メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

地方政治、沖縄県民と向き合う社会民主党の流儀とは~福島瑞穂党首に聞く

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【15】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

 「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。今回はその15回。13回から論じている、地方政治や地方選挙の現状を政党がどう認識しているかについて、さらに考察を深めます。(論座編集部)
◇連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」は「こちら」からお読みいただけます。

参院選の結果について記者会見する社民党の福島瑞穂党首(左)。右隣は服部良一幹事長=2022年7月11日、東京・永田町の参院議員会館

  もう一つの日本政治である地方政治や地方選挙の現状について、当事者たる政党はどのように認識しているのか。前回(第14回「有権者の地方選での投票行動はどう変わったか?~国民民主党の見方は……」)は、国民民主党の古川元久・国対委員長(衆議院議員)に話を聞いた。今回は社民党の福島瑞穂党首(参議院議員)に聞く(インタビューは2022年9月6日)。

 「私自身は、地方議会にもっと多様な人びとや多様な市民が出たり、住民がより傍聴に行ったりすることで、自分たちのまちを変えていくことに、日本の民主主義に未来があると思っています」という福島党首は、地方政治や地方議会について熱く語った。

 なお、このテーマについては、第13回「地方選挙における候補者の集票環境はどう変わったか~明推協意識調査から考える」から過去2回の連載を御一読いただければ幸いである。

日本政治と向き合い続けた社会党・社民党

 まず、なぜ社民党(社会党)を扱うのか。それは、同党が長く日本政治の歴史と共に歩んできたからにほかならない。

 現在の自民党は戦前の二大政党である立憲政友会と立憲民政党の系譜がある。他方、社民党(社会党)は、戦前の三つの無産政党の流れ、すなわち日本無産党系、日本労農党系、社会民衆党系がある(原彬久『戦後史のなかの日本社会党』中央公論新社、2000年、p.3)。なお、戦前・戦中の日本共産党は、非合法組織であった。

 敗戦後、社会党(社民党)と日本共産党は、1947年4月の第1回統一地方選挙から選挙に臨み続けている。それゆえ、地方政治・地方選挙を扱うにあたり、社民党と日本共産党を扱うことは必須となる。

現行の地方議会選挙制度の問題点

 まず、現行の都道府県議会の選挙制度について、社民党はどう認識しているのだろうか。福島党首は次のように答える。

都道府県議会選挙では……

 都道府県議会は市区町村の区域を単位とする選挙区が設置されているため、多様な民意を反映しづらくなっています。前回(2019年)統一選挙では、道府県議選挙での無投票当選者が全体の4割程度を占めるなど、選挙自体が成立しなくなっているのが現状です。

 広域の自治体として、市町村の支援や補完、連絡調整などより幅の広い広域的な役割が求められていることを踏まえ、また二元代表制を補完する意味からも、選挙区を広域化して定数を増やすことが好ましいです。比例代表選挙の導入も検討すべきです。道府県の権限の多くが移譲されている指定都市の議会、他の区域の自治体、道府県の議会など指定都市を含む道府県については、議員の選出方法や権限・制度のあり方について調整する必要があると考えます。

 県議選は、無投票がものすごく多くなっています。最大の問題は、基礎自治体に比べて、得票数が多くないと当選できない点です。現職が強くなり、選挙区に現職が1~3人いるなかで新人が入り込むことは困難です。

 小さな自治体では、新人が「変えよう」と思って周りに頼んで、あるいは女性とか特色を出して当選するということはあると思います。県議会議員となるとそうはいかず、何千、場合によっては何万票が必要になります。組織を持たない人や新人はとても難しいです。自民党と一騎打ちで1人しか当選しない選挙区もあるので、正直、擁立が困難なところがあります。

 例えば、女性議員を増やすために出てくださいと言うときに、容易に出馬して当選するという状況ではありません。選挙区でガチガチに地盤ができているところに、食い込むことが難しい点が課題です。新人や女性が入りにくい現状を変えたいと思います。中選挙区に近い形に変えるという点もあるかと思います。

