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「反撃能力」の保持に条件あり!~防衛費増はまず行革から

専守防衛の範囲内である反撃能力への国内外の理解を深めるために必要なこと

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 政府が「国家安全保障戦略(NSS)」など安全保障関連3文書の年内改訂を目指して突き進んでいる。なかでも、敵のミサイル拠点などに攻撃を加える「敵基地攻撃能力(反撃能力)」保有のNSSへの明記が注目を集めている。

 自民党の会議に出された政府案によると、この能力は、「我が国への侵攻を抑止する上で鍵となる」もので、「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」と説明されている。スタンド・オフ防衛能力とは遠方から敵を攻撃する能力のことで、長射程のミサイルが念頭に置かれているという。(「朝日新聞」12月14日朝刊)

「反撃能力」は専守防衛の範囲内

 岸田文雄政権は、自民・公明両党の合意を経て、12月16日に3文書改訂の閣議決定に持ち込む予定と言われるが、内外、とりわけ諸外国に誤解を与えないためにも、「敵基地攻撃能力」ではなく、「反撃能力」としたほうがいい。

 なぜなら、「敵基地攻撃能力」という表現では、明示的にも先制攻撃を排除していないので、誤解を生むおそれがあるからだ。もちろん、誤解されないために、「武力行使の三要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置」と念を押してはいるが、「敵基地攻撃能力」という言葉が独り歩きするのは危険だ。

 これに対し、「反撃能力」との表現は、明確に相手の先制攻撃を前提にしているので、専守防衛の範囲を逸脱していない。

 問題は、相手国の日本に対する弾道ミサイルなどの攻撃のどの段階で反撃するのかということだろう。それが「日本に向けたものか」、「発射のどの段階であるか」の判別は難度が高いものと思われる。専門家による正確で厳密な理論構築が必要である。

首相官邸に入る岸田文雄首相=2022年12月14日、首相官邸

安保環境の激変で求められる新たな戦略対応

 今や、無人の飛行体が、秘かに迅速に正確にかつ大量に、相手国の標的を襲って破壊することができる時代である。一国の安全保障環境がこれほどまでに一変している現状が、われわれに新たな戦略対応を求めているのは当然だ。

 くわえて、世界を見渡せば、大国の指導者までもが、質的に劣化、悪化の一途をたどるような嘆かわしい流れが強まっているようにも見える。新しい安保政策が必要であることは論を俟(ま)たない。

 これまで、日本の安全保障は、アメリカの矛(ほこ)と日本の盾(たて)によって、守られていると言われてきた。しかし、かねてから私は、専守防衛とは、自らが矛を持つことを含むと理解してきた。アメリカへの過剰な依存は、わが国の独立性を損なうと思ってきたからだ。

 ただ、留意するべきは、反撃能力として矛を持つことを明示するために、われわれが備えるべき「さまざまな前提条件」があるということである。以下、具体的に論じたい。

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歴史認識をあらためて明確に

 前提条件の第一は、先の大戦についてのわが国の歴史認識を、あらためて明確にすることだ。そこが曖昧(あいまい)のままで、戦前の日本の国策を正しいとしていると見られれば、今回のロシアによるウクライナ侵攻についても、あるいは心配される中国の台湾侵攻についても、日本が強く反対することが、奇異に映るだろう。

 この点については、1995年の村山富市首相、2005年の小泉純一郎首相、2015年の安倍晋三首相の3回に及ぶ「首相談話」によって明らかにしてきた。3回ともほぼ同じ談話を発しなければならなかったところに、戦前の日本に対する国際社会の厳しい視線がうかがえる。

 この3回の首相談話は、日本が侵略戦争植民地支配の事実を認め、それを反省し、相手国にお詫びしているという太字の四点で共通している。これらの歴史認識を明確にすれば、日本が他国から先制攻撃を受けて反撃することに、国際社会から強い支持と理解が得られるであろう。

外交力を高めるために必要なこと

 前提条件の第二は、当然のことながら、武力衝突を回避するために、最大限の外交努力をしなければならないということだ。その場合、反撃能力を保持することは、有効な抑止力として働く。丸腰で覇権主義国に向き合っても平和を得ることはできまい。反撃能力の保有が外交的解決を可能にする場合が多い。

 ギリギリの外交交渉においては、それにあたる政治家や外交官の力量、資質、見識、人柄が決め手になる場合が多い。愚かな外交が人類を破滅的な状況に導くことは、第2次世界大戦への経過が鮮明に示している。

 周辺事態が緊迫の度合いを強める前に、平時から同盟国、友好国、国連との協調関係を強め、外交力を強化しておく必要がある。最大限の外交努力があってこそ、反撃は正当化されるのである。

 第2次大戦は、イギリス、フランス両国の首相と国会がヒトラーのドイツを見誤り、「平和を求めるあまり戦争を招いた」とも言える。

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