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難民申請中の送還停止の例外規定を封じた東京高裁判決~入管法改定案再提出は無理筋

入管法改定案に「送還停止効例外規定」が盛り込まれれば東京高裁判決に違反

児玉晃一 弁護士

 衆院選前の通常国会で廃案になった、外国人の収容や送還についてのルールを見直す出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改定案)の国会への再提出が取り沙汰されている。

 これとの関連で注目すべきは、難民認定の申請を退けられた外国人を、裁判で争う機会を奪うかたちでチャーター機で母国に強制送還したことは、憲法が保障する「裁判を受ける権利」の侵害にあたるなどと断じた2021年9月22日の東京高裁判決が、国側の上告がないまま、10月6日に確定したことである。

 なぜかというと、この判決によって、入管法改定案に盛り込まれている「送還停止効の例外規定」が事実上、封じ込められているからだ。本稿では、入管法改定案の内容と経過、この東京高裁判決との関係を見ていきたい。

入管法改正案に反対の声を上げる人たち=2021年5月14日、東京・永田町

廃案になった入管法改定案に再提出の動き

 現在の入管法は、難民申請手続き中の申請者の強制送還を禁じている(入管法61条の2の9第4項)。これは、それまで何ら関連性がなかった難民認定申請手続と退去強制手続との関係を整理し、難民申請中の者の法的地位を安定させるために、2004年の法改正(施行は2005年)で盛り込まれたものである。

 ところが、2021年2月19日に閣議決定され、第208回国会に提出された入管法改定案では、これに例外を設ける条項が盛り込まれた。この法案は、内外からの強い批判を浴びて、一度は廃案に追い込まれたが、11月30日に産経新聞が政府に再提出の意向がある旨を報じ、12月8日には自民党の「出入国在留管理業務の適正運用を支援する議員連盟」が、再提出するよう政府に要望した。

 入管法改定案に明記された例外規定の中身は以下の通り。法案61条の2の9第4項で、難民認定申請手続き中の場合も、以下の例外規定を設けることが提案されている。

①3回目以上の申請者(ただし、相当の理由のある資料を提出した者を除く)
②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者

3回目以上の申請者の送還停止効を外す趣旨

 このうち、①の3回目以上の申請者について、送還停止効の例外を設ける趣旨について、出入国在留管理庁が公表した「入管法改正案Q&A」では、次のように説明されている(Q5)。

 難民と認定されなかったにもかかわらず、同じような事情を主張し続けて難民認定申請を3回以上繰り返す外国人は、通常、難民として保護されるべき人には当たらない(申請時に難民と認定することが相当であることを示す資料が提出された場合を除きます。)と考えられます。 そこで、このような外国人については、今回の入管法改正法案により、送還停止効の例外として、難民認定手続中であっても日本からの強制的な退去を可能とすることとしました。

 さらに、出入国在留管理庁が作成した「現行法の課題と改正法案の内容・効果2/5」というスライド(参照)にも、送還停止効の例外を設けることで期待できる効果として、
送還回避のために難民認定申請する者等を送還できる
と書かれている。

 以上から、改正法案で例外を設けるのは、難民申請の濫用を防止する趣旨であることが読み取れる。だが、この趣旨ははたして妥当なのだろうか。

 これに関連し、上記の2021年9月22日東京高裁の送還違憲判決は、次のとおり判示している。

 控訴人らの本件各異議申立てが濫用的なものであり、救済の必要性に乏しいと主張するが、難民該当性の問題と難民不認定処分について司法審査を受ける機会の保障とは別の問題であり、当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべきであるから、控訴人らの難民申請にかかる上記事情を前提としても、そのことをもって、司法審査の機会を実質的に奪うことが許容されるものではない。

 そうだとすると、司法審査を受ける機会どころか、出入国在留管理庁内部の審査すら受ける機会を与えないで強制送還することを可能とする入管法改定案は、はなから論外ということになる。そして、国はこの判決に対して、上告することなく服したのである。その意味は、重い。

入管法改正案に反対する座り込みに参加した若者たち=2021年5月14日、東京都千代田区の国会前

重大犯罪者等の場合も同様

 例外規定を設けることが提案された②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者、についても同様である。

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