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マクロン大統領再選も勢いづく極右~フランスは中道vs極右の二大政党制へ移行か

背景にある欧州ポピュリズムの深層をみる

渡邊啓貴 帝京大学教授、東京外国語大学名誉教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

マクロン、ルペン、それぞれの「勝利宣言」

フランス大統領選挙の決選投票で勝利を収め、支持者らに手を振るマクロン大統領と妻のブリジットさん=2022年4月24日、パリ、Alexandros Michailidis/shutterstock.com

 4月24日のフランス大統領選挙第二回投票(決選投票)の結果は、中道派「共和国前進」LREMのエマヌエル・マクロン大統領の大勝だった(59%、国民連合RN=2018年に国民戦線FNから改称=代表のマリーヌ・ルペンは41%)。

 マクロン氏は午後八時過ぎ、ブリジット夫人と10人ほどの普段着の子供たちを伴い、EUの歌である「ベートーベンの喜びの歌」をBGMにしてエッフェル塔下のシャン・ド・マルス公園の演壇に歩み寄った。第二回投票の当日には地元トゥケの投票所前で、支持者集会のような演出で夫人とともに愛嬌を振りまき、握手と頬摺りを繰り返したが、この夜も同じような仕草で支持者への感謝の気持ちを伝えた。能吏でエリートの顔を変貌させ、親しみやすさを印象付けようとした。

 選挙期間中は、有権者に安心感を与えようと、かつての強面を一変させ落ち着いた挙措と表情に終始したルペンに対して、マクロンは終始攻撃的だった。20日夜の二人の討論会では、政策上の安心感についてはマクロンに軍配が上がったが、親しみやすさではルペンの方かわずかにリードした。

 しかし勝利宣言をしたこの夜は、フランス国民の代表として、落ち着いた明るい青年大統領の趣が前面に出ていた。

 自分はフランス国民から与えられた「仕事の受託者」であること。1969年に続いて二番目に高い記録的な棄権率(28%)については、それに「答える責任は自分にある」とし、すべてのフランス国民の大統領であることを示そうとした。ルペンの名前まで挙げて、棄権率に示された国民の「怒りと不合意」の意思にはきちんと答えねばならないと語気を強め、これまでのやり方を変えていくと語った。そして「独立したフランス」と「強いヨーロッパ」は一体であると欧州統合への支持を訴えた。

 これに対してルペンは、かなり票差が開いたにもかかわらず、「華々しい勝利」だと「勝利宣言」をした。

 2002年、父ジャン・マリ・ルペンが第二回投票に残った時に、第二回投票で30%とれば「勝利」だと述べたひそみに倣ってのことであったが、マリーヌに代替わりした前回の34%から得票率で7ポイント、票数にして約500万票も伸ばしたので、手ごたえは大きかったという意味が込められていた。

フランス大統領選挙で敗れ、支持者の前に姿を見せたマリーヌ・ルペン氏=2022年4月24日、パリ

国民議会の総選挙へ、走り出した各党

 すでに各党は6月に控えた国民議会(下院)選挙の準備に入っている。大統領選挙直後に総選挙が実施されることになっているからだ。

 フランスの選挙制度についてひとこと触れておくと、現在のフランス第五共和制の大統領は強い権限を与えられており、議会解散権を持っている。したがって国民議会(下院)で少数派(野党)の大統領が誕生すると、その直後に、つまり大統領選挙後の支持率の高いうちに解散総選挙を行い、大統領は議会・政府も自分の勢力で統一しようとする。

 しかし、以前はフランス大統領の任期は7年だったので、その在任期間中に任期5年の国民議会議員選挙(総選挙)が必ず一度は行われることになる。したがって理屈上、大統領の支持率が下がっている時に総選挙をすれば、大統領に対抗する野党勢力が勝利し、野党から首相が選ばれる場合があることは前々から言われていた。そして実際にそうした「捩じれ現象(コアビタシオン、共棲政治・保革共存)」が1986年、93年、97年に起こったのである。

 一応、大統領は外交と国政一般、首相は内政を中心に分担するという不文律ができていたが、そのうち2回のコアビタシオンでは大統領と首相が激しく対立し、政治は混乱した。そこで2002年、大統領と国民議会議員の任期をいずれも5年にするという法改正が行われ、それ以後、大統領選挙直後に総選挙が実施されることになった。政治的混乱を回避するための措置だ。

 前回大統領選挙後、FN(国民戦線、2018年に国民連合RNに改称)陣営は敗北のショックが大きく、ルペン氏はしばらく表に出て来ず、FNは総選挙の準備が遅れ、惨敗した。今回は大統領選挙開票直後にルペン氏が声明を発表し、6月12日-19日の選挙での躍進をめざす意思を強く示した。

 フランスでは国民議会選挙は小選挙区二回投票制だが、第1回目に過半数を得た候補がいない場合には、第1回投票で12.5%以上得票した候補者が2回目に進める。その段階で「立候補取りやめ」など候補者間での調整が行われる。

 RNはこれまで第1回目でトップに立っても2回目の投票では一位となることが少なく、議席を伸ばせないできた。ルペン氏が大統領選挙で決選投票まで残ったのに現有議席は本人も含めて8議席に過ぎない。

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 しかし今回は様相が違う。そうした選挙制度の壁を越えて、ルペンの勢力が票を大きく伸ばす可能性が予想されるのである。極右ゼムール率いる「再征服」、大統領選挙では第3党になったメランション率いる「不服従のフランスLFI(第1回投票では22%)」などの庶民の不満票がどこに流れていくのか。大きな注目点だ。

 「論座」でもすでに述べてきたように(拙稿「極右ルペン大統領の誕生か? 風雲急を告げるフランス大統領選挙」4月14日)、今回の大統領選挙では、前回から退潮著しかった社会党と保守派共和党(LR)の歴史的二大政党が法定選挙資金還付の対象となる5%の得票率を得られないところまで凋落。今後は中道マクロン派の「共和国前進LREM」と、左右にLFIとRNという政党配置となることが予想される。ただし、立党後6年にもならないマクロン派LREMの地方基盤はまだ脆弱で、これまでの一連の選挙では票は伸びていない。

フランス大統領選挙の決選投票を前に、掲示板に貼られたマクロン、ルペン両候補のポスター=2022年4月20日、パリ。Victor Joly/shutterstock.com

 「エリートvs庶民」の対立として象徴される今回の選挙の構造が、どのような形で国民議会に反映されるのか。これまでになく、RNが伸長する可能性は高い。一方、LFI代表のメランションは左派を統一し、反マクロン勢力が第一勢力となって自らが首相になると豪語する。

 最新の世論調査では(アリス・インターラクティブHarris Interactive 4月26日)、LREM 24%、RN23%、LFI19%、エコロジストと保守派の共和党(LR)がそれぞれ8%、極右「再征服」7%という支持率だ。

 議席数ではLREMが 328-368 議席を獲得し、単独過半数(総議席数は577、過半数は289)を維持、 RN は

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