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政治家はスポーツがお好き?~自民党候補者の「趣味」と選挙結果についての考察

自らをアピールする情報としてどんな趣味を記載したのか。それは有利に働いたのか…

河野勝/菅野壮介 早稲田大学政治経済学術院教授/早稲田大学河野勝ゼミ19期生

 2021 年10月の衆議院議員総選挙に向けて、自民党が選挙特設サイトを立ち上げた時、小選挙区の候補者を紹介するページに目新しい項目が一つ追加された。「趣味」である。

 このサイトは、現在でも閲覧できる。正確には「趣味など」という大項目の中に「趣味」の欄があり、「座右の銘」「好きなもの・こと」「苦手なもの・こと」も並んで記されている。ほかに掲載されている情報は、当選回数、生年月日、経歴、実績、関連動画だ。

 自民党は、翌年(2022年)の参院選でも、形式は異なるが、候補者紹介の一端として趣味についての情報提供を続けている。ちなみに、他の主要政党の同様のサイトも確認したが、経歴や実績は掲載されているものの、趣味に関する情報はほとんど見当たらない(筆者らが調べた限りで唯一の例外は、2021年衆院選での国民民主党であった)。

自民党が2021 年10月の衆議院議員総選挙ののためにつくった選挙特設サイト

「趣味」の追加は岸田首相の意向

 なぜ、自民党は候補者紹介のページに趣味(など)を付け加えることにしたのか。筆者らは、直接自民党に聞き取りをしてみた。

 寄せられた回答(下記)によると、この経緯については、当時就任したばかりの岸田文雄首相(総裁)自身の意向が働いたようである。

 岸田総裁の「聞く」姿勢を受けて、広報では有識者やZ世代から意見を聞く機会があった。その中で政治家を身近に感じて貰うためには「まず知ってもらう、興味を持ってもらう、共感してもらうこと」が必要と感じ「趣味」などの候補者の人柄が分かる内容を追加した。 (自民党広報本部からのメールによる回答:2022年12月23日付)

 経歴や実績だけでなく、候補者の「人柄」を有権者に知ってもらうことも大事であるというのは、ごく良識的な見解ないし立場であるといえるだろう。他方、この特設サイトが選挙の直前に立ち上げられたことからすれば、候補者の人柄をうまくアピールすると得票を増やす効果が期待できるかもしれないという、選挙戦略上の思惑が反映されていた可能性も否定できない。

 では、実際に、自民党の候補者たちはどのような趣味を、自らをアピールする情報として記載したのだろうか。また、そうした情報は候補者を利する効果を持ったのだろうか。

人としての魅力を伝える情報として

 有権者が投票先を決める際、候補者の経歴や実績だけでなくその人の趣味に関心を持ったとしても、なんら不思議なことではないであろう。われわれは普段から、人を評価したり理解したりする上で、相手の趣味についての情報を得ようとする。初めて知己を得た人に、あるいはより親しくなりたいと思いを寄せる人に、趣味をたずねることはよくある。

 かつて就職や転職活動において用いられていた履歴書の定型書式には、趣味を記載させる欄があった。今日ではインターネットの普及に伴い、各社は自由なフォーマットを使用するようになったが、それでも趣味についての入力を求める企業は、依然として多いようである。現代社会では、人としての魅力を伝える情報の一端として趣味が位置づけられているのである。

 こうした背景をふまえると、趣味の記載が党の方針として決定された時、自民党の各公認候補者たちはその内容をどう開示するかについて、細かく注意を払ったであろうと推測される。どのような分野の趣味も、おしなべて有権者にとって良いイメージを与えるとは限らない。その一方で、どんな趣味を掲げれば良いイメージを与えられるかという判断は、候補者ごとに異なるかもしれないからである。

 なお、筆者らが行った党本部への聞き取りでは、「特設サイトへの情報提供にあたって候補者にアドバイスや指導を与えたか」と尋ねたが、そのようなことはしなかったとの回答があった。つまり、自民党は、党として趣味の項目を付け加える決定を行いながらも、その内容については各候補者に任せていたのである。

