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B787〈上〉複雑性と多様性との闘いだ

北野宏明 ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長

 ボーイングの新鋭機787が、一連のトラブルで一時的な運航停止になっている。複雑なシステムが、新たに設計され、導入されると、初期故障などの不具合が頻発する。もちろん開発チームは、できるだけ市場投入後のトラブルが起きないように万全を尽くすのだが、残念ながらそれでも初期故障はついて回る。これは、一般の家電製品やソフトウエアでも同様である。さらには、臨床試験を経て承認された薬剤でも市場投入後の副作用で、販売中止になることもある。

 これらは、試作から量産に移ることに伴う問題がある場合や、チェック項目が十分網羅されていない場合、市場投入前にはわからなかった問題に遭遇した場合などがある。

 たとえば、米国の医薬品メーカーであるメルク社が関節炎治療薬として開発したCOX2選択的阻害剤であるRofecoxib(製品名VIOXX)は、アスピリンよりも効果が高いとされ、2003年には、メルク社の売り上げの10%以上を担う薬であった。しかし、ある特定の患者グループが、長期間にわたって大量服用した場合には、心臓発作のリスクが増大することが判明し、2004年9月30日には自主回収を発表した。2005年には、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)は多くの場合、リスクよりも効果の方が上回るとしてRofecoxibの販売継続を推奨した(ただし、メルク社は、VIOXXの販売は再開していない)。

 もちろんVIOXXの場合も臨床試験はしているが、臨床試験では、すべての遺伝的背景や健康状態をもった利用者を対象にできない。

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