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新型コロナ「専門家」・医系技官と政治家の隠微な関係~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第四部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑯

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 これまでのコロナウイルス対策のほとんどすべてを間違え続けてきた日本の「専門家」たちと厚生労働省・医系技官。彼らが群棲する「感染症ムラ」と日本の政治家とは具体的にどのように繋がっているのか。

 臨床医でありながらコロナウイルスに関する世界最新の知識を渉猟し、この国の医学界と政治との関係にも詳しい医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏に引き続き話を聞いた。

上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

科研費をほぼ独占する「感染症ムラ」の人たち

――厚労省・医系技官のトップ、医務技監は現在、福島靖正さんですが、一代前、つまり初代の医務技監は鈴木康裕さんです。鈴木さんについては前にも話題になりましたが、医務技監から国際医療福祉大学の副学長に、ほとんどそのまま「天下り」しました。

 国際医療福祉大学は2017年に医学部が新設されたばかりですが、感染症法を所管する厚労省結核感染症課の「新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業」から2人の教授が研究費をもらっています。2019年度にそれぞれ2億1738万円と155万円、翌20年度には2億2434万円と475万円です。

 この事業の科研費をもらった人の内訳を見ると、2020年度は41人のうち27人を国立感染症研究所や国立国際医療研究センターなど厚労省関係の研究者やOBが占めており、感染研が15人でトップです。「感染症ムラ」の人たちがほぼ独占して科研費をもらっている構図です。その中で、新設されたばかりの大学医学部から2人が2年度にわたってこの科研費を受けている。これは珍しいことではないですか。

 珍しいですね。しかも、そのうち一人の前職は国立国際医療研究センターの国際感染症対策室医長ですから「感染症ムラ」の一員と言えます。

――そうなんですか。この国際医療福祉大学は、厚労省からもらっているコロナ関連の補助金もすごいんですよね。

 すごいですね。

――繰り返しになりますが、2017年4月に医学部、2020年3月に附属病院が開設されたばかりなのに、20年度に64億円もの補助金が出ています。前年度からの増加額は46億円で、これによって経常利益は前年度比431.1%のプラス。コロナで強烈に潤いましたね。

 コロナによる「焼け太り」ですね。

新型コロナの感染拡大を受けて前倒し開院した国際医療福祉大成田病院=2020年3月12日、千葉県成田市畑ケ田

鈴木康裕医務技監は「持参金付きの天下り」

――国際医療福祉大学は代々医系技官の天下りを受け入れてきているんですよね。それが厚労省の高評価に繋がっているんでしょうか。

 あると思います。厚労省や大学はもちろん「そういうことはない」と言いますけどね。

――さらに言えば、医務技監だった鈴木康裕さんがそこにほとんどズバリと天下った。簡単に言えば「持参金付きの天下り」ですよね。

 そう言えます。

――補助金がすごい。新設医学部なのに科研費も出ている。そしてそこに「持参金付き」で天下った前医務技監が、大学理事長と緊急事態宣言中に九州・湯布院にゴルフ三昧の小旅行に出かけている。最悪の話じゃないですか。

 もう科学の話じゃないんですよ。内輪の話になっているんです。しかも、国際医療福祉大学の先生、しょっちゅうテレビに出てきているでしょう。これは医系技官が推薦していて、マスコミも使いやすいのでしょうね。

――率直に言って、素人でもしゃべれるような内容ばかりだなと思いますが、専門家の目から見て、この人たちは医療や公衆衛生に関する実力はあるんでしょうか。

 ないでしょう。専門的知識がないので、素人と同じレベルのことしか言えない。今回のパンデミックのような時は、感染症の知識だけでなくトータルな意味での科学の知識が必要なんですが、それがない。だから、医系技官の下請けみたいなことになっています。

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尾身茂さんのキャリア

――医系技官の下請けと言えば、医系技官OBの尾身茂(地域医療機能推進機構=JCHO=理事長)さんを思い出しますが、その尾身さんが政府の分科会会長です。

 この方のキャリアを見てください。自分が書いた筆頭者論文が1本しかない。そもそも大学教授なんかの資格はありません。たとえばアメリカで尾身さんと同様の立場にいるアンソニー・ファウチ(国立アレルギー・感染症研究所所長)氏と比べるとよくわかりますよ。少年野球レベルとメジャーリーグの選手を比べるようなものです。

