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民主主義を守るための国葬儀という岸田首相の詭弁が民主主義を毀損する

法令に基づかない特定個人の特別扱いは、主権者対等性の原則に反する

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

閉会中審査で繰り返された「民主主義」

 岸田文雄内閣総理大臣は、22年9月8日の衆議院議院運営委員会にて、安倍晋三元首相の「国葬儀」について説明を行った。

 「国葬儀」の実施は、内閣府設置法4条3項「内閣府は、前条第二項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる」の33号「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること」に基づき、7月22日に閣議決定された。

 なお、同日、参議院議院運営委員会にても説明が行われたが、冒頭の首相説明は同じであり、本稿ではもっぱら衆議院の説明に基づいて論じる。

衆院の議院運営委員会で、立憲民主党の泉健太代表の質問に答弁する岸田文雄首相=2022年9月8日衆院の議院運営委員会で、立憲民主党の泉健太代表の質問に答弁する岸田文雄首相=2022年9月8日

 岸田首相は、安倍元首相の「国葬儀」の意義として「民主主義」を強調した。岸田首相は「国として葬儀を執り行うことで」「(暴力に屈さず)我が国は民主主義を断固として守り抜くことを示し」ていくと共に「(弔問する海外要人と会談することで)安倍元総理が培われた外交的遺産をしっかりと受け継」ぐことを「国葬儀」の意義と説明した。また、約3分間にわたる説明のなかで「民主主義」の語を4回使った。

 つまり、日本の民主主義のための「国葬儀」であるというのが、岸田首相の示した「国葬儀」の主たる意義である。岸田首相が、他の意義として挙げた「安倍元首相への哀悼を示す」ことや「海外要人と会談する」ことは、従来の内閣・自民党合同葬でも死去した首相経験者に対して行われていた。すなわち、内閣・自民党合同葬でなく「国葬儀」とするのは「民主主義のため」という点にあると、岸田首相の説明から理解できる。

 すると、安倍元首相の「国葬儀」を実施することが、はたして「民主主義」に照らしてどのような意義を有するのか、検証することが「国葬儀」への姿勢を考える上で重要になる。「国葬儀」が民主主義を守り、発展させることにつながるならば、岸田首相の説明は適切となる。逆に、民主主義を毀損することにつながるならば、岸田首相の説明は不適切となり、従来の内閣・自民党合同葬に変更する、もしくは中止することが適切となる。

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民主主義は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず

 まず、岸田首相の民主主義観は、選挙を最重視するものと考えられる。少なくとも、国会説明においては「民主主義の根幹たる選挙」と繰り返し述べている。「民主主義の根幹」たる国政選挙で6回勝利した安倍元首相が「民主主義の根幹」たる選挙運動で遭難したことから、「国葬儀」として追悼することが「民主主義を守る」ことなると説明している。

 確かに、選挙は民主主義において極めて重要な営みであるが、最優先される原則ではない。議会制民主主義においては、主権者の代理人たる高位の公職者を選ぶ際、一般的に選挙を行う。だが、選挙が民主主義において絶対と考えられているわけではない。例えば、

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