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[3]馴れ、利潤追求と確率のウソ

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

「利潤追求が安全をおろそかにさせる」という話のどこに、心(の要因)が入ってくるのか。いろいろあるが最も大きいのは、安全を優先した当初の規制や警戒が、長い間に緩む過程だ。

 

 効率や利潤の原理は常に圧力として働く。他方で馴れが緩みを許す。こうして、わずかずつより危険な方向へと押し流されて行く。

 

 このメカニズムは、心理学的にもある程度理解されている。

 ヒトも動物も、新しいモノに手を出して「何の害もない」と、それ自体が良いフィードバックとなる。そして以後そのモノに手を出す傾向が高まる。

 

 たとえば、「ガルシア効果」と呼ばれる効果が、動物の学習で知られている。一言でいえば、毒についての一発学習だ。

 

 動物は新奇なモノを食べて具合が悪くなると、二度と手を出さない。極端な場合、毒をカプセルなどに入れるなどして、効果を丸一日遅らせる。その間に動物はいつも通り食べたり飲んだりする訳だ。しかしいったん苦しみを味わうと、それら普段通りの飲食物ではなく、ずっと前に食べた毒団子が原因だと見極め、避けることができる。

 

 そのメカニズムは今でも謎だが、もっとも有力な説はこうだ。普段の食物では「食べても病気にならない」ことが、それ自体報酬として繰り返し学習されている。まさに「便りがないのは良い便り(No news is good news)」という訳だ。そこで稀に珍しい食物を食べて病気になると、正しくそれに原因を帰すことができる。

 

 原発の安全管理でも、馴れで手続きが慣例化する中、この「便りがないのは良い便り」現象が起きていなかったかどうか。

 

 本欄で、

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