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ノーベル賞にみる生物学の無境界性

武村政春

武村政春 東京理科大学准教授(生物教育学・分子生物学)

子どもの頃、10月という月には特別な意味があった。筆者自身の誕生月だったからである。しかし、やがて成長し、研究者を志すようになって、10月という月にはもう一つ、特別な意味が付与されるようになった。すなわち、その年のノーベル賞受賞者が発表される月、という意味だ。私自身、研究者でもあるし、また一般教養の生物学の授業のネタにもしているので、はっきり言って10月のこの週は、誰が受賞するのかが気になって、他の仕事が手につかないほどである。

 今年のノーベル生理学・医学賞は、英国の生物学者ジョン・ガードン博士と、京都大学iPS細胞研究所長山中伸弥教授の2名に授与されることになった。日本人の受賞ということで他の執筆者が詳しく書くであろうから、筆者はむしろ、ノーベル化学賞の方に注目してみたい。今年のノーベル化学賞は、「Gタンパク質共役受容体の研究」により、米国の二人の分子生物学者、レフコヴィッツ博士とコビルカ博士に授与されることになった。

 そもそも「Gタンパク質ってなんじゃらほい」ということから話を始めるが、平たく言えばGタンパク質は、細胞膜の内側で"待ち構えている"タンパク質で、細胞の外から何かのシグナルがやってくると、「ほいきた!」とばかりにそのシグナルを細胞の内部へと伝達するという、非常に重要な役割をもったタンパク質である。その伝達に、「GTP」という化合物を利用することから、「GTP結合タンパク質」というのが正式な名前だ。

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