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候補者は多趣味なのか

 さて、手始めに、候補者たちが自らの趣味としていくつの項目を掲げたかを数えあげてみよう。趣味の記載は、自由回答形式で入力された内容をそのまま集計したものである。それゆえ、各候補者は思うがまま、いくつもの趣味を列挙することが可能であった。

 そこで、筆者らは次のように考えた。候補者は、なるべく多くの有権者に親しみを感じてもらうために自分がいかに多趣味であるかをアピールすることが得策と判断したのではないか、と。ある特定の分野の趣味だけを明示すると、その趣味を共有する有権者の共感を得ることはできても、そうでない有権者からは相性の合わない候補者だというレッテルを貼られるかもしれないからである。

 しかし、図1に整理したところによると、候補者たちが多趣味であることをことさら強調した形跡は見受けられない。

図1

 この図は、いくつの趣味を挙げたかによって、候補者の分布を示したものである。最も多かったのは2項目を挙げた95人で、それは全候補者279人の34.1%に当たる。次に多かったのは3項目を挙げた70人で、全体の約4分の1ほどである。たしかに、中には5つ以上もの項目を挙げて、多趣味を強調するかのように見受けられる候補者もいたが、そうした候補者は少数で例外と位置づけられる。

 興味深いのは、趣味をひとつも記載していない候補者も23人いたということである。(党の方針にもかかわらず)不記載だった理由は、もちろん、こうしたデータだけからでは読み取りようがない。特定の趣味を明記するよりは、無趣味であることを貫き、この欄を空白のままにしておく方が選挙戦略上得策だと判断した候補者がいても、おかしくはない。

 ただ筆者らは、岸田首相(総裁)本人の意向が働いていたのならば、少なくとも岸田派に属する候補者たちは一丸となって「人柄」を積極的に訴えようとしたのではないか、とも考えた。しかし、この23人の中には岸田派の政治家たちも複数含まれていた。当時はまだ、趣味を自己申告することの必要性や重要性が、候補者によっては真剣に受け止められていなかった、ということなのかもしれない。

趣味の数と当落に関係はあるか?

 では、趣味の数と選挙結果、すなわち候補者の当落との間には、何らかの関係が見出されるのだろうか。いうまでもなく、選挙には様々な要因が影響を与えるので、限られたデータから因果を推論することはできない。ただ、せっかくの機会なので、ごく単純に傾向を調べ図示(図2)してみた。

 少なくともこの図からは、趣味の数と選挙結果の間に明確な関係があるとはいえそうもない。当選確率が高かったのは4もしくは3項目の趣味を記載した候補者たちで、それぞれ94.4%と94.3%であった。この数字は、2もしくは1項目の趣味を申告した候補者たちの当選率が80%台中葉(それぞれ85.3%と84.2%)であったことと比べると、約10%も高い。

 しかし、5項目以上の趣味を入力した候補者たちの確率は、75%に留まり、むしろ低迷した。また、趣味をひとつも掲げなかった候補者たちが当選した確率も、91.3%と意外に高い。以上から、趣味の数が多ければ当選率が高くなるという一貫した傾向は見られない、と結論すべきであろう。

 さて、ここまでは、候補者がいくつの趣味を記載したのかを見てきたが、有権者に人柄を伝えるための情報という観点からすれば、より重要なのは記載された趣味の内容である。そこで、以下では、候補者が掲げた多種雑多な趣味をいくつかのカテゴリーに整理して、その傾向と効果について調べてみよう。

自民党本部=東京都千代田区永田町

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「スポーツ」を挙げた候補者が最多

 先述した通り、自民党選挙特設サイト上での趣味の記載は、自由回答形式に基づいていたので、用語やコンセプトがまったく統一されていない。分析をわかりやすく進めていくためには、それらをいくつかのカテゴリーへとまとめ直す必要がある。

 そこで、筆者らは、候補者が入力した全ての趣味(の単語や語句)を列挙し、10 人以上が趣味としているジャンルを抽出した。その結果は次の9つとなった。(分類のためのコーディングルールは煩雑となるのでここに示さないが、早稲⽥⼤学河野勝ゼミのホームページにて、⼩論で⽤いたデータセットとともに5⽉以降に公開する。)

