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節電と全国融通で「原発ゼロ」を乗り越える。送電容量は「埋蔵金」

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

福島原発事故から4カ月後の昨年7月13日、朝日新聞は「原発ゼロ社会への提言」という論説主幹論文を出し、その中で「20~30年で原発ゼロをめざそう」と主張した。筆者も論説のメンバーとして議論に参加した。「原発を厳しい目で見るが、存在を否定しない」というそれまでのポジションとは大きく異なるもので、かなりの議論を重ねて出した決断だった。

 それから半年、「運転原発ほぼゼロ状態」がこんな形で来るとは思ってもみなかった。そのゼロへの道のりは、劇的なものではない。定検で原発が順番に止まっているうちにここにたどり着いたもので、政治や社会の「一大決定」があったわけではない。ただ、「できれば原発を減らしたい」「簡単には再稼働して欲しくない」という意識は背景にあるだろう。

 いま、多くの人はあっけにとられているのではないか。気がつけば、54基の原発がほぼ止まり、それでも社会が平穏に動いている。そして、この夏についても、「強制的な節電令を出さなくても乗り切れる可能性が大きい」(枝野幸男経産相)という。どういうことなのか。あまり使われなかった火力発電所がいかに多かったかを示している。節電の貢献も大きいだろう。

 ただ、今後も原発の大量停止が続くかどうか。社会の大議論を経ているわけではないので、ストレステストが「妥当」とされ、保安院の「安全のための30項目」について「ほぼクリアできている」とされ、さらには「中期的にはもっと安全にする予定」などとなれば、雪崩のように再稼働が続くかもしれない。どちらに進むかは、社会における今後の議論にかかっている。

 再稼働の考え方としては、1)安全性と需要面からの原発再稼働の必要性は分けて考える。2)この夏の需要を厳しく考え、ぎりぎりで供給力がいくら足りないのかを割り出す。

 この二つだろう。2)についていえば、カギは「節電」と「広域融通」である。この可能性を最大限探るべきだ。

 関西電力は「この夏20%の供給力不足が考えられる」といっている。これは、とんでもない猛暑だった「一昨年の真夏のピーク需要」と、「原発の再稼働がなかった場合の供給力」を比べたときのものだ。

 この想定によると、9電力のうち6社で供給力不足が起き、日本全体でも9%の不足と計算される。

 しかし、東日本を中心に節電が行われた「昨年夏の需要ピーク」と「昨年夏の供給力」を比べると、供給力不足は4社に減り、日本全体では供給力に4%の余裕がでる。

 さらに、「東3社」(北海道、東北、東京)、「中西部6社」の2グループで考えると、どちらも余裕が出ることになる。つまり、50ヘルツ帯で電気を融通し、60ヘルツ帯で電気を融通できるとすれば、停電は完全に回避されるということになる。

 昨年は関電を含む中西部ではあまり節電は進まなかった。今年、「ピーク需要を削れば料金が安くなる」ような制度を整えれば、問題は起きないという計算になる。「節電」と「融通」はきわめて強力な停電回避策である。

 日本の送電網は、電気を広域融通できない分断された送電網になっている。欧州では欧州全体で一つの送電網をつくろうとしているが、日本では各電力会社ごとに国土を分割して営業し、送電網も分割されている。各社の送電網をつなぐ連系線も細く、自由な融通ができなくなっている。

 そういわれてきた。しかし、最近、あっと驚く事態が起きた。2月3日、九州電力の新大分発電所(LNG、230万キロワット)が急に止まり、九電は、急きょ、全国に助けを求め、東電を含む数社から計240万キロワットを確保し、結果的には210万キロワットが融通された。

 これは驚くべきことだ。公表されている連系線の容量でいえば、九電に入る量は30万キロワットしかない。なのにいざとなると240万キロワットが入るのである。

 電力業界の説明では、『運用容量』は30万キロワットだが、設計上の能力である『送電容量』は557万キロワットだという。だから無理をすれば、240万キロワット程度は使えるのだという。しかし、いつもは30万キロワットだけを示している。それにしてもあまりに数字が違い過ぎる。「できれば連系線を使いたくない」という電力業界の思いが、「あまり融通できない」というポーズにつながっているのだろう。

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