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問題だらけのコロナ感染症対応から考える公明党の機能~自民党とどう違うか

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【2】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

 「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の時期をのぞき一貫して与党だったこの党はどういう党なのか、実証的に研究します。第2回目は新型コロナウイルス感染症への対応を例に、公明党の「ネットワーク」について検討します。(論座編集部)

◆連載 「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究

公明党本部

「ネットワーク」という言葉を多用する公明党

 公明党は、「ネットワーク」という言葉を様々な場面で多用する。しかし、社会一般の多くの読者は、公明党のネットワークとはどういうもので、どのように機能をしているか知らないだろう。

 本稿では、新型コロナウイルス感染症対応をモデルケースに、ネットワークの実態と意義を明らかにしたい。結論を先に言うと、与党・公明党のネットワークは、国・地方における政治・行政の現実的諸問題野解決や統治において、重要な役割を果たしている。まず前半部でコロナ対応に関する政治・行政の状況について分析し、後半部ではこうした所与の条件のもとで公明党が実際にどのように対応したのかの分析を試みる。

感染症対応の権限が様々な機関に分化

 2020年1月以来、われわれ人類は、国、地方自治体、組織、個人の様々な領域において、新型コロナウイルス感染症に対峙(たいじ)することになった。本稿執筆時点も「第6波」の渦中にあり、現場で対応されている多くの医療従事者や公務員の方々には、改めて感謝の意を表したい。

 この感染症災害をめぐり、日本の政治・行政の問題点が次々と明らかとなった。根底にあるのは、1回目の記事「自民党との連立で『質的役割』を果たした公明党~ライバルは日本維新の会か」 で指摘したとおり、中央と地方の間の行財政や政治の関係のあり方であろう。

 感染症分野における我が国の特徴としては、権限が様々な機関に分化している点が挙げられる。

 安倍政権期のコロナ対応を分析した竹中治堅(政策研究大学院大学教授)は、「首相と知事、保健所を設置する市および特別区の保健所は相互に独立した関係にあり、首相と知事、首相と保健所の間に指揮命令関係は存在しない」とし、「政府内では「安倍一強」と言われるほどの指導力を誇った安倍首相も、感染症対策を立案するためにはそれほど多くの権限を保持していなかった。そして、法律の仕組みの上で、首相が知事や保健所が担当する分野に直接関与することは難しかった」という(竹中治堅『コロナ危機の政治』中央公論新社、2020年、p.6-7)。また、「都道府県知事の権限は検査の実施や疫学調査を担う保健所に及ばず、知事の裁量が制約されてきた」ともいう(同書、p.286)。

 組織の人々が他の組織の人々を気にせずに行動すると、どのような弊害が考えられるか。組織論研究で著名なピーター・M・センゲは、組織の学習障害の一つとして次のように指摘する。

 「組織内の人たちが自分の職務にだけ焦点を当てていると、すべての職務が相互に作用したときに生み出される結果に対して、責任感をほとんどもたない。そのうえ、結果が期待はずれだった場合に、その理由を理解するのが非常に困難となる。『誰かがへまをした』と決めてかかることしかできないのだ」(ピーター・M・センゲ(枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子[訳])『学習する組織』英治出版、2011年、p.59)。こうした「犯人探し」は、相互不信しか生まない。

「新型コロナでつくられた空気」を使って対応

 清水真人(日経新聞編集委員)によると、「新型コロナウイルス感染症対策では、与党や官僚に対して『強い首相』と、分権改革後の『強い知事』の連携・調整の不備も露呈した」(清水真人『憲法政治』筑摩書房、2022年、p.18)という。こうした連携・調整の不備の背景には、各アクター間の相互不信もあった。

 権限が様々な機関に分化しているとすれば、政府はまずは中央・地方を問わず各機関を巻き込み、目標やビジョンの共有の徹底、統合、連携・調整のあり方を調整するという“正攻法”でのぞむべきであった。ところが、政府が実際に行ったのは、「新型コロナウイルスによってつくられた空気」を使った感染症対応であった。

 具体的に言えば、メディアを媒介させつつ、次に挙げる三つの手段によって、人々の間に「空気の支配」を徐々に醸成させていったのである。

 第一の手段は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法と称する)の解釈を通じてである。

 ただ、これには違法な解釈という指摘もある。たとえば、片山善博(自治官僚、鳥取県知事、総務大臣などの経歴がある)は、特措法第24条9項について次のように指摘する。

◆特措法第24条第9項
 都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。

 「ざっくばらんに言うと、第24条第9項は、『対策本部に協力してもらえませんか』と誰かに声かけする程度の内容なのに、権限という言葉だけを抜き出して、知事が前提条件なしに誰にでも何でも要請できるような解釈を政府がしていた」(片山善博『知事の真贋』文藝春秋、2020年、p.65)