市町村議会選挙では……

 1~3人区での県議選新人当選の難しさ、1人区での候補者擁立の困難性が率直に語られる。選挙区構成については、拙著『都道府県議会選挙の研究』(成文堂、2022年)で相当詳細に議論しており、別の回で改めて論じたい。市町村議会選挙についてはどうだろうか。

 市議会選挙は何十名も当選する制度です。新人、若い人、女性、LGBT、マイノリティなど、大きな組織や票田のない方も当選する可能性があります。政治に関心のある有権者以外には、どの候補者がどういう考え方で何をやろうとしているのか、分かりにくいという問題もありますが、基礎自治体の選挙には新人が出やすいのは事実です。

 社民党は社民党で出馬しますが、自民党の党籍がある人は無所属で出馬される方、掲示板を見ると所属が書いてない方が多いです。党名がないと、候補者の考え方が分かりにくい面はあると思います。そのため、有権者にとっては、国政選挙の方が身近になってしまいます。国政選挙では政党同士が政策で争っていることを前提に投票行動ができますが、地方議会選挙だと党名や政策が分からないからです。

 福島党首はさらに踏み込む。

 現行の市町村議会議員の選挙は(指定都市を除いて)、原則として自治体の区域全域を対象に実施されています。都道府県議会が小定数で切り分けてしまうことによって小さな民意を拾いきれなくなっているのとは逆に、全区域から単一の制度で選出することで、多様な実態の地域の事情が拾えなくなっている面があるのではないかと思います。現行制度下でも条例によって選挙区設置などが可能であり(実施例はない)、幅広い民意をより多様な取組みを期待したいです。

 また、市町村議会議員の選挙は個人本位の関係(地縁)を中心とした制度となっており、専門性の確保や、具体的な政策選択になりづらい面もあります。多数の候補者のなかから有権者が支持する候補者を公平に探すには多大なコストが必要となるため、選挙への関心が薄くなり、投票率も低くなっているのが現状です。

 とくに小規模自治体では、議員の待遇が十分とは言えないため(町村議会議員の報酬の月額全国平均は21万円程度)、議員専業者は42%程度しかいません。慢性的になり手不足です(2019年の町村議会選挙では23%にあたる988人が無投票であり、定員割れの自治体も増えている)。

 実効的な代表選択を可能とするために選挙は重要で、議員のなり手の確保が大前提です。現在の自治体議員の待遇の改善(報酬や年金制度の見直し、兼職禁止規定のあり方)に加え、新たななり手を確保するため、勤労者の立候補休職制度整備、会期のあり方見直し、夜間・休日の議会開催なども検討課題とすべきです。

 選挙制度の見直しも必要です。少子高齢化がすすむ地域社会の最前線である自治体議員の選び方は、多様な民意を幅広く公平に集約するために、より柔軟に見直す必要があるのではないでしょうか。大規模自治体では比例代表制度を導入する、中小規模自治体では制限連記制や選挙区の設置、小規模自治体では議会の権限を精査したうえでくじ引きの導入、なども検討課題となるのではないでしょうか。

>>>この記事の関連記事はこちら

女性が出にくい状況を変えたい

 選挙区定数が大きい市町村議選では、新人が立候補しやすい反面、有権者が投票先を判断するのに参照すべき候補者情報が多すぎる問題がある。ここで第14回「有権者の地方選での投票行動はどう変わったか?~国民民主党の見方は……」で扱った県(道・府)議選と市(町・村)議選の「投票で政党か候補者個人か」のデータを見せた。

 県議選でも市議選でも、有権者が候補者個人と触れ合う機会が少ないです。政党中心へと変化するのは、当たり前だと思います。盆踊り大会に来たとか、焼きそばを食べたといった話よりも、どういう政党、どういう主張なのかを知りたいというのは、有権者にとっては当然です。しかし、それがポスターや公報では分かりにくい、党名が分からないという現状になっていますよね。

