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脱原発の日独比較(続)

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

日本のエネルギーをどうまかなうのか、原子力なしでもやっていけるのか? 国内の議論が混迷を深めるなかで、アメリカのナイ・アミティージ報告は、日本が一流国であり続けるには原発を再稼働すべきだという。寺島実郎氏も日本の原発と日米安保の枠組みの重要性を指摘している(「戦後日本と原子力」『世界』6月号)。ここにきて、日本の原子力利用と日米関係の枠組の重要性が改めて浮き彫りにされている。

 福島の事故を受けて、最終的に脱原発を決めたドイツに対して、脱原発を決めかねている日本。何がこの違いの背景にあるのか。日独はともに第2次世界大戦の敗戦国であり、アメリカとの同盟関係のもとで、戦後の経済成長期に原子力を導入してきたところは同じである。そこで改めて、日独の戦後の政治的枠組条件と、それが脱原発に与える影響について検討したい。

 第1に、いうまでもなく、日本は敗戦後、事実上、アメリカの単独占領されたのに対して、ドイツは連合国の共同管理のもとで東西分割された。西ドイツは、東西対抗の最前線となった。

 第2に、日本はアメリカの間接統治下に置かれ、新憲法のもとで「民主化」されたが、西ドイツはナチスドイツへの反省から、徹底した地方分権、連邦国家に再編され、参議院は各州代表制となり、連邦議会は5%条項のもとで小選挙区比例代表併用制をとることになった。連立内閣がかなりの期間続き、交渉と議論の経験が積み重ねられた。

 第3に、日独はともにアメリカからの技術導入をもとに原子力開発を進めてきた。日本は「資源のない日本」のイデオロギーのもと、ハイテク技術としての原子力の開発を進めたが、日本の条件にあった独自の技術は生み出せなかった。ドイツはこれに対して、ドイツ独自の原子力技術を開発する一方で、東西冷戦のために国内に核兵器が実戦配備され、反核の運動・感情が反原発・脱原発の運動に結びついた。

 第4に、社会経済的側面について見ると、日独はともに経済成長期を経て少子高齢化社会を迎えているが、ドイツは持続可能性や「生活の質」についての国民的関心が高いのに対して、日本はそれがまだまだ弱い。

 ドイツの脱原発決定(2011年6月)から1年以上たって、地域レベルでの再生可能エネルギーと省エネへの取組が積極的に行われている。エネルギー共同組合が2011年だけで全ドイツで170も結成されて、太陽光、風力、バイオマスの地域暖房への融資が行われているのを見ても、地域分権によるエネルギー自給への取組が根付いてきている。

これに対して、日本は地方の補助金依存から抜け切れず、原発の立地も電源3法交付金の制度によって原発立地を促進してきたが、過疎化の傾向を押しとどめることはできなかった。中央からの補助金で立派な道路、トンネル、公共施設はできても、そこに住む人々の生活は貧弱で、廃屋、廃校、廃線の跡が続く景色を、北海道内4000kmを走って実感した。膨大な財政赤字を生み出した「土建国家」の結末である。今こそ、再生可能エネ、健康、教育などに投資の流れを変えるべき時である。

 以上、枠組条件としては、アメリカへの政治的依存の問題と、国内の地方分権制度の問題が日独の原子力への対応、脱原発への違いを生み出す背景要因として作用しているように見える。

 もう1つの大きな要因は経済界の見通しの問題である。ドイツも4大電力会社の支配力は依然として強く、既得権益の力は残っている。しかしそれでも、政治と国民的意思を尊重せざるを得ない状況である。ドイツが脱原発を最終的に決定した理由は、原発事故のリスクの大きさと、原発以外に安全なエネルギー供給方法があり、脱原発によって省エネ、再生可能エネルギー拡大を進めることがドイツ経済にとっても、その地位と力を強めることになると判断したからである。

 日本の経済界に原発継続の現状維持派が多いのは、ドイツのような展望を持てていないことが一番大きな要因であると考えられる。原発の停止によって火力発電設備の増設が相次いでいるなかで、国内市場はこれまで3大メーカーの東芝、三菱、日立が独占してきたが、ここへきてGEとドイツのジーメンスがガスタービン技術の優位性を武器に参入を試みている。両者は原発に見切りをつけ、新たなエネルギー技術開発を展望しているのである。

 しかし、日本はドイツと比べて弱点ばかりではなく、それなりの優位性をもった部門や特質がある。実際、ドイツは脱原発とはいっても電力の十数%台はまだ原発で賄っており、日本のように節電10%というところまではいっていない。日本は鉄道網や新幹線の技術と運用実績はドイツと比べても優位性がある。ドイツは独自の新幹線がなく、鉄道はよく遅れ、自動車会社の力がはるかに強く、アウトバーンに制限速度はない。また日本は、細かいところからの積み上げが得意であり、品質管理、日本的集団主義が強みを発揮できる余地は、省エネなどで残されている。

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