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産学が集うソフトウエア道場を作ろう

本位田真一 本位田真一(国立情報学研究所副所長/計算機科学)

今年3月、米アップルのスマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)4S」などで、基本ソフトの更新に伴う不具合があり、多くの利用者が迷惑を被った。東京証券取引所では、2月にシステム障害で2時間半にわたって売買が止まった。2005年にはソフトの欠陥で全銘柄の売買が3時間停止し、その後もソフトの欠陥で一部商品が売買できないトラブルが頻発している。

 現代社会は、コンピューターシステムなしには動かなくなっているが、そのコンピューターを動かすソフトウエアの品質には問題があるといわざるをえない。

 ソフトウエアシステムの品質の良し悪しを決定するのは、それを構築するソフトウエア技術者である。産業界は、大学で情報系の専門教育を受けた卒業生に対し、即戦力として高い期待をかける。しかしながら、数年前から産業界の方々から「大学の情報系の教育は産業界では役に立たない」、「情報系の卒業生は、それ以外の学科の卒業生と差が無い」、「他国の卒業生の方が優秀である」といったお叱りを受けている。

 一方で、国内よりも海外のほうがソフトウエアシステムを低コストで構築できるため、オフショア(海外での)開発が加速し、すでに技術の空洞化が始まっている。このままの状況が続くと、いずれ我が国のソフトウエア技術をけん引していく人材も枯渇していく可能性がある。ソフトウエアシステムは「もの」である。ものづくり立国としての日本の将来を鑑みると、暗澹たる気持ちになるのは私だけではないだろう。

 これまで、大学側も省庁のサポートの下、産業界から実務経験が豊富な講師を派遣してもらったり、実際の問題に基づいた教材を提供してもらうなど、多くの協力を得ながら専門教育の高度化にさまざまな努力をしてきた。専門コースを新設した大学もある。しかし、まだ対策は十分とはいえない。

 もう一歩進めるために、筆者は「産学が集うソフトウエア道場の設立」を提言したい。

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