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続・「自発性」はどこへ行ったか?〜その心理学と政治学

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

昨今のTV番組は実際、手とり足とりだ。どこで笑うか、どういうリアクションをしたらいいかを、画面と音声が教えてくれる。筆者が子どもだった時分には無かったから、ここ何十年かで顕著になった傾向だろう。

 おそらく最初は、スタジオ番組でアシスタントが「ここで笑え」などのキューを、スタジオ内の聴衆に出したりしていたのが元だろう。それがいつしかバラエティーの手法となり、今やスポーツ番組でも使われるようになった。芸能人の応援団がコートサイドに陣取って、応援の手本を見せたりするのもその類いだ。最近気づいた例だと、売り出し中の女子選手を紹介するシーンで、「かわいい」といった声が目立ちすぎない程度に入っていた。

 若い世代の言動を見ていると、どこかドラマっぽい。若者ファッションが先なのか、コミックが先なのか、疑いたくなるときもある。新店舗を開店するときは、アルバイトに金を払って長い行列を作るのが常套手段だ。女子高生の口コミを使った販促キャンペーンを、専門にやる会社まであるという。

 これらに共通しているのは、自発性を装ってアピールする点だ。より詳しく言えば、無意識の模倣によって「自発的な」反応を引き出す。「自発的な」反応の方が、より持続するので、それだけ経済価値が高い。

 かくのごとく、政治のみならず消費文化においても、自発性と操作の両立するゾーンが広がっている。そして興味深いことに、 心理学、神経科学の分野でも 、「自発性」は蒸発しかかっている。その神経基盤がよくわかっておらず、どう解析できるかも、判然としない。

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