メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

自滅した立憲民主党に起死回生はあるか~枝野代表辞任後の展望

来夏の参院選で与党を過半数割れに追い込めるか。若手の人材活用の態勢づくりがカギ

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 衆院総選挙が終わった。今回の総選挙では、「入れたい政党がない」とか「与野党どちらにも入れたくない」といった声を数多く聞いた気がする。小選挙区の投票率が55.93%と戦後3番目の低さにとどまった背景には、政党への不信や戸惑いを隠せないそうした世論があったのだろう。

与党体制が強化された総選挙

 結果的には、現在の与党体制が安定し強化されることになった。自民党は公示前より議席を減らしたものの、過半数はもとより国会を安定的に運営できる「絶対安定多数」(261議席)を獲得。公明党と合わせた与党では293議席の多数の議席を得た。

 甘利明幹事長が小選挙区で敗北(比例区で復活当選)したのを受けて辞任、後任幹事長に茂木敏充(外相)氏を起用したことで、岸田文雄首相は指導力を一段と強めるであろう。くわえて、長老、ベテラン議員が次々と引退、あるいは選挙で落選し、新人議員が増えたことも、岸田首相の求心力を高めるに違いない。

 その一方で、野党第一党の立憲民主党は公示前勢力に届かず、予想外の100議席割れと、事実上の敗北を喫した。その責任をとる形で枝野幸男代表は2日、党執行役員会で辞任を表明した。この事態を世論は当然と受け止めただろう。

執行役員会で辞意を表明する立憲民主党の枝野幸男代表=2021年11月2日、国会内

躍進した維新が政局の鍵を握る

 今回の選挙結果の注目点の一つは、日本維新の会が公示前の11議席から41議席へと4倍近く増え、公明党の31議席をも上回ったことだ。野党第3党となり、今後、岸田政権に微妙な影響を与えるのは明らかだ。

 これで維新は自民党にとって公明党に代わりうる連立の相手として浮上した。その結果、公明党が自民党の政策や政権運営に不満を抱いても、自民党に転換を迫ることが難しくなり、連立政権内での自民党の主導力が強まることが予想される。また、自民党内で維新との連立を期待する声が強まる公算もある。自民党は公明党に対し強い立場に立ち、公明党が自民党に対して弱くならざるを得ない。

 自民党内には、今後の総選挙で維新との闘いを避け、両党の合流を願う人も多くなるのではないか。今回の躍進によって、維新が今後の政局の鍵を握ったと言っていいだろう。

総選挙の結果から予想される政治の展開

 岸田首相は総選挙による党の内外の変化により、今後の政権運営を巡る環境が格段に好転したと肌で感じているだろう。新型コロナウイルス感染症の先行きは依然、不透明だが、総選挙がもたらした好環境でなんとかしのぎ、政権公約に掲げた政策の幾つかを来年度予算に盛り込んだうえで来夏の参院選に臨めば、新政権の展望が開けると期待をしているはずだ。

 そして、この参院選で与党が安定多数を獲得できれば、余程のことがない限り、2025年の参院選まで国政選挙はない。おそらく、その年の秋に任期を迎える衆院選との同日選になる可能性も高くなるであろう。

 今回の総選挙の結果は、このような政治の展開を確実視させるものになった。

 こうした政治の流れは、果たして日本の将来にとって好ましいものなのか。決してそうではないとするならば、反転攻勢をかけるのは来年の参院選しかない。

 その際に絶対に必要なのは、新しい流れをつくりだすだけの“力量”を備えた野党が出現することに他ならない。ここで言う力量とは、世論がその政党やリーダーに圧倒的な期待を寄せ、支持をするということである。

当選確実となった候補者の名前に花を付ける自民党の岸田文雄総裁(左から3人目)=2021年10月31日、東京都千代田区の党本部

勢力を伸ばす条件をいかせずに自滅した立憲民主党

 そうした観点から現在の野党をみるとどうだろうか。

 今回の総選挙で、現在の与党体制が支持されたのは、与党の自公人気が高かったからというよりも、野党の人気が格別に低かったからであろう。とりわけ、野党第一党である立憲民主党(立民)に対する不信や不人気が、与党を利することになったと考えられる。

 冒頭で触れたように、立民は今回、公示前勢力(109議席)から96議席へと減らした。比例区において、全176議席のうち39議席しかとれなかったのは、党勢のなさを如実に物語る。誰がどう見ても、「惨敗」であろう。

 安倍晋三、菅義偉と続いてきた現与党政権は、コロナ感染症対策の不手際にくわえ、「政治とカネ」の問題でも世論から不信感をもたれていた。経済政策においても、9年近く続くアベノミクスが成功したとは言えない状態のまま、任期満了に伴う衆議院の総選挙に突入している。

 本来であれば、野党勢力が大きく議席を伸ばして不思議でない条件が整っていたにもかかわらず、立民が現状維持はおろか大幅に議席を減らした原因は、やはり立民自身の側にあるとしか言いようがない。要するに「自滅」である。

衆院選の開票センターで記者会見に臨む立憲民主党の枝野幸男代表=2021年10月31日、東京都港区

「受け皿政党」から脱しきれずに

 国民の多くにとって、立民は旧民主党の「なれの果て」と見られているのだろう。

・・・ログインして読む
(残り:約1262文字/本文:約3272文字)