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合意の幻想を抱くな――「やらせ」脱却の道

小林傳司 小林傳司(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)

 11月に資源エネルギー庁に「原子力広聴・広報アドバイザリー・ボード」が設置された。その委員長を引き受けている。

 そもそもは、今年6月26日に開催された国主催の九州電力玄海原子力発電所についての佐賀県民向けの説明番組で「やらせ投稿」があったことが国会で取り上げられたことに端を発する。そこで資源エネルギー庁が電力会社に調査を指示したところ、いくつかの事例が報告され、さらにこのやらせ指示に国が関与した疑いも浮上したのであった。

 そこで、海江田経済産業大臣(当時)が国主催のシンポジウム等で国がどのように関与したかの解明と再発防止策の検討を目的として8月に「原子力発電に係るシンポジウム等についての第三者調査委員会」が設置された。その最終報告書は9月30日に発表され、そこで再発防止策として提言された項目の一つが、冒頭のアドバイザリー・ボードの設置であった。

 いわゆる「やらせ」が問題になるのは目新しいことではない。かつて、小泉政権の時にタウンミーティングなるものが実施され、そこで政府の見解に賛成の意見を述べるように参加者に依頼し、原稿まで作成したりしたことが明るみに出たこともあった。この件で、内閣府のタウンミーティング室は廃止され、関係者も処分された。政府だけではなく、このような「やらせ」もどきの行為は、さまざまな場面でおこなわれていることは、ある程度社会経験のある人間には周知といってもよいかもしれない。「かたちを整える」という感覚である。また、いわゆるパブリックコメントにおいて、ほとんど同文のものが大量に投稿されることも知る人ぞ知る事実であろう。

 だから「やらせ」は悪くないと言っているわけではない。再発防止策も必要である。しかしその再発防止策なるものは、的を射たものになっているのであろうか。

 この最終報告書では「やらせ」行為が発生する原因として、「地元住民の理解を深め、民主的な参加手続きとして広く住民の意思を聞くために実施される」シンポジウムなどは「公正性や透明性」が確保されなければならないはずなのに、これが十分に認識されていなかったことを挙げている。

 では、この「公正性と透明性」とは何かというと、

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