 アンソニー・ファウチはコーネル大学を首席で卒業後、国立衛生研究所(NIH)に50年以上勤務、エイズなどの感染症対策に取り組んだ。世界有数の科学・医学誌『ネイチャー』『サイエンス』だけでも46本の論文や論稿を発表している。

 1983―2002年の期間、世界の科学誌に最も引用された研究者の一人とされた。 国立アレルギー・感染症研究所の上部組織NIH長官に何度も推されながら固辞、エイズやエボラ研究などの先頭に立った。非科学的な方針を打ち出すトランプ前大統領に正面から反対する姿勢でも注目された。

 大変な経歴があって、いまだに聴診器を忘れないファウチ氏に対して、日本の尾身さんの筆頭者論文は、自治医科大学の院生の時の1本だけです。話になりません。

――尾身さんと言えば、政府の専門家会議と分科会でともに幹部ですよね。最初の専門家会議では医系技官出身の尾身さんが副座長を務め、感染研所長の脇田隆字さんが座長でした。専門家会議が分科会に変わると、脇田さんが副会長になり、尾身さんが会長になる。役回りをかえるだけです。「感染症ムラ」の主要メンバーだからって、あまりに露骨ではないですか。

 出ているメンツが、尾身さん、岡部(信彦・川崎市健康安全研究所長)さん、押谷(仁・東北大学大学院教授)さんというように同じなんです。脇田さんは感染研の所長ですから、感染研の当て職なんです。いつものメンバーを、そのまま推薦している。要するに何も考えてないんです。

――釜萢(敏・日本医師会常任理事)さんや舘田(一博・東邦大学教授)さんも専門家会議から分科会にそのまま移っていますね。

 釜萢さんは日本医師会の当て職、舘田さんは日本感染症学会の当て職です。組織の人を充てているだけなんです。

――両方の中心にいる尾身さんですが、意外なことに東京教育大学附属駒場高校を卒業してから、最初に慶應義塾大学の医学部ではなくて法学部に入学しているんですね。

 そうです。

――それから、慶應を中退して自治医科大学に入学します。それで医系技官になるのですが、医系技官の中でも勢力の強い慶應閥に身を置くことになるわけですね。

 自治医大の学生時代に「医系技官のドン」と呼ばれていた慶應出身の篠崎英夫さんと接点ができる。篠崎さんは後に厚労省医政局長になりました。自民党厚労族の大物議員だった橋本龍太郎さんとともに慶應閥の医系技官の世界を作るんです。

 尾身さんはこの篠崎さんの「カバン持ち」と言われていました。そういう関係があって特殊な経歴を積むことができたんです。保険局医療課に1年だけ在籍して、あとは19年間WHO(世界保健機関)に出向するという特殊な扱いです。

尾身茂・新型コロナ対策分科会会長=2022年3月18日、東京都港区

無邪気な計画経済を志向する医系技官

――初代医務技監から国際医療福祉大学副学長に「天下り」した鈴木康裕さんも慶應ですね。

 そうです。尾身さんより10歳下ですが、やはり篠崎さんとの関係が強いようですね。

――慶應の医学部と言うと非常に優秀な人たちだろうという気はするんですが。

 ちょっと抽象的に言うと、東大の法学部卒とまた違い、無邪気な計画経済みたいなものを志向するんですよ。国家社会主義みたいな超法規的なものを考えるんです。

――それは医系技官全体の話ですか。

 医系技官の話です。医系技官というのは無試験なんですが、医学部卒の学生に人気がない。言葉を換えて言えば、「合法的裏口入学」で、しかも全員が幹部になる。だから、医学部を卒業してちょっと変わった人間を集める制度になりかねないんです。

 はっきり言えば、それが尾身さんなんです。尾身さんはJCHOの理事長に天下りしていますが、JCHOは何百億円も売り上げるような医療病院チェーンですよ。普通、天下る時って病院チェーンの常務理事になる人はいますが、CEO(最高経営責任者)になる人はいません。CEOは経営について判断しなければいけませんから。

 尾身さんは言ってみれば、厚労省から巨大病院チェーンの社長に天下り、その身分で政府の分科会会長もやっている。医系技官制度がある限り、

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