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人間として扱え! 衆院選で問われている、至極あたりまえのこと

この国に足りない「人権」を根づかせる一歩に

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 この衆院選で何が問われているのか。思い浮かべることは、人それぞれだと思う。

 けれども、多くの人が望むのは、つまるところ、人間らしく生きられることではないだろうか。言い換えれば、「人間の尊厳」と「人権」の保障である。

 豊かか貧しいか。どんな働き方をしているか。性的指向が同性か異性か。国籍や障がいの有無……。人にはさまざまな違いがあるけれど、どんな状況に置かれていても、人間らしく生きる権利がある。

 しかし、残念ながらその権利はいまだお題目だ。現実のものにするには、どうすればいいか。

 私の権利は守りたいけれど、あなたの権利には関心がない。そう思っていたら、おそらく手に入らない。なぜなら、踏みにじられるのはたいてい、数の少ない側、権力をもたない弱い側だからだ。

 だれかの権利を守らない国は、あなたの権利も、私の権利も守らない。置かれた状況はそれぞれに違っても、「人間として扱え」という共通の目標に向かって力をあわせる。その力が大きくなれば、動かなかった重い扉も開くに違いない。

東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されていたクルド人男性のデニズさんが2019年1月、入管職員に「制圧」される映像から。弁護士提供

「痛いか!」「いたぁーーーーいっ!」 入管に映る日本の人権状況

 この社会の中でも、著しく権利を制限されている一例が、日本に在留する資格をもたない人たちだろう。裏返せば、そうした立場の人たちも人間らしく生きられるかどうかは、その国の人権状況を表すメルクマールとなる。

 その点、日本は落第といわざるをえない。いかに日本に「人権」が根づいていないかを端的に表している。

 出入国在留管理局の収容施設の中で何が起きているのか。一端がわかる映像がある。

 おおぜいの入管職員がたった1人の男性をねじ伏せ、後ろ手に手錠をかけ、口をふさぎ、首に指をねじ込む様子が映っている。

 「はい制圧!」「ワッパをかけろワッパ!」「痛いか!」

 男性が悲鳴を上げる。

 「空気入らない!」「やめて、痛い、いたぁーーーーいっ!」

 茨城県の牛久にある東日本入国管理センターに収容されていたクルド人男性のデニズさん(42)が2019年1月、入管職員に対し、眠るための薬を求めたところ別室に運び出され、「制圧」される映像だ。デニズさんが暴行を受けたとして国に損害賠償を求めた訴訟で、国側が証拠としてこの映像を提出した。2分ほどに編集してあるので、自分の目でみてほしい。

東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されていたクルド人男性のデニズさんが2019年1月、入管職員に「制圧」される映像。デニズさんが暴行を受けたとして国に損害賠償を求めた訴訟で、国側が証拠としてこの映像を提出した(原告側弁護士提供)

泥棒してない。人間殺してない。何のために私、つかまった?

 次の映像もご覧いただきたい。デニズさんにインタビューした映像を3分ほどに編集したものだ。

 デニズさんは、こんなことも言っていた。

 「何やった私? 泥棒してない。人間殺してない。痴漢じゃない。何のために私、つかまった? 私が悪いんだったら裁判して。私、刑務所に入りたい。なんでここ(入管の収容施設)に入る? 何もしないで3年も4年もつかまるのはいちばん精神的に悪い」

 人を傷つけたわけでも、物を盗んだわけでもないのに、裁判を経ることもなく、自由を奪われる。期限の定めもないから、いつになったら出られるのか、さっぱりわからない。そんな状況に置かれたら、あなたは絶望せずにいられるだろうか。

入管に収容されていたときの体験や、仮放免後の暮らしについて語るデニズさん

ペットだって、ずっとオリに入れられていたら

 デニズさんはトルコでの迫害から逃れるため、2007年に来日した。日本を選んだのは「安全で平和なよい国」だと聞いたからだ。

 日本人の女性と結婚したが、入管は夫妻を引き裂き、デニズさんを4年にわたって収容した。収容の理由について、職員から「日本でオリンピックが開かれる。日本の安全のために(施設から)出さない」と聞かされたという。生きるためにめざした「安全な国」は、安全の名のもとにデニズさんの自由を奪い、閉じ込めたのである。

 妻が面会に訪ねるたび、デニズさん

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