スポーツ、ウォーキング・散歩、読書、(芸術などの)鑑賞、音楽(カラオケも含む)、釣り、園芸、家族・家事・ペット、旅行

 図3は、279人の全候補者のうち、それぞれのカテゴリーに含まれる趣味を少なくともひとつ記載していた候補者の割合を、図示して比較したものである。

 この図からは、スポーツを趣味として挙げた候補者が150人と過半数の53.8%に当たり、他のカテゴリーを大きく引き離していることがわかる。次点のカテゴリーは読書の34.4%であるが、約20ポイントも差が開いている。

 もちろん、スポーツには、個人から団体競技まで、多くの種目があるという事情がある。さらに、筆者らのコーディングルールに従うと「ラジオ体操」や「筋トレ」、また(単なる散歩やウォーキングと区別するため)「山歩き」などもここに含まれるので、他のカテゴリーと比べてスポーツの割合が過大評価されている可能性も否定できない。

 しかしながら、そのような事情や可能性を勘案したとしても、総じて、自民党から立候補した政治家たちが好んで何らかのスポーツを自らの趣味のひとつとして記載する傾向があったことは、間違いない。

女性候補者に目立つ「家族・家事・ペット」

 次に、男性の候補者と女性の候補者との間で、趣味の記載のパターンに違いがあったかを調べよう。

 図4は、図3を男女に分けて、それぞれのカテゴリーを選んだ割合を比べたものである。残念ながら、男性(257人)に比べて女性の候補者の数(22人)が非常に少なく、こうした単純な比較から断定的な解釈を引くことには慎重でなければならない。とはいえ、政治家がスポーツ好きであるという傾向については、男性と女性との間でそれほど差がないといえそうである。男性54.5%に対し女性45.5%で、女性の場合は10ポイントほど低いが、それでも他を断然引き離してトップのカテゴリーであることに変わりない。

 むしろ女性に特有のパターンとして目立つのは、家族・家事・ペットのカテゴリーを選ぶ割合(27.3%)が、男性の場合(8.6%)の3倍以上高いということである。自民党から立候補する女性政治家たちにとっては、このカテゴリーに含まれる趣味を掲げることで自らの「人柄」をアピールできると考える傾向が(同党の男性政治家たちに比べて)より強いのかもしれない。

一般人より多い「スポーツ」の愛好者

 候補者たちが好んで何らかのスポーツを趣味として記載するのは、なぜだろうか。

 もちろん、彼らの中には、普段から本当にスポーツを愛好し、実際に趣味として楽しんでいるものも多いであろう。しかし、こうした特設サイトの趣味欄にスポーツを記載すると、来たる選挙に向けて「若々しい」、「清廉である」、「フェアである」などといった良いイメージが増幅されると期待している可能性もある。だとすると、自らのスポーツ好きのレベルをやや誇張して、趣味の欄にそう記載する候補者もいたのではないかという疑念もぬぐいきれない。

 参考までに、一般の日本人の趣味の分布を調査したアンケート結果によると、スポーツは男女共に、必ずしもトップとなる趣味のカテゴリーではない。以下に示すのは、2021 年に株式会社アスマークが行ったアンケート調査で、全国の(性年代均等に抽出された)20 代から50 代の男女480人の サンプルを対象にした集計結果である。

男性:1位 ゲーム17.5% 2位 スポーツ16.7% 3位 読書12.9%
女性:1位 読書20.0% 2位 音楽鑑賞14.2% 3位 旅行12.9%

 この会社の調査でも、最大3つまでという制約があるものの、複数回答が認められる方式でアンケートが行われていた。それでも、男性でさえ、スポーツは2位で16.7%にとどまり、上記の自民党男性候補者の54.5%という数字とは大きくかけ離れている。

 逆に、この調査で1位となっているゲームは、政治家たちの趣味の記載の中でおよそ見当たらなかった。おそらく、本当はゲームを趣味として愛好していたとしても、有権者に向けた情報として「趣味がゲームである」と申告すると良いイメージを生まないという認識があるのではないかと思われる。

