メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

闇は照射されたか〜上祐史浩『オウム事件17年目の告白』

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

昨年末に出た上祐史浩著『オウム事件17年目の告白』(扶桑社)が、静かに売れているらしい。オウム事件関係の類書の中で「もっともよく整理され」「もっとも深く突き詰めている」と評価が高い。事件の経緯についていくつもの新事実が語られているが、何と言っても麻原と若い信者たちの心理を、内側から分析したのが出色だ。

 ただ上祐氏(以下敬称略)といえば、かつて「ああ言えば上祐」と揶揄(やゆ)された二枚舌だ。幹部の中でただひとり警察・検察の追及の手から逃れた人物、というイメージも強い。そんな人物の言い分を丸ごと信用していいのか。そういう戸惑いも見受けられる(「検証」役として巻末で対論している有田芳生氏も含めて)。

 筆者はといえば、かねてから抱えていた謎を解く、大きなヒントを本書から与えられた。インパクトが大きかったので書き留めておきたい。

 だがその前にまず、本書の中身を安易に信用していいのか、という点について、筆者のスタンスを明確にしておこう。

・・・ログインして読む
(残り:約1462文字/本文:約1880文字)