 第二は、首相によって連発された法的根拠のない「要請」である。

 安倍首相は、「専門家会議に諮問するとか、その知見を聴取するなどの手続きを踏むことなく、突然、トップダウンで法的根拠のない『要請』を連発し」た(清水真人『憲法政治』筑摩書房、2022年、p.246)。しかも、菅義偉官房長官と萩生田光一文科大臣が学校の臨時休校を「要請」するという首相決断を知ったのは、何と当日であった(同書、p.246)。

 第三は、各府省が多用した通知である(参照:国会図書館HP「新型コロナウイルスに関する通知・通達(日本国内府省等)」2022年2月27日閲覧 )。

 新型コロナウイルス感染症は、地域間で感染者数の濃淡はあったものの、全国的な課題であった。ここでの問題は、専門的知見からみて通知内容が正しいものか、さらに判断する自治体が専門的知見や情報を有しているか、という点である。

 もっと言えば、通知内容が専門的に正しいとしても、通知という性格上、現場自治体が独自の判断を下しても法的問題は生じない。その場合、感染症対策は、不充分なものとなるおそれがある。

umaruchan4678/shutterstock.com

感染症対応を困難にしている最悪の状況とは

 変異を重ね、数年単位で闘わなければならないウイルスに対して、はたして「空気の支配」に依ったこういう短期的で場当たりな対応で良かったのだろうか。

 「組織の環境適応理論によれば、ダイナミックな環境に有効に適応している組織は、組織内の機能をより分化させると同時に、より強力な統合を達成しなければならない。つまり、『分化(differentiation)』と『統合(integration)』という相反する関係にある状態を同時に極大化している組織が、環境適応にすぐれているということである」(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎『失敗の本質』中央公論新社、1991年、p.358)。

 これは、アジア・太平洋戦争における日本軍組織の問題点を指摘した『失敗の本質』の一文であるが、コロナウイルスという感染症に対して、今の日本の執政府・行政府が統合を達成できたかというと、甚だ心もとない。

 上記の『失敗の本質』では、日本軍の戦略上の失敗要因として、①あいまいな戦略目的、②短期決戦の戦略志向、③主観的で「帰納的」な戦略策定——空気の支配、④狭くて進化のない戦略オプション、⑤アンバランスな戦闘技術体系、という点を挙げる。また、組織上の失敗要因として、①人的ネットワーク偏重の組織構造、②属人的な組織の統合、③学習を軽視した組織、④プロセスや動機を重視した評価、という点を指摘している(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎『失敗の本質』中央公論新社、1991年、pp.263-340)。

 分化と統合、戦略と組織のあり方など、当時の日本軍組織と現在の執政府・行政府とでは、悪い意味で今なお色あせない共通点がたしかにある。そのうえで指摘しておきたいのは、「統合」しようにもできない、現場の公務員が置かれた最悪の状況が、今日の感染症対応をより困難にさせているという点である。以下、具体的に見ていきたい。

定数減・長時間労働で疲弊する官僚

 第一は、官僚の疲弊である。公務員数を見ると、「ピーク時の昭和47年に約90万人いた国家公務員は、平成30年には約28万5000人、約3分の1」になっており(西村美香「[行政学]公務員制度批判について考えよう」成蹊大学法学部[編]『教養としての政治学入門』筑摩書房、2019年、p.74)、地方公務員数も「平成6年の約328万人をピークに減少に転じた」(同書、p.75)。

 公務員数が減るなか、国民・住民からの行政需要に応えるには、労働生産性を向上させるしかない。しかし、霞が関は依然として紙中心の文化が根強く、デジタル化しきれない労働環境のままである。

 結果として、長時間労働の状況は是正されないままだ。筆者が知る元キャリア官僚は国会開会中、日が昇るまで仕事をしていた。友人や指導した学生も国家公務員の志望者がいなくなっているが、ある意味当然であろう。

 今般の新型コロナ対応では、こうした疲弊した公務員の問題が加速したと見られる。全国規模での対応が求められるなか、人員不足、ブラック化した労働環境の中で業務を行う必要に迫られ、業務は明らかに滞った。

