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京都議定書の15年と今後の展望

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

COP18(国連気候変動枠組条約・締約国会議)がカタールのドーハで始まり、地球温暖化対策の新たな枠組づくりが検討されている。今年2012年は、京都議定書の第1約束期間が終わり、来年度から第2約束期間が開始される。そこで、1997年に締結された京都議定書とその歴史的役割を振り返り、今後の見通しを述べておきたい。

まず京都議定書は、温室効果ガスの削減のために、

(1) 法的削減義務(1990年比、EU8%、アメリカ7%、日本6%削減)

(2) 先進国の削減先行

(3) 5カ年1期間

 の3つの特徴をもつ。また削減目標達成のために、森林吸収などによる温室効果ガスの吸収量を用いることができ、市場メカニズム(排出量取引、CDM、JI)を認めた。

 しかし、アメリカのブッシュ政権が途中で離脱し、2013年からの第2約束期間にも参加せず、日本とロシアは新たな排出削減目標を取らないことになった(ダーバンCOP17)。

 したがって、削減義務を負う国(EU各国、スイス、ノルウェーなど)のCO2排出量は世界全体の13%程度になってしまったので、京都議定書は、その歴史的役割を終えたという評価も行われている。

 そこで、主要国別にこの間の温暖化対策と京都議定書の役割を見ておきたい。まず京都議定書締結の推進側であるEUは、低炭素未来への目標として、2020年までの3つの20%目標を掲げてきた(20,20,20 by 2020)。すなわち、20%のCO2排出削減(1990年比)、20%のエネルギー効率の改善、総エネルギーの20%を自然エネルギーで賄う、という目標である。そのうえで、2011年3月のEU理事会のエネルギー大臣決定では、2050年までに温室効果ガスの排出量を80-95%削減するという目標を決めている。

 とくに、ドイツは、2020年までにCO2排出量を40%削減し、2050年までにCO2排出量を80-95%削減するとし、さらに2022年までの脱原発を決めたことは周知のとおりである。

 省エネと再生可能エネルギーの利用拡大が自国の経済力を強め、世界のリーダーになるという判断がある。2022年までの脱原発を政治的に決定したので、最大の課題は、CO2削減と脱原発の同時達成である。CO2削減のうえで、建物の断熱と交通機関からのCO2削減が目下の政策課題である。また、排出量取引のEUETSも依然として重要な制度枠組である。

 これに対して、京都議定書の枠組みの外に出たアメリカは、削減義務を負わないものの、各州政府には排出量取引制度があり、また成果は大きくないものの、オバマ大領領の「グリーン・ニューディール」と「クリーン・エネルギー」政策が打ち出されてきた。

 他方、世界最大のCO2排出国となった中国も、省エネと再生可能エネルギーの拡大を産業政策の大きな柱としてきた。その結果、中国は風力発電導入量で世界1の26%を占めるに至った。日本は世界の1%に過ぎない。

 また中国の炭素の排出強度は、1978年は11kg標準石炭/元であったが、1998年に1kg標準石炭/元、2009年にはさらに0.6kg標準石炭/元までに減少したのである。つまり、1元の生産額のために使う標準石炭が、30年間で20分の1に減ったのである。効率の悪い小型の旧設備の強制廃棄政策を実施し、設備と産業の近代化に努めてきたことを評価する必要がある。

 中国は京都議定書の義務を負っていないが、もはや石炭輸入国となり、省エネが最大の課題となっており、中国政府はそのことを十分に認識しているのである。

 このことから、昨年のCOP17(ダーバン)で「ダーバン・プラットフォーム」に合意した意義は大きいのである。ダーバン・プラットフォームは、アメリカと中国を含む、全ての主要排出国が参加する新たな法的枠組みを2020年から開始するため、2015年までに採択することを定めたロードマップである。

 最後に、日本の役割である。日本は、第1約束期間で6%の削減目標を約束し、かつ「2020年に温室効果ガスの排出を90年比で25%削減する」という国際公約も行ったが、後者の実現が困難であると予測されている。

 日本の温暖化対策の最大の問題点は、その柱を原子力の拡大においてきたことであり、福島の事故の前には、2030年には発電における原発の比率を50%にするエネルギー基本計画を民主党内閣も認めていたのである。それが福島の事故で破綻し、「原発ゼロ」によりCO2の増加を招くという事態となっているのである。

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