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高齢化対応に必要なのは女性の人生のあらゆるステージへの支援だ~国際高齢者デーに寄せて

将来の高齢者、特に女性が持続可能な開発に貢献できるようにするために何ができるか?

ビヨン・アンダーソン 国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋地域事務所長

 世界で最も急速に高齢化が進む地域のひとつであるアジア太平洋地域。2050年になると、4人に1人が60歳以上となり、その過半数が女性だと言われています。こうした少子高齢化に対応するためには、女性や少女たちの権利や選択を中心に据えた対応が必要だ、と言う国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋地域事務所長のビヨン・アンダーソン氏に、「国際高齢者デー」(10月1日)に合わせて「論座」に寄稿をしていただきました。
※この記事は日本語と英語の2カ国語で公開しています。英語版「What an Aging Society Needs is Support for All Stages of Women's Life」もご覧ください。(論座編集部)

 女の子が生まれた瞬間から、人生のあらゆる段階で下す決断により、その女性が尊厳を持って年を重ねていけるかどうかが左右されます。世界の人口は間もなく80億人に達し、アジア太平洋地域は世界で最も急速に高齢化が進んでいる地域の一つです。将来の高齢者、特に女性が、持続可能な開発に向けてさらに積極的に貢献できるようにするために、各国はどのようなことができるでしょうか。

ラオスの新生児。世界人口の約半数がアジア太平洋地域で生まれている一方、同地域では1時間に約10人の女性が妊娠出産の合併症で命を落としている。

ジェンダー平等を中心にしたライフサイクルアプローチを

 世界的に少子化が進み、被扶養人口が増加していることを踏まえ、国連は2021年から2030年を「健康な高齢化の10年」と宣言しています。アジア太平洋地域では、2050年までに4人に1人が60歳以上となり、その大半は女性であると言われています。女性が社会経済の発展に積極的に貢献し続けられるよう、健康で有意義かつ自立した高齢期を送ることが重要なのです。

 そのためには、ジェンダー平等を中心に据えたライフサイクルアプローチを推進する必要があります。つまり、女性が健康で、尊厳を持って、スキルを身につけ、自己決定権を持ち、潜在能力を最大限に発揮して社会に貢献できるように、幼少期、思春期、生殖年齢期、高齢期に至るまで、女性の人生のあらゆるステージを支援することが必要なのです。

スリランカの家族。ライフサイクルアプローチに基づき、少子高齢化に対して、女性が力づけられることで、家族全体が恩恵を受け、その恩恵が将来の世代に波及する。

アナが生きてきた道とこれから

 ここで、アナの事例を紹介します。

 30年前、アナが生まれたとき、彼女の母親は近くの病院を利用することができました。その結果、妊娠・出産時の合併症を回避し、無事に出産することができたのです。妊娠・出産時の合併症は、母子の健康に長期的な影響を及ぼしますが、専門的な妊産婦保健サービスを受けることができれば、ほとんどの場合、予防することが可能です。

 アナは10代になると、思春期の若者が経験するある種の変化に気づきます。彼女は学校の授業で生活スキルについて学び、人生で直面するさまざまな問題に対応するための理解力と分析力を身につけることができました。このことは、彼女が学校を卒業し、工学の学位を取得し、大学の同級生と結婚する際に特に役に立ちました。

 現在、アナはエンジニアリング会社でコンサルタントとして働いています。仕事に満足し、母親を養うこともできます。夫も働いており、2人とも経済的に自立し、健康で幸せな結婚生活を送りながら、地域社会や経済全体に積極的に貢献しています。

 アナは2年後に子どもを産みたいと考えています。その時には、アナと夫は子どもに十分な医療と教育を受けさせ、快適な住まいを与えることができるようになっているはずです。さらに30年後、アナは幸せな老後を過ごし、将来の娘が幸せな人生を送り、健康な老後を送ることができるようサポートしたいと考えています。

ミャンマーの少女。アジア太平洋地域の労働年齢人口は約32億人だが、実際の労働力人口はその3分の2。スキルの習得を通じて女性が経済的に自立することで、年齢に応じた自らの人生を形作れる。

アジア太平洋地域でいま起きていること

 しかし残念ながら、アナのような女性ばかりではありません。

 世界人口の約半分がアジア太平洋地域で生まれている一方で、悲劇的なことに、この地域では1時間に10人の女性が妊娠・出産時の合併症で亡くなっており、そのほとんどがアフガニスタンとパプアニューギニアに集中しています。この地域の 1 億 4000 万人を超える女性はいまだに、家族計画サービスや妊娠を計画するための情報を享受できていません。

