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大きな曲がり角に来た日本の安全保障政策を真正面から論じよう

ウクライナの衝撃、GDP比2%への防衛費増大、核シェアリング、敵基地攻撃能力

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 ロシアのウクライナ侵攻が世界に与えた衝撃は余りに大きい。核を持ち、国連安保理常任理事国でありエネルギー大国であるロシアの行動を誰も制することが出来ない。今や、戦争を止め、これ以上の流血を止めるよりも、「将来の秩序維持のためロシアを勝たせてはならない」との論理で、ウクライナへの軍事支援と対ロ経済制裁が続く。

 力による現状変更はアジアでも起こり得る。ロシアに加え、核を持ち経済的には圧倒的にロシアを凌駕する中国の行動への懸念は倍加した。引き続き唯一のスーパーパワーであり続ける米国の抑止力も核を持った大国との関係では侵略を止めることは出来なかった。日本の安全保障政策が問われている。真剣な見直しを行う時期に来たのだろう。

日本国内の雰囲気と政治は変わった

 日本の国民意識は変わった。過去を意識して極めて低姿勢に推移してきた安全保障へのアプローチは、変化した。東西冷戦時代は日本が安全保障面で出来ることは限られていたが、冷戦終了後は日本の自衛隊が安全保障のためにやるべき機能を拡大することが主要な課題となった。

パキスタン海軍の駆逐艦に洋上補給をする補給艦「ときわ」=2007年9月、アラビア海北部

 1996年の日米安保共同宣言に始まり、防衛協力ガイドラインの見直し、周辺事態法制定、「テロとの戦い」特措法に基づくインド洋での海上自衛隊の給油活動、イラクへの自衛隊派遣、そして2015年に至り集団的自衛権の一部行使を認める新安全保障法制の流れは、国民意識を変え、安全保障課題を自らの問題として受け止められるようになった。政党の捉え方も変わってきた。「軍事」がタブーとの意識は薄れ、与党野党の大勢にとっては、日本国憲法に整合的な自衛隊の機能と活動がどこまで認められるべきか、という捉え方がされるようになった。

 そのような国内情勢の中で、敵基地攻撃能力・反撃能力、核シェアリング・核兵器共有、防衛費のGDP比2%への急速な拡大などの議論がかなり伸び伸びと提起されるようになった。単に一部有力政治家や官僚OB、保守学者が提起するだけではない。

「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」という賛成派が、2003年の調査以来、初めて6割を超えた。朝日新聞と東京大学の谷口将紀研究室が実施した共同調査から。

 最近のウクライナ関連の報道番組に登場する元自衛隊、防衛研究所等多くの防衛省関係者も、これまでは自衛隊への世論を気にしてか低姿勢であったものが、口を揃え防衛力拡大の必要性を強調する。国民の間にもいわゆる「保守ナショナリスト」層が拡大してきた。ロシアのウクライナ侵入や北朝鮮の核・ミサイル実験に向けての不穏な動き、中国の軍事能力の飛躍的拡大の中で、防衛能力を飛躍的に拡大させる好機であるといった捉え方がされるようになった。

 不可思議なことに、このような議論に対する「リベラル」識者の反論はあまり聞かない。少なくとも表立って反論をする雰囲気はない。野党勢力も安全保障政策として率直に議論するという雰囲気ではないようだ。

背景にある米国の抑止力と指導力の減退

 米国の日本へのアプローチも変わってきた。従来米国は、日米安保体制は「瓶の蓋」であり、日本の軍事的拡張の歯止めとなっているのでアジア諸国にとっての安心材料であるとの議論を展開していた時があった。

 確かに

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