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公明党は地方議員の声をどう聞いているのか~中央と地方統合の場・中央幹事会の実相

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【4】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

 「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。4回目は党の中央幹事会を軸に地方議員の声を吸い上げる仕組みについて論じます。(論座編集部)
◇連載 「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究は「こちら」からお読みいただけます。

Panchenko Vladimir/shutterstock.com

 「日常的に新しいツールを使って、意見交換を行って政策提言をお互いに学び合っている。議員同士の交流の補強ツールとして非常に役立っている。今日は、山本香苗・参議院議員が、地方議会に関係ある案件を載せてくれた。国会議員の発信と逆に、地方議員が『ここをなおしてほしい』といったようなやり取りもできている」

 公明党の中嶋義雄・東京都議は、党内イントラの意義や利便性をこう語る(2022年4月7日インタビュー(筆者取材))。党内イントラの詳細は、3回目の記事「融合する公明党の国会議員と地方議員~党運営のDX化が支える議員活動」も参照していただきたい。追加で、公明党本部広報部へも党内イントラについて取材したところ、次のような回答を得たので補足しておく(2022年4月7日公明党本部広報部文書回答)。

 党内イントラでは、全国の地方議員、国会議員が情報共有や意見交換を行っています。その中で、地方議員から国会議員や党本部に対して意見や要望が出ることもあります。時の政治テーマについての最新情報や党の考え方、法案審査の状況、制度の周知、政府への提言や地方議会における意見書の共有、現場の課題の洗い出しなど、党所属議員が距離や立場の垣根を超えてコミュニケーションを図るツールとして機能しています。平素から電話や対面で緊密に連携を図っている党議員のコミュニケーションの補完的な役割を果たしており、党の強みであるネットワーク力を支えるひとつの重要なインフラであると言えます。

 公明党の地方議員の意見が国政レベルで反映される機会は、党内イントラだけにとどまらない。日常的に最も公式的で影響力があるものとして、中央幹事会が存在する。本稿では、その内実があまり知られていない中央幹事会について、関係者へのインタビューなども交えて説明をしたい。

 前半で、比較参照のため、自民党における中央と地方の関係について述べる。そのうえで、後半で公明党のネットワークを支える党内ガバナンスについて、中央幹事会を中心に扱っていく。

地方議員を意識した党則の改正

 地方議員重視を強める動きは、もちろん自民党内にもある。2022年3月13日に開催された第89回自民党党大会で了承された党則改正(自由民主党HP「党則改正について」2022年3月14日、2022年4月10日閲覧)からもそれは鮮明だ。

 この改正では4項目が柱になっている。最も注目されたのは、2021年自民党総裁選以来、岸田文雄総理が掲げていた「役員の任期制限」。党役員の任期を「1期1年3期まで」とするもので、背景には二階俊博の幹事長職(安倍晋三、菅義偉の両政権)の長さから生じた弊害があった。

 相対的にあまり注目を浴びなかった他の3つの柱は、①「地方議員センター」の設置②全国政務調査会長会議等の明記③自民党ガバナンスコードの策定――である。ここで筆者が注目したいのは、地方議員を意識した柱が①②の二つもあることである。

自民党大会で参院選の立候補予定者らとこぶしを振り上げる岸田文雄首相(中央)=2022年3月13日、東京都港区

地方議員センターは共産党の自治体局になれるか

 まず、①の「地方議員センター」について見てみる。

 設置の目的は、「地方議員への情報提供、意見交換会の開催、ワンストップの窓口などの機能を持つ、地方議員センターを党本部に設置します」とある(参照)。党則上の位置づけは、組織運動本部の中の地方組織・議員総局の下の主要なセンターの一つだ(自由民主党党改革実行本部「党則改正について」2022年3月14日、p.3)。

 ところで、党本部が地方議員に対して組織的に補佐・支援する体制は、日本共産党が最も充実していると筆者は考えている。日本共産党は、自民党、公明党と同様、地方議員数が多い。地方政治の舞台では、公明党と共産党の存在感がより強くなる。そのため、地方政治を政治学の視点から扱うには、公明・共産両党のマルチレベルでの政党組織研究が必要不可欠となる。

 日本共産党の中央委員会は、専門部局として自治体局を設置。同局内に地方議員相談室をおく。「自治体局の役割は、①地方政治をめぐる動向の分析と対応、②地方議員の力になる、③雑誌『議会と自治体』編集部との連携、など」である(ワタナベ・コウ『ワタナベ・コウの日本共産党発見!!』(2)新日本出版社、2018年、p.49)。

 「地方議員相談室では、六人が交代で週四日、対応して」おり、「年四回ある地方議会ごとに、寄せられた質問の特徴と回答のまとめが、『議会と自治体』に紹介されてい」る(同書、p.54)。相談員は地方議員経験者だ。

 筆者は日本共産党京都府委員会を取材したことがあるが、党所属の地方議員数の多いところでは、議員団内で事務職員を雇用している(2021年7月3日、5日、8月10日筆者取材)。「地方議員団として」活動する際、有用な補佐・支援の仕組みであるのは間違いない。

 地方議員を補佐・支援する以上の日本共産党の姿には、与野党関係なく各党が学ぶべきものがあるし、率直に評価されるべきである。今後、自民党の地方議員センターがどのような役割を果たし、機能が実質化するのかについては注目に値する。

