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オーディオメディア、デジタルvs物理〈上〉

北野宏明 ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

 前回は、デジタル空間と物理空間のことを書いたが、今回は、オーディオのデジタルメディアと物理メディア(いわゆる、パッケージメディア)の話をしたい。1982年に、コンパクトディスク(CD)が、発売されて、今年で31年目に入る。途中の1999年にSACDの発売があったが、デジタルディスクという技術体系で、1世代(=30年)が過ぎたことになり、音楽メディアに関する技術も次の世代へと大きく転換していくことを感じる。

 いま、音楽メディアは、大きな転換点に入りつつある。昨年から、24ビット・192キロヘルツサンプリングのDRM(デジタル著作権管理)フリーの高音質ファイルの配信が、急速に充実してきた。絶対数では、微々たるものであるが、メジャーレーベルが、定番や新譜など、コンスタントに提供を始めている。さらには、SACDなどでも使われているDSDフォーマットのファイルでの楽曲提供が始まっている。従来のCDとの音質差は、目覚ましいものがある。さらに、CDをリッピング(つまり、PCを使ってハードディスク〈HDD〉やソリッドステートディスク〈SSD〉に蓄積する)した後で、高品位のネットワークプレーヤーで再生することも広がっている。適切な機材を使えば、リッピングした方が、CDを直接再生するよりも音質が向上することがわかってきた。いわゆるネットワークオーディオと呼ばれるアプローチである。

 ネットワークオーディオは、英国のグラスゴーに本社があるLINN Productsという会社によって切りひらかれた分野であるといえる。CDを、一度SSDなどに蓄積することで、CD上のデータの正確な読み取りを行い、さらに再生システムから可動部分を排除し、それにまつわるノイズ(主にアースライン側を伝わってくると考えられている)やジッター(時間軸上の揺らぎ)を徹底的に低減させることで、音質の向上を実現していると考えられる。驚くべきことに、LINNはこれを可能とする製品群を2007年に発売後、CDプレーヤー(かなり高価ではあったが、人気商品だった)の製品としての役割は終わったとして、2009年には、その販売をやめてしまった。

 実際に、ネットワークオーディオのシステムを導入してみると、数百枚のCDやダウンロードして、HDDやSSDなどのネットワーク・サーバーに蓄積してある音楽たファイルが、wifiで接続されているiPadやiPhoneにある専用アプリ(LINNの場合は、Kinskyというアプリ)を利用して選択され、そのファイルのデータが、ネットワークプレーヤーに転送されることで、高音質で音楽を聞くことができる。iPadやiPhoneは、どのファイルを再生するかを選択するだけなので、iPadやiPhoneにデータを蓄積する必要もない。手元に、これらのデバイスがあれば、アプリから選択をするだけなので、次のCDを入れ直すなどの手間が省ける。

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