Ned Snowman/shutterstock.com

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選挙におけるメリットは

 さて、スポーツが趣味だと記載することで、候補者は選挙においてメリットを受けるのだろうか。

 この衆院選の小選挙区選挙で立候補した279人の自民党公認候補者のうち、当選したのは(比例復活も含め)245人であり、平均当選率は87.8%であった。その中で、スポーツを趣味として記載した候補者は、先にも示した通り150人で、そのうち当選したのは132人である。スポーツ好きの政治家たちの当選率は88%ということになるが、これは上記の平均当選率とほとんど変わらない。

 良いイメージをもたらす効果がスポーツにあるとしても、あるいはそうであるがゆえに、過半数を超える多くの候補者たちが何らかのスポーツを趣味として言及している現状にあっては、もはやそれだけでは選挙結果に違いを生む余地がない、とみることもできるだろう。

 男女別に調べると、スポーツを趣味として記載した候補者の当選率は、男性の場合が88.6%、女性の場合が80.0%と、若干の差がある。しかし、だからといって、女性の候補者にとって、スポーツが趣味であると自己申告することがネガティブな影響を与えるというわけではない。そもそも、男性候補者全体では当選率が89.1%であったのに対し、女性候補者の場合は72.7%とかなり低いからである。ゆえに、数字の上からは、女性候補者にとってスポーツを趣味として記載することは、むしろメリットをもたらしていることになる。

 もっとも、先ほども述べた通り、選挙ではさまざまな要因が当落に影響するので、ここでの単純な比較からスポーツを記載することの効果を確証したことにはならない。

自民党のジェンダーバイアスが浮き彫り?

 最後に、スポーツだけでなく、9つのカテゴリーすべてについて、趣味の記載と選挙での当落との間に関係があるかを調べた。下の表は、それぞれの趣味を記載した候補者たちの当選率を、男女別に整理した結果である。

 いくつかのカテゴリーについては候補者数が少なく、加えて男性候補者数と女性候補者数に大きな違いがあるため、実質的な解釈を引くことには慎重でなければならない。しかし、そのことを承知した上で、小論を閉じるに当たって、ジェンダーバイアスという観点から問題提起をしておきたい。

 ここで注目したいのは、家族・家事・ペットというカテゴリーについてである。男性候補者の中でこのカテゴリーの趣味を記載した候補者は10%にも満たない22人であった。このこと自体、自民党という政党の男性候補者たちの多くが思い浮かべる(と想像される)理念型の政治家像が、家事をしたり家族やペットを大事にする男性の姿から乖離していることを示唆しているように思える。

 しかし、より興味深いのは、表1によると、実はこのカテゴリーの趣味を選ぶことが候補者にネガティブな影響が与えていないことが確認される点である。男性の場合、「料理」や「犬の散歩」などが趣味であると自己申告しても、(平均して)当選率は低くならない。

 これに対して、先にも述べたように、自民党の女性候補者の中では、家族・家事・ペットのカテゴリーを趣味として記載する割合は27.3%と、男性の3倍以上である。このこと自体、自民党という政党から公認を受ける女性たちは、男性と比べると、政治家であっても家事をしたり家族やペットを大事にする傾向が強いことを示唆しているように思える。

 しかし、またしても興味深いのは、このカテゴリーの趣味を選ぶことと当落との関係である。すなわち、表1によると、女性の場合は、このカテゴリーに含まれる趣味を記載すると、(平均して)当選確率が低くなる傾向がうかがわれるのである。

 家族・家事・ペットを趣味として選んでもデメリットを被らないのに、そのようなカテゴリーを記載する男性候補者が(相対的に)少ないこと。対照的に、このカテゴリーを選ぶとデメリットを被る可能性があるのに、依然としてそれを趣味のひとつに記載する女性候補者が(相対的に)多いこと。やや大風呂敷を広げていえば、ここに自民党に根強いジェンダーバイアスが浮き彫りになっているように思えてならないのである。

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