深刻化する現場情報への疎さ

 第二に、かねて指摘されてきた、官僚の現場情報への疎さである。

 片山善博も指摘しているとおり、「国・地方を問わず行政に必要なのは、現場からスピーディーに、しかも的確に情報が入ってくる体制」である(片山善博『知事の真贋』文藝春秋、2020年、p.22)。それが、国民・住民が欲する政策の企画・立案につながるからだ。

 ところが、肝心の実働部隊である官僚機構では、長時間労働で官僚は勉強だけでなく、現場の生の声を聞く時間も十分にない。現場情報への疎さは、コロナ禍でさらに進んでいるかもしれない。

 調査研究の場当たり的外注も、組織として集団知を蓄えることにつながらない。「個人が学習することによってのみ組織は学習する。個人が学習したからといって必ずしも『学習する組織』になるとは限らない。だが、個人の学習なくして組織の学習なし、である」(ピーター・M・センゲ(枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子[訳])『学習する組織』英治出版、2011年、p.192)。

厚労省などが入る庁舎 soraneko/shutterstock.com

能動的な政策立案の抑制と忖度

 第三に、官僚の能動的な政策立案の抑制と、官邸への忖度である。“強い官邸”が内閣人事局で人事権を行使し、官僚人事を支配した。結果として霞が関には、「忖度しなければならない空気」ができあがった。

 第2次~第4次安倍政権期に、数多くの官僚の生の声を丹念に取材した良書として、朝日新聞取材班『自壊する官邸』朝日新聞出版、2021年、がある。例えば、同書に出てくる衝撃的な「声」を三つ引用しよう。

 政策を提案して失敗すれば決定的なマイナス評価になる、それならば、無理に新提案をしなくてよい——。現場にはそんな空気が広がっていた。元次官は「減点主義で官僚たちが委縮した」と語る。(同書、p.24)

 「首相や秘書官たちが和気あいあいとしてアットホーム過ぎる。ある秘書官が新しい対策を打ち出すと、別の秘書官が『いいね』と盛り上げる。間違っていると思っても外から異論を挟みにくい」(同書、p.29)

 「内閣人事局が対象としない課長級の人事であっても、官邸が『ノー』と言えば各省幹部は従うしかない。官邸の意向に背けば自分が飛ばされるからだ。幹部人事を握ることで、官邸は霞が関全体の人事権を握ったようなものだ」(同書、p.40)。

 官僚たちは「忖度しなければならない空気」に支配されるなか、「新型コロナウイルスに支配された空気」と向き合う必要に迫られたのである。

「強い官邸」のもと変容した自民党

 ここまでみてきた三つの理由から、官僚機構が能動的な機能を発揮しにくくなっている以上、国民は政党に期待する他ない。具体的には、自民、公明の与党か、次の選挙で野党に政権交代を託すしかない。

 自民党は、「強い官邸」、「強い総理」のもとで明らかに変容した。「自民党の部会も出席議員が減り、活気を失った。かつては族議員がいて口角泡を飛ばす議論が続いた。今や、首相官邸の意向を受けて各省庁が決めた法案や方針を了承する場になり、元官僚の議員は『議員同士で議論して物を決めている感じがなくなった』と言う」(朝日新聞取材班『自壊する官邸』朝日新聞出版、2021年、p.55)。

 また、第2・3次安倍政権期の自民党を分析した中北浩爾(一橋大教授)は、「官邸主導で作成された政策案がスケジュールつきで投入され、修正の余地が乏しくなるなど、審議の形骸化が進んでいる」と指摘する(中北浩爾『自民党——「一強」の実像』中央公論新社、2017年、p.118)。議員教育という視点からも、その影響が年単位で残り続けるだろう。

首相官邸 slyellow/shutterstock.com

相対的に自立性を保った公明党

 一方、公明党はどうか。筆者は相対的に自立性を保ったと見ている。

 そもそも政党が異なるため、自民党総裁からの力が直接は及ばない。また、閣僚枠を一つにあえて抑制しているうえ、党代表を閣内に送り込んでいないこともあり、自民党国会議員や官僚のように強い官邸に「取り込まれる」という事態も最小限ですんでいる。

 また、中央・地方間の行財政、政治の関係のあり方、様々な機関に分化する権限、疲弊する公務員、強い官邸が人事権を梃子にすることで生じた忖度行政、自民党内での部会審査の形骸化(忖度)と出席者の減少、といった悪条件が重なり、コロナ禍という全国規模での感染症災害にもかかわらず情報の目詰まりが生じるなか、公明党は情報の目詰まり解消の点で、重要な役割を果たすことになった。この点について詳述する。

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