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14年越しの固定価格買い取り制度実現とこれから (上)

大林ミカ 大林ミカ(自然エネルギー財団ディレクター)

7月1日から「再生可能エネルギー特別措置法」が施行され、固定価格制度(Feed-in Tariff, FIT)が導入された。筆者は、1998年に日本への固定価格制度の導入を目指す市民ネットワークの立ち上げに参加し、当時の三分の一の国会議員が翌年に設立した超党派の議員連盟の活動もサポートしてきた。ようやく日本でも固定価格制が実現したことは、自然エネルギーの促進にとって大きな一歩であることは間違いなく、 大いに感慨深い。しかし、FITだけでは万全ではない。実際に、わたしたちが「固定価格制のお手本」として学んできたドイツでは、急激な太陽光発電の伸びが大きな議論を呼んでおり、6月29日に議会が新しい固定価格を提示したばかりである。固定価格制の基本的な考え方と共に、日本の政策の行方についても考えてみたい。

ドイツの固定価格制度

 FITは、1970年代の米国パーパ法とそれを補強したカリフォルニア州のスタンダード・オファー・フォーに原型をみることができる。第一次石油ショック後、当時のカーター政権が、コージェネレーションや自然エネルギーの電源を増やしていくことを目指して、それら電源の買取を電力会社に義務づけたのがパーパ法である。

 スタンダード・オファー・フォーは、カリフォルニアを「独立国」として捉えて食料やエネルギーの自立も目指した当時のレーガン・カリフォルニア知事が、パーパ法施行後も州内の自然エネルギー電源が増えないために、買取に加えて、一定の価格を定めて事業安定性を確保した州法である。買取と価格双方を安定化するという試みにより、カリフォルニアでは風力発電が爆発的に増えた。その後長らく米国は、世界で一番の風力発電国だったが、その内訳のほぼすべてがカリフォルニアであった(2000年以降の本格的な風力発電の伸びは、高い目標値と発電量あたりの税控除に支えられてテキサスが牽引)。

 買取保証と価格保証の双方で自然エネルギー電力ビジネスの事業性を安定化させるという考え方は、その後、デンマークに始まる欧州の自然エネルギーの爆発的普及につながった。特に、90年代に始まったドイツの自然エネルギー産業の成功は、20年間をかけてさまざまな試行錯誤を経た結果であり、今でも日本が学ぶことは沢山ある。

 1991年に、ドイツでは、太陽光や風力などの自然エネルギーによる電力を、平均販売電力価格(電気料金)の9割で買い取ることを電力会社に義務づける法律「電力買取法」が導入された。その結果、1990年には設置出力6万kWにすぎなかった風力発電が1999年末には440万kWを越えた。しかし電力自由化の流れの中で電気料金が激しく上下したので価格安定性に欠けていたし、特に太陽光はまだコストが高く普及を促すには十分ではなかった。一方で、エネルギー公社を持つアーヘン市が、スイス・バーゼル市の先例に刺激され、太陽光からの電力を電気料金の十倍で買い取る制度を1995年に導入し太陽光の普及に成功、他の自治体も相次いで同じ制度を導入し始めていたため、これを連邦政府の制度にしていこうとする動きが起こっていた。

 2000年に、ドイツ政府は、新しい法律「自然エネルギー法(EEG)」を施行した。EEGの下では、電力事業者(系統所有者)は、すべての自然エネルギー電力を、20年間にわたって、あらかじめ定められた優遇価格で、化石燃料電力に優先して買い取り系統接続することが義務づけられた。価格も、電力種毎、規模や地域毎(地域によって風力の潜在量が違ったり、太陽光の設置場所によってコストが変わってくるため)など細やかに定められ、すべての電力供給者が平等に負担をする新しい制度となった。 また、初期参入を促して競争を招き、事業者計画が立てやすいよう、あらかじめ逓減率が定められた。この制度枠組が現在の固定価格制度の始まりである。

 その後、2004年と2008年に改訂が行われ、2004年の改訂では、太陽光発電についてさらに高い価格が設定され(最大で62.40ユーロセント/kWh。当時のレート1ユーロ=140円で約87.36円/kWh)、2004年度単年で約30万kWを導入する成果となった。買取価格は適宜下げられていったが、その後も普及の勢いは留まるどころかさらに加速し、2011年末で、太陽光24,820MW(約2,500万kW)、風力発電29,075MW(約2,900万kW)が導入されている。

 買取価格は電気料金から徴収されており、2012年のEEGのサーチャージは3.59ユーロセント/kWh、平均的な家庭で一家庭あたり月に約10ユーロ(約1000円)の負担になっている(3,500kWh/年を使用する平均的家庭)。

太陽光発電の普及と固定価格制度の見直し

 ドイツ連邦政府・環境自然保護原子炉安全省によれば、2010年の自然エネルギーの代替効果は、約25億ユーロ(約2500億円)の輸入化石燃料の節約に匹敵し、そのうち80%(約2000億円)がEEGによってもたらされた効果である。また、自然エネルギー産業全体で2010年で367,400の雇用があるという。

主要国における太陽光発電設置容量と風力発電設置容量の伸び

 特にここ数年の太陽光発電の伸びは著しい。2001年にくらべて2011年の太陽光の発電量は、76GWhから19,000GWhと250倍増である。2009年から2010年は70%、2010年から2011年は60%増え、その後も勢いは衰えていない。政府の予測を上回る速さだが、これだけ急速に太陽光のコストが下がったこと自体は大変喜ばしいことだろう。しかし、発電量の増加による電気料金への影響は避けられない。

 つい先日、6月29日に議会が定めた2012年4月からの太陽光電力の買取価格は、10kW以下(カバー率100%)で19.5ユーロセント/kWh、40kW以下(カバー率90%)で18.5ユーロセント/kWh、1MW以下(カバー率90%)で16.5ユーロセント/kWh、10MW以下(カバー率100%)で13.5ユーロセント/kWhである。毎月の逓減率は1%、今年の10月1日まで1%ずつ逓減され、それ以降は今年7月の導入状況をみて定められるという。買取価格からみると、一番高い価格で、2004年の三分の一以下になったことになる。家庭用の10kW以下はすでに家庭用の電気料金よりも低い値である。

 太陽電池産業の競争も苛烈になった。かつては世界トップを誇ったドイツQセルズ社が今年4月に倒産したことは記憶に新しい。

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