、ノルウェーから日本の状況を調べて、技能実習の問題だとか、日本にいる外国人の生きづらさをすごく感じました。

 それから、寮の仲間にシリア人の難民の方がいたんです。「フラットメイト」と呼ぶんですが、部屋が同じ階にあって、キッチンをシェアしていました。彼は大学で学びつつ、自分で生計を立てていました。

「難民を色眼鏡でみていた」と気づかされて

 最初は難民だとは知らなかったんですけど、「こういう勉強をしている」と彼にいったら、「私はシリアから難民としてきている」と聞かされて、すごくびっくりしました。

 自分の中でイメージしていた難民は、布きれ一枚というか、かわいそうな、助けなきゃいけない存在だったんです。でも、彼は身なりもしっかりしているし、話もおもしろいし、料理も得意。ご飯をつくってくれたりしていたんですが、おいしくて。語学もペルシャ語や英語、ノルウェー語に堪能です。

 難民を色眼鏡でみてしまっていたんだな、自分と変わらない人間なんだなと、衝撃を受けました。

閉じ込められているのは、もったいない

 ―― BONDに入ったのは?

 今年の1月です。帰国後も移民・難民問題に重きを置いて勉強しているのですが、講義とかテキストからは学べないことを活動を通して学びたいという思いがあって。それが大きな理由ですね。

 ――BONDの活動で、とくに印象に残っていることはなんですか。

 毎週の面会活動を通じて「同じ人間なんだ」と、すごく感じているところです。母国でやってこられたこと、お仕事、ご家族のこと、夢……。言葉が通じない時もあるんですけど、一所懸命「こういうことをしたい」「これが好きなんだ」と伝えてくれると伝わります。そういう話を聞くと、同じ人間だし、「外国人だから」「肌の色や言語が違うから」と差別をするのはおかしいと思う。

 ――中でも忘れられない方はいますか。

 いつもたくさんお話しをしてくださる中東出身の方がいます。6カ国語近く話せる教養のある方で、学ぶことが多くて。この前、「いま本を書いている」とおっしゃっていました。彼のような魅力的な人が収容施設に閉じ込められているのは、すごくもったいないというか、社会に出たらできることはいっぱいあるのになと感じています。

 多様な価値観をもった人が集まって、一緒に社会を築いていけたら、もっともっと魅力的な日本になるし、おもしろい発展につながるはずです。そのためにも、国は在留資格を与えるべきです。

生まれた時から「仮放免」の学生の境遇

 ――BONDの「仮放免者の話を聞く会」では、仮放免のご両親のもと日本で生まれた大学生の話も聞いていますね。「note」で公表されている報告をみると、生まれた時から仮放免状態で住民票をもてず、都道府県をまたぐ移動には入管への事前申告と許可が必要。そのため本当に入学試験を受けられるのかに不安があったり、校外学習や修学旅行の際にも許可が必要だったり、就職活動の準備もできなかったりする状況が記されています。

 その会には自分も参加しました。自分と同じ年代で、共感するところが多くて。就労が認められず、就職活動の選択肢すらないのですから。印象的だったのは「将来がまっくらだ。この先がみえない」という言葉です。日本でこれだけ長くすごしてきて、文化も染みついて言語も堪能で、それでも教育段階が終わったあと将来を築いていけない。想像するのも難しいくらい、つらいことだろうなと感じたのを覚えています。

 ――友人には、仮放免状態であることをオープンにできていないのだとか。ひょっとすると、私たち自身の身の回りにも、同じような境遇にいるのに明かせずに暮らしている子がいるのかもしれませんね。

ブラックボックス化している入管施設内の処遇

ウィシュマ・サンダマリさんの死の真相究明と再発防止を求めるスタンディングで話す菊川奎介さん(左から2人目)。右隣はウィシュマさんの2人の妹=2021年7月30日、東京・霞が関の法務省前ウィシュマ・サンダマリさんの死の真相究明と再発防止を求めるスタンディングで話す菊川奎介さん(左から2人目)。右隣はウィシュマさんの2人の妹=2021年7月30日、東京・霞が関の法務省前

 ――日本の入管行政のあり方にどんなことを感じていますか。

 入管の収容施設内はブラックボックス化していて、どんな処遇を受けているのか、ぼくたちは話を聞くことでしか把握ができません。ウィシュマさんの時もそうでしたけど、医療とか食事は問題が大きいんじゃないかと推測しています。「ホームページに載っている食事の写真とはぜんぜん違う」とか、入管内での医者の態度もあまりよくないとよく聞きますから。

 もう一点挙げると、よくお会いする人たちに「仮放免申請はどうなったの?」と尋ねると、「だめだった。却下の理由はわからない」と毎回、言っていて。理由を聞いても答えてくれないそうです。それではストレスが大きいでしょう。仮放免の基準が明確化されていないところに問題を感じます。

どうしても帰国できない人を帰す入管法改正案

 ――事実上、廃案になった入管法改正問題についてはどう感じていましたか。

 この法案は、いままでの入管の「送還一本やり」の方針をさらに強めるものでしかありません。とくに問題なのが、難民申請が3回以上になると、申請手続きの途中でも強制的に送還できるようになることです。ぼくも面会活動で、宗教的、民族的な状況などのため、どうしても帰国できない人を多くみています。複数回申請している方も多く、そういった経験からもこの法案は通してはいけないなと思っていました。

 ――それで入管法改悪に反対するシットインにも参加なさったのですね。弁護士や著名人とともに、廃案を求める5月6日の記者会見に参加なさっていました。

 はい。

記者会見で、ウィシュマさんに関する資料を掲げる菊川奎介さん(右)。左はSTARTの千種朋恵さん=2021年5月6日、東京都千代田区記者会見で、ウィシュマさんに関する資料を掲げる菊川奎介さん(右)。左はSTARTの千種朋恵さん=2021年5月6日、東京都千代田区

世間が声を上げたから、廃案が決まった

 ――問題を解決するために、どうしたらいいのでしょうか。

 個人レベルで何ができるかを考えると、声を上げて行動

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