 私自身、地方自治は国会とは違うと思っていますが、自治体議員に聞くと、各地方議会の決議案や意見書をどうするかといったときに、党の方針を照会することがあります。実際は政党政治的に動くことも大いにあるのに、選挙で選ぶときには分かりにくいというのはあると思います。

 女性がゼロ、1人というのは45%なんです。県議会にしても女性が出るのがとても難しく、大きな組織、大きな票田に支えられなければ出にくいです。市町村議会選挙では事実上、町内会で推薦をするという話も聞きます。町内会の代表になっている女性は極めて少ないですから、無所属で出馬しようとしても排除されるという。これも女性が出馬するのを難しくしています。

 政治は女性に向いていると思います。とりわけ基礎自治体だと、福祉や子育て、介護、街づくり、障がい者政策、ゴミ問題など、市民運動・社会運動が範囲とする関心ごとが政策分野です。女性が出にくい状況は変えたいですよね。

 パワハラ、セクハラの問題についても、地方議会の方が激しいように思われます。国会の場合はメディアの目もあり、本会議・委員会もテレビ放送、オンライン中継などすぐに可視化されます。地方議会だと、可視化されにくく、閉ざされたところもあります。

 被選挙権の年齢引き下げもありだとは思います。一生議員ではなく、元気で若いうちに市民運動の延長線で議員になっても良いと思います。自分の周りに18歳の議員がいれば、若者も政治に関心を持つのではないでしょうか。

 都道府県議会選挙制度、市町村議会選挙制度の法改正について、党として動きはあるのだろうか。「制度のあり方についての検討はありますが、具体的な法改正自体については検討していません。自治体議員の選挙制度については、当事者も含めた地方組織において中心的に議論をしていただきたいと考えています」ということであった。

党内コミュニケーションと選挙公約作成プロセス

 現在の社民党は、国会議員(2人)と比べて地方議員の数が相当に多い。党内コミュニケーションはどうなっているのだろうか。

 プロジェクトチーム(「いのちと暮らしと労働のプロジェクトチーム」)をつくっており、会議をZoomでやります。パンフレットを作成したり、医療や介護などいろいろなことをやっています。

 コロナ禍になって、インターネット番組をやるようになったり、Zoomで介護についての意見交換やヒアリングをやるようになったので、もしかしたら前よりも活発になったかもしれません。

 政党にとって選挙は一大イベントである。国政選挙と統一地方選挙では、選挙公約の作成プロセスに違いがあるのだろうか。

 作成プロセスには大きな違いはありませんが、検討対象は異なります。自治体議員や地方組織の意見などを重視しながら作成に取り組みます。国政選挙では支援者と一緒に作るということもあります。

 社民党では、いろんな活動をやっている人たちと一緒に作っていこうと思っています。大きな組織がなくなってしまった分、市民の人たち、組合、ユニオンの方々に支えられ、そこで政策を作っていきます。「みずほ塾」をやっていますが、若い女性の方などが政治を変えようという思いがでてきていると思います。

 今回の参議院選(2022年)では、組織票というよりも、気候危機、反原発、LGBT、ジェンダー平等、憲法9条改悪、平和のことなどで、けっこう若い方が応援してくださいました。若い女性の方たちが街頭に来たり、マイクを握ってくれたり、組織票というよりも、そういう方々が本当に応援してくれました。組織がなくなった宮城や山形でも票数を得ていますから、様々な人が投票してくださったかもしれません。

 社民党はボトムアップの政党ですが、一人でも多く自治体議員がつくれるよう、がんばっていきたいと思います。

国会議事堂=2022年9月6日、東京都千代田区永田町(筆者撮影)

>>>この記事の関連記事はこちら

沖縄県民から支持される理由

 都道府県別に見ると、沖縄県での社民党都道府県別比例得票率(2022年参議院選)は10.99%で、最も高い値である(2位は大分県の5.83%)。沖縄県には基地問題という特有のアジェンダがある。社民党は、2022年参議院選でも選挙公約で基地問題を掲げた。なぜ沖縄県民から支持され続けているのだろうか。

・・・ログインして読む
(残り:約4094文字/本文:約9437文字)