 また、親密なパートナーから身体的・性的暴力を受けたことがある女性の割合は高く、インドネシアの11%から、フィジーとソロモン諸島では64%にのぼります。世界の青少年18億人の半数以上がアジア太平洋地域に住んでいますが、これらの若者のほとんどは、自分の体について十分な情報を得た上で意思決定や選択ができるような包括的なセクシュアリティ教育を受けることができません。

すべての女性がアナのように生きるために

 UNFPA(国連人口基金)は国連の性と生殖に関する保健機関として、すべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に行われ、すべての若者の可能性が満たされるよう活動しています。これらの目標を達成することで、各国が高齢者が健康な社会を実現し、女性が社会経済の成長に十分に貢献できるようになるのです。これはまた、女性と少女の権利の実現が開発の中心であると定めた「国際人口開発会議」の行動計画の実現への道筋をつけるものでもあります。

 アナと同じように、すべての女性が自分のスキルを高め、夢を実現し、社会に貢献し、結婚や妊娠について自分で決定する力を得るための平等な機会を享受することが不可欠です。そうすれば、彼女の子どもたちも、自分のからだや人生について十分な情報を得た上で選択し、決定することができる世界で成長することができるのです。

 そのために、私たちはアジア太平洋地域全体の政策立案者に対し、学術界や市民社会と協力し、各国の開発計画や政策、取り組みが女性と少女の権利を中心に据えたものとなるよう求めているのです。

タイの女性。第一子出産後二か月での職場復帰を目指している。「社会は変わりました。女性は働き、自分のことは自分でできるようになり、夫に頼らなくてもよくなったのです」。

人生のあらゆるステージを支援することが重要

 誕生から思春期、成人期まで、女性の人生のあらゆるステージを支援することは、女性が尊厳を持って歳を重ねるための強固な基盤を提供するために極めて重要です。高齢化のメリットを享受するためには、世代を超えたライフサイクルアプローチが不可欠です。

 それは、次の世代に健康で活動的な高齢化をもたらし、アジア太平洋地域、そして世界の持続可能な開発に貢献するものだからです。

 UNFPAアジア太平洋地域事務所は、日本政府外務省とのパートナーシップにより、女性の人生の節目となる重要なステージを写真と映像で紹介する、旅する写真展「すべての世代の彼女のために (#ForEveryAge of HER LIFE)」を実施し、幸せで健康な高齢化を実現するために、女性の人生のすべてのステージを支援することの重要性について紹介します。

◇写真展 #ForEveryAge of HER LIFE(すべての世代の彼女のために)
 10月1〜2日、東京国際フォーラムで開催される「#グローバルフェスタJAPAN2022」でUNFPAが写真展を行います。外務省後援の #ForEveryAge of HER LIFEキャンペーンの一環である本写真展では、アジア太平洋地域の女性の各ライフステージを映した写真とともに、UNFPAが推進するライフサイクルアプローチを紹介します。

◇UNFPAアジア太平洋地域事務所主催 #国際高齢者デー 記念オンラインイベント

 写真展「#ForEveryAge of HER LIFE(すべての世代の彼女のために)」に伴うオンラインイベントを10月1日(土)15:45~16:45(オンラインのみ)に開催します。国連大学上級副学長・東京大学教授の白波瀬佐和子氏、UNFPAアジア太平洋地域事務所長のビヨン・アンダーソン、同事務所 地域アドバイザーの森臨太郎が登壇します。事前申し込みは不要です。「こちら」からご参加ください。


 #グローバルフェスタJAPAN2022の1日目10月1日(土)は、#国際高齢者デー です。UNFPAは、女性や若者のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの問題を中心に、人口高齢化に関する課題解決にも取り組んでいます。みなさまのご来場をお待ちしています。イベントの詳細は「こちら」から。

 このイニシアチブは、アジア太平洋地域の人口高齢化に対処するための各国の政策や計画に、人権に基づくライフサイクルアプローチの採用を提唱するUNFPAの地域キャンペーンの一環として実施されます。詳しくは「こちら
※この記事は日本語と英語の2カ国語で公開しています。英語版「What an Aging Society Needs is Support for All Stages of Women's Life」もご覧ください。(論座編集部)