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新型コロナで保健所の「入院調整」問題はなぜ生じたのか?~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第五部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー㉑

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 コロナウイルス対策の中心となる厚生労働省の医系技官は、最初から現在に至るまで構造的な問題を抱え続けている。いつまで経ってもクリアできない「検査」不足の問題と、キャパの小さい「保健所」を何の工夫もなく諸対策の中心に置いておく問題だ。

 この構造的な問題が起こってくる要因についてはこれまでの記述で明らかにしたが、第5部の最後回では、感染力の強いオミクロン株が襲ってきた2022年1月の「第6波」の渦中で起きた保健所の「入院調整」の問題と、コロナ「みなし陽性」の問題とを取り上げる。

 臨床医でありながら世界最先端の医療研究、医療問題を渉猟する医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏に引き続き話を聞いた。

上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長

保健所の入院調整は本来必要なかった

――保健所の問題で最後にお聞きしたいのは入院調整の問題です。PCR検査をして陽性であることがわかった。では、この人はどの医療機関に入院するのか。それを保健所が調整して入院先を割り振っていくというシステムです。

 テレビなどでも「とにかく保健所は忙しい、パンクしそうだ」ということでずいぶん紹介されましたが、たとえば保健所内のホワイトボードにいろいろな付箋を貼り付けたりして、保健所の人が一生懸命調整作業をしていました。しかし、これもPCR検査同様、保健所を間に入れる必要はなかったのではないでしょうか。

上昌広 はい。こういうことは今回初めてなんですね。本来は感染症法に基づく指定病院に入院させるので、入院調整をする必要なんてないんです。法に基づいて入れなければならない病院というのは、国立国際医療研究センター病院や都立病院、地域医療機能推進機構(JCHO)病院などです。

 ところが、今回は感染者数がものすごく多くなってきたので、あわててこういうことをやったんです。国がものすごい補助金を注ぎ込んで、民間病院がボランタリーに受け入れている状況です。

 だから、民間病院は本当は受け入れなければいけない義務はないんです。だって、多くの民間病院は施設も小さくてコロナ患者とそれ以外の患者の動線を分けることさえ難しいじゃないですか。

 そして保健所は入院調整なんてやったことはないし、できっこないんです。だから、世界的にはコロナ病院を集約しているんです。原則的にも、感染症だから集約しないといけないんです。日本でも、先ほど挙げたJCHOなどの病院に集約していたら、保健所の入院調整なんて必要なかったんですよ。

JCHO、国立病院が引き受けていれば……

――問題はどこに集約するかという話で、日本であれば、たとえばJCHOとか国立病院とかに集約していれば、保健所の入院調整の問題はなかったわけですね。全体の入院のキャパシティ、これをまず整えなかったという失敗ですね。

 そうですね。JCHO理事長の尾身(茂)さんが「全部うちでやる」と言えばよかったんです。

――その問題もありますね。

 大きい問題だと思います。

――だけどJCHOだけでは足りないでしょう。

 JCHOが全部引き受ければ足りるでしょう。ただ、医療スタッフは足りないと思います。しかし、それはいくらでも調整できる話です。JCHOには受け入れる気はまったくなかったんですよ。

――本来であれば、尾身さんのJCHOが真っ先に全面的に受け入れなければならなかったということですよね。法的に言っても、そうしなければいけない話だったと。だから、JCHO理事長の尾身さんの責任は大きいと思います。

 国立病院機構法21条1項と地域医療機能推進機構法21条1項に基づいて、「公衆衛生上重大な危害」が生じた場合に、厚生労働大臣は両機構の病院に対し、入院受け入れ増床など必要な業務の実施を要求することができる。病院側はこの要求に応じなければならないことも同条2項で定められている。ところが、上昌広氏や、私を含むジャーナリストたちのたび重なる指摘にもかかわらず、厚労省はまったく動かなかった。

 厚労大臣が両機構理事長あてにようやく増床要求などを出したのは、コロナウイルスが日本に入ってきて1年10カ月が経過した2021年10月19日だった。この間、日本の医療体制の混乱を放置し続けた第2次安倍晋三政権、菅義偉政権、厚労省医系技官の責任は極めて重い。

 本来は全面的に受け入れなければいけないのに、そんな力も気概もない人をJCHO理事長なんかに充てている。これは日本の政治の問題です。

 現場の司令官になるべき人が、政府の専門家会議を延々とやる。尾身さんもやる気がないし、尾身さんを出した厚労省の医系技官もやる気がなかった。その程度の理解だったということです。

 尾身さんの役目は、全国のJCHOの病院を回って、その場で問題を解決することです。それが理事長の仕事。結局、尾身さんはお飾りなんですね。日本はまだそういう人事システムしか作れていないんです。そう思いませんか。

――思いますよ、それは。

 JCHO理事長は病院経営者です。なのに病院経営を経験したことのない尾身さんを任命した。任命した大臣の責任も問われるべきでしょう。医系技官に言われるがままだったんでしょうけど。

保健所のパンクを招いた本当のワケ

――たとえばJCHO病院をすべてコロナ専門にして、保健所が入院調整なんかしなくても、普通のお医者さんが診断し、近くのJCHO病院にストレートに入院させる。これが本来の形であり、法的にもそう想定されていたわけですよね。

 そうです。

――そうすれば、目詰まりもないですよね。

 その通りです。反対に、ベッドが足りなければ絶対に目詰まりする。それなのに、法に基づいて保健所が入院調整しなければいけないようにしたので、保健所はパンクして、目詰まりという結果だけが残ってしまった。

 実は、私の知人が個人的にちょっと病院を探し、私も協力した。そうしたら、「患者が勝手に病院を見つけてたらおかしいじゃないか」とクレームをつける保健所があったんです。「何でそんなところから勝手に入るんだ」と。

 病院の方は、保健所からこう言われるのがすごくイヤなんですね。というのは、入院させる方の病院側は、保健所を通さないと報酬が入らない可能性が出てくるんです。コロナの場合は、保険診療ではなくて国の方からもらう形になるので、保健所を通していないと、手続きで意地悪される恐れがあるんですね。

 もう医療の問題じゃないんです。病院にすれば、すごくお金がかかるので持ち出しはイヤ。だから、保健所が絡まないと進まない構造になっている。だけど、これは厚労大臣が「どこでもいいから入院させてください。お金は払いますから」と、オーバーライドして言えばすむ話なんです。

会議室を利用して自宅療養者らの電話対応に追われる応援職員ら=2022年7月28日、静岡市葵区城東町の市保健所

入院調整問題をクリアするために必要だったこと

――そこは政治の問題ですよね。

 はい、そうなんです。法律的には、感染症法で保健所を介して指定病院に入院させることになっています。加えて民間病院も通知などで増やしている。だから、保健所を介して診断して、保健所を介して調整することになってるんですね。

――感染症法上はそうなっていますが、コロナ・パンデミックという新しい現実は、それを乗り越えてしまったわけですよね。この新しい現実に対して、法的にはどう対処すればよかったのでしょうか。

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