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複製という名のサイコロを、神は振りたもう

武村政春 東京理科大学准教授(生物教育学・分子生物学)

私は常々、iPS細胞の臨床応用にはある一定の危惧を抱いていた。再生医療への応用という点に関してはそれほどの危惧はないのだが(ある程度の危惧はある。本論を読み進めていただければ明らかになるだろう)、生殖医療への応用という点に関しては、特に私は「複製」の観点に鑑みて、以前から疑問を呈していたし、WEBRONZAでも指摘したことがある。その危惧や 疑問は、山中伸弥京都大学教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した後も、変わることはない。

 すでに多くの人たちが指摘していることなので言うまでもないが、iPS細胞には、二つの大きな応用可能性がある。一つは再生医療・難病解明のツールとしての応用可能性であり、いま一つは、不妊治療のツールとして生殖細胞を作り出すことを目的とした応用可能性である。ただし後者の応用可能性とは、iPS細胞から生殖細胞を作り出し、それを受精させて子を作る可能性を指すのであって、不妊メカニズムの解明のためにiPS細胞から生殖細胞を作るのは前者の応用可能性に含まれる。

 今年のノーベル生理学・医学賞のプレス・リリースには、「By reprogramming human cells, scientists have created new opportunities to study diseases and develop methods for diagnosis and therapy(ヒトの細胞をリプログラミングすることにより、病気を研究し、診断と治療の新しい方法の開発の新たな機会を作り出したのだ)」とある。すなわち前者の応用可能性を評価して、ノーベル賞の授賞を決めたことがわかる。

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