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「1票の格差」解消に、数学者よ立ち上がれ

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

今回の総選挙は、最高裁が「違憲状態」と昨年3月に判断した区割りのまま実施された。もっとも有権者数の多い選挙区は野田佳彦首相のおひざ元千葉4区で、もっとも少ない高知3区の2.4倍以上。自分の1票がよその選挙区の半分以下の価値しかないとなれば、誰しも是正を求めるだろう。だが、「選挙区に公平に議席数を割り振る」という問題は、実は大変な難問で、過去2世紀の経験から「あらゆる点で満足できる方法は存在しない」ことがわかっている。それでも「まし」な方法を見つけるために、ここは世間から「浮世離れしている」という数学者が持てる力を振り絞ることを提言したい。数学的能力が頼りになるのはもちろんのこと、「浮世離れ」という特性も、人々が「公平」と感じるうえで大いにプラスになると思うからだ。

 どうして公平な配分が難しいかといえば、議席は整数でしかありえないからだ。全国の有権者数を議席数で割ると、1議席あたりの平均有権者数は出る。選挙区の有権者数をこれで割れば、その選挙区の議席数が出るわけだが、これは必ず端数が出る。それを整数に丸めなければならない。

 アメリカ合衆国では、各州に下院議員を何人割り当てるかが、1791年の第1回国勢調査以来、ずっと議論の的になってきた。端数をどういう方式で丸めれば公平なのか。議席数が1から2になったときや2から3になったときは、その州の議席あたりの有権者数は大幅に違ってしまう。一方、大きな州で、例えば30から31になる場合の影響度は少ないだろう。「一人一票(one-man,one-vote)」の実現に情熱を燃やす人々は、さまざまな議席配分方式を考え出した。だが、「それだと少人数の州が有利」「そっちの方法は大人数の州が有利」「その方式だと人口が増えたのに議席数が減るというパラドックスが起きる」などなど、侃々諤々の議論があって、とどのつまり出た結論は「完全な配分方式は存在しない」ということだった。

 しかし、

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