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デジタル化の進展で地方との交流の機会が増加

 次に、②全国政務調査会長会議等の明記、について見てみよう。

 これは、「政務調査会や女性局・青年局の活動をより重視する観点から、全国政務調査会長会議、全国女性局長会議、全国青年局長会議を党則上、明記します」とあり、党内の実態と合わせた改正といえよう(参照)。

 この点について、「党則改正について」では次のように解説されている。その一部を紹介する(自由民主党党改革実行本部「党則改正について」2022年3月14日、p.3-4)。

○デジタル化が進展し、より頻繁に、党本部と地方組織との情報交換ができるようになった。その一方で、一般の有権者が接する情報の質・量・速度も、飛躍的に向上している。

○こうした中で、党本部での政治・政策の動きを迅速に地方組織に伝えること、地方の声を迅速に党本部で吸い上げる必要性がこれまで以上に高まっている。

 たしかに、自民党内では、2020年からのコロナ禍を契機に、党内のデジタル化が進展し、地方組織・地方議員との交流の機会が増えている。

 たとえば、菅義偉総裁時代には「菅義偉総裁と都道府県連とのオンライン懇談」が複数回おこなわれた。世襲議員である安倍総裁と、地方議員出身である菅総裁の党内政治手法の違いが透けてみえるようで興味深い。具体的には、各地域ブロック単位で実施され、2020年10月25日から(自由民主党HP「地方と党本部がオンラインで直結菅総裁が北海道・東北6県とリモートで懇談」2020年10月25日、2022年4月10日閲覧)、総裁選投開票日(2021年9月29日)直前の2021年9月11日まで続けられた(自由民主党HP「菅義偉総裁と都道府県連とのオンライン懇談を開催」2021年9月11日、2022年4月10日閲覧)。

 懇談内容の概要を確認すると、新型コロナウイルスに関しても扱っている。なお、本稿の執筆時点(2022年4月27日現在)で、岸田文雄総裁が菅義偉総裁の活動を継続している様子は見当たらない。

 また、党内会議や議員教育(研修会)も頻繁にひらかれている。オンライン化の進展に伴い会場、時間、旅費交通費の障壁がなくなったことで、地方からもより参加しやすくなったと考えられる。

 たとえば、2020年7月7日には「全国から約200名のオンライン参加を得て、青年局初となる『全国青年部長・青年局長、学生部合同オンライン研修会』を開催し」、「初日は『ニッポンの重要課題』をテーマに、党本部青年局役員が農水・厚労・国交・文科の4分野について講義を行」っている(自由民主党青年局HP「全国青年部長・青年局長、学生部合同オンライン研修会を開催」2020年7月7日、2022年4月10日閲覧)。

 以上、自民党内の動向を概観した。自民党も公明党に遅ればせながらではあるが、地方議員をより重視する方に向かっているのは明らかである。こうした党内の一連の動向は、本連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」で見てきたように、公明党が展開するレベルまでに達していないものの、今後どのように展開されるのか経過を観察する必要がある。

 ちなみに、各党内でのデジタル化、オンライン化の推進は、所属議員がその利便性を体感することで、デジタルやオンラインへの理解が広まる契機になる。今後、国会改革を進めるためにも必要不可欠であろう。前例踏襲主義の国会において、2022年3月23日にウクライナのゼレンスキー大統領が国会初のオンライン形式で演説(場所は、衆議院第一議員会館国際会議室及び多目的ホール)が可能になったのも、外交的な事情だけでなく、各党内でのデジタル化、オンライン化の進展も影響しているのではないだろうか。

自民党・総務会と公明党・中央幹事会を比較すると……

公明党東京都本部=2021年7月17日、東京都新宿区南元町、朝日新聞社ヘリから

 さて、ここからは公明党の分析に入る。まずは、総務会(自民党)と中央幹事会(公明党)を比較したい。中央幹事会は、総務会と同様、公明党内の事前審査制の最終関門だからだ。

 「公明党は、『最高執行機関』を常任役員会と定めている。他方、議決機関については、全国大会に次ぐ最高の議決機関として中央幹事会を定めており(党規約第一九条)、当面する活動方針および重要政策等の議決や、各種選挙の候補者の公認および推薦等の承認を行う」(岡野裕元「公明党の立体的政策形成――「ヨコ」関係の軸となる国会議員・地方議員・事務局との協働ネットワーク――」奥健太郎・黒澤良[編著]『官邸主導と自民党政治――小泉政権の史的検証』吉田書店、2022年、p.458)。

 「中央幹事会のシステムが作られたのは、1998年の公明党の再結党時から」である(同書、p.458)。他方、自民党は、1955年の結党時点から、「総務会は議決機関、幹事長は執行機関、という党中央組織の役割分担が確定し」ている(小宮京『自由民主党の誕生 総裁公選と組織政党論』木鐸社、2010年、p.242)。

 総務会(自民党)と中央幹事会(公明党)を比較すると、構成員に決定的な差がある。

 自民党の総務会は、定員が25人(党則第37条)。党則上、党所属の衆議院議員の公選による者が11人、党所属の参議院議員の公選による者8人、総裁の指名による者6人という内訳となっている。議決も慣習的に全会一致であり、総務全員が国会議員で構成されている。

 これに対し、公明党の中央幹事会(定例で毎週木曜日の午前10時30分から党本部で開催)は、

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