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総裁選から見える人材の払底と政策の行き詰まりという自民党の「素顔」

課題は厳しくなっているのに自民党政治家の力量は弱まっているギャップこそが課題

星浩 政治ジャーナリスト

 総裁選は自民党の素顔を見せる――。政治記者として長年、自民党を取材してきた身として実感することだ。岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎規制改革担当相、野田聖子幹事長代行(立候補表明順)の4人が争う今回の総裁選。17日に告示され、29日の投開票に向けた論戦が続く。

 このところ、テレビや新聞は連日、各候補の動きを派手に伝えている。だが、目を凝らしてみると、見えてくるのは、自民党の政策の行き詰まりと人材の払底という「素顔」である。

自民党本部 yu_photo/shutterstock.com

総裁選の原点は政府・自民党の「コロナ失政」

 そもそも、この総裁選はなぜ行われているのか。

 仮に菅義偉政権の新型コロナウイルス対策が万全であれば、①首相就任から1年に過ぎない菅氏は、無投票で総裁に再選されて衆院の解散・総選挙に挑む、②早めに解散・総選挙に踏み切り、総裁選は無投票再選する――のいずれか展開になる可能性が大きかった。現実は、菅政権のコロナ対策が行き詰って国民の批判を浴び、支持率が急落。解散もできないまま、菅首相が総裁選不出馬を表明した。

 それを受けて、各候補や派閥が入り乱れての総裁選となったのである。政府・自民党の「コロナ失政」が総裁選の原点であることを忘れてはならない。

病床不足への具体的対応策がないコロナ政策

インタビューに答える自民党の岸田文雄前政調会長=2021年9月15日、東京・永田町
報道各社の質問に答える河野太郎行政改革相=2021年9月16日、国会内

 そのうえで、岸田、高市、河野、野田4氏の政策を見てみよう。まず、コロナ対策だ。

 岸田氏が健康危機管理庁の設置、高市氏がロックダウン(都市封鎖)法制の検討、河野氏が大胆な人流抑制策などを掲げている。コロナの感染が広がり始めてから1年半が経ち、「第5波」が猛威を振るったにもかかわらず、4候補のコロナ対策は厚生労働省の機構見直しには触れているものの、感染対策自体は抽象的だ。

 とりわけ、感染が拡大しても病床が確保できない事態となっているのに、具体的な対応策が示されていないのは問題だ。

 医療制度に詳しい厚労省の香取照幸・元年金局長は、政府のコロナ対策について、「昨年、コロナの感染拡大が始まった段階で即座に『危機管理モード』に切り替え、来るべき感染爆発に対応できるよう、今ある医療資源を集中動員できる体制の構築に着手すべきだったと思います」と述べている(月刊「文藝春秋」10月号)。国や都道府県が、民間病院や開業医に指示を出して医療体制を強化すべきなのに、そのための法律などが整備されていない現実を指摘したものだ。

 にもかかわらず、4候補の政策には「医療資源の集中動員」のための法改正といった具体案は見られない。医療問題に詳しい自民党の中堅議員は「医師会への配慮だ」と指摘する。自民党の有力支援団体である医師会は、国や都道府県からの指示による「集中動員」に慎重だ。それゆえ、その意向に反するような政策は打ち出せないというのだ。

 歴代の自民党は、支持層が反対する政策でも、中長期的に必要と判断すれば断行したこともある。竹下登政権(1987~89年)は多くの関係者が反対する消費税導入や牛肉・オレンジの市場開放を進めた。小泉純一郎政権(2001~06年)は、特定郵便局が反対する郵政民営化を強行。金融機関が抵抗した不良債権の処理にも踏み込んだ。それに比べ、今回の総裁選では、医師会という支持基盤の利益に切り込む姿勢は見えない。

各候補の主張に違いがにじむマクロ経済政策

 原発政策は、河野氏が持論の「脱原発」を封印したため、対立点にはなっていない。小泉純一郎氏が3度挑んだ総裁選で郵政民営化の主張を変えなかったことに比べれば、迫力不足は明白だ。野田氏は子育て政策の充実を唱えているが、争点になるかどうか。そんな中、マクロ経済政策では、かろうじて違いが見える。

 高市氏が金融緩和を軸としたアベノミクスの継承を唱えるのに対して、岸田氏は金融緩和を継続するとしながらも、「新自由主義的政策を転換」とアベノミクスから距離を置く。河野氏はその中間に位置している。

 自民党総裁選で経済政策の違いが明確になったのは、小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎各氏が争った1998年。「凡人、軍人、変人の争い」と田中真紀子氏が揶揄して話題を呼んだ。

 不良債権の処理をめぐって、小渕氏が政府と金融機関の協力による「ソフトランディング」を唱えたのに対して、梶山氏は業績回復の見込めない企業に退場を迫る「ハードランディング」を主張。結果は小渕氏の当選となったが、その後、自民党内の論争につながっていった。

一連の不祥事をめぐる論争を深めよ

オンラインで地元の奈良県の議員らと話す高市早苗氏=2021年9月16日、国会内
自民党総裁選への立候補を表明する野田聖子幹事長代行=2021年9月16日、東京・永田町

 今回の総裁選で問われなければならないのは、安倍晋三・菅義偉政権で相次いだ森友学園問題、「桜を見る会」などの不祥事への対応である。しかし、岸田氏が森友問題の再調査は必要ないと表明したのに続いて、高市、河野両氏も再調査を否定した。元法相の河井克行・案里夫妻の選挙違反事件も深刻だ。自民党の資金を1億5千万円もつぎ込んだ経緯は、いまだに明らかになっていない。

 一連の不祥事が突きつけるのは、公文書の改ざんや国会での首相の虚偽答弁、政党交付金を含む政治資金の使途といった、民主主義のルールに関わる深刻な問題である。

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