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動き出した核物質管理の国際協力

寺岡伸章 寺岡伸章(日本原子力研究開発機構核物質管理科学技術推進部技術主席)

 フクシマ事故を経験した日本では、減原発の国民的コンセンサスが出来上がり、脱原発にまで踏み込むかどうかが議論の焦点になっている。しかし、世界を冷静に見わたすと、エネルギー確保と地球温暖化問題への対応策として原発には強い支持がある。これから原発を導入する新興国にとって、安定したウラン燃料供給と使用済み燃料の取扱いは重大な関心事項である。

 核不拡散条約(NPT)は不平等条約と揶揄されるが、核兵器非保有国は核兵器を開発しないことの見返りに、原子力平和利用の「奪えない権利」を与えられている。平和利用にはもちろんウラン濃縮やプルトニウムを取り出すための再処理も含まれているため、核保有国から見るとこれらの機微技術が世界に拡散しないことが重大関心事項である。特に、テロとの戦いを続ける米国にとっては死活問題にもなりうる。

 原子力の平和利用を進めつつ核不拡散と核セキィリティを実現するために、国際原子力機関(IAEA)による査察や二国間原子力協力協定などの種々の枠組みが存在するわけであるが、要は核燃料を平和利用に限定するようにうまく管理できれば、核不拡散と核セキュリティを行うことができる。

 テロリストによる攻撃をもっとも恐れる米国は、原子力機器などの受領国にウラン濃縮と再処理の放棄を強く求めて、強い反発を招いてきた。米国は機微技術の無用な拡散を恐れているが、受領国にしてみれば、原子力開発の核となる技術開発を禁止されてしまうと、原子力先進国との技術格差が固定されてしまうことを懸念しているのだ。

 原子力機器の供給国と受領国の利害と意識の差を埋めようと核燃料を巡って国際協力が進展してきている。ウラン濃縮のフロントエンドと再処理、使用済核燃料処分のバックエンドで国際的枠組み作りが検討されてきている。

 2009年11月、ウラン燃料供給の途絶が起こった場合、IAEAと受領国の間で燃料供給保証のモデルとなる協定が承認されるとともに、ロシアのアンガルスクの国際ウラン濃縮センターに120トンの低濃縮ウランを備蓄するためのロシアとIAEAの協定が承認された。2010年12月、IAEAのサポートの下で、ロシアが世界に向けた最初のウラン燃料供給センターの運用を開始した。さらに、2011年5月、IAEAは燃料バンクのホスト国の募集を行い、今や世界最大のウラン生産国となったカザフスタンが強い関心を示している。

 最近米国も動き出した。2011年8月18日、米国エネルギー省国家核安全保障庁は解体核弾頭の高濃縮ウランを低濃縮ウランに希釈して備蓄し、世界市場で原発のウラン燃料が途絶した場合、ウラン燃料を供給すると発表した。ウラン濃縮に関する機微技術の拡散を防ぐのが狙いである。これらのウラン供給安定化の動きは原発新規立地国に安心感を与えると思われる。

 バックエンドに関する国際協力も議論されてきている。

 スウェーデンとフィンランドを除いて自国内での使用済み核燃料の処分場の建設は進展していない。日本、韓国、台湾などでは、原子炉内の貯蔵プールが使用済み核燃料で埋まりつつあり、将来の方向性を見出すことは重要である。

 フクシマ原発事故は電源喪失対応に加えて、使用済み核燃料の安全性とセキュリティの問題を浮き上がらせた。使用済み核燃料の国際的集中貯蔵は核不拡散と核セキュリティの観点から重要なポイントである。

 米国のバックエンド政策を検討中の「原子力の将来に関する専門委員会」が2011年7月に発表した中間報告には、米国内の最終処分地の立地プロセスを進めつつ、当面の方策として中間貯蔵を限定された施設で集中的に行うことの重要性を強調するとともに、長期的には、米国による他国からの使用済み核燃料の取引など核不拡散の国際的取組みにも指導的役割を果たすべきと記載されている。

 韓国も米国と共同で主催する国際会議で、核不拡散と核セキュリティに配慮した使用済み核燃料の国際的取組の議論を積極的に呼びかけている。

 原発はトイレなきマンションとも言われてきたが、バックエンドの解決には国際的枠組み作りは重要な選択肢の一つである。ウラン燃料供給とは異なり、バックエンドはマイナスイメージが強いため、中間貯蔵や処分を積極的に受け入れ難いかもしれないが、カザフスタンやモンゴルが関心を示す中で、関係国が納得できる枠組み作りに向けた議論は今後ますます盛んになると思われる。

 アジアにおける原子力先進国である日本のイニシアティブが期待されるところだ。

(本稿で示されている見解は、筆者個人のものであり、筆者が所属する組織のものではない)

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