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続々:闇は照射されたか〜予言と預言

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

オウム真理教の教祖、麻原は再三予言をした。いわく「米軍が毒ガス攻撃をしてくる」「フリーメーソンがハルマゲドンを起こす」などなど。言うまでもなくそれらは、一向に当たらなかった。それなのに教団内で麻原の権威は揺らがなかった。それどころか、なかなか予言した災厄が起きないからといって、逆に自分たちでそれを起こそうとしたのは奇妙だ。そんな転倒した論理について行ってしまった信者たちは、一体何を考えていたのか。

 これが、前稿から引き継いだ第二の疑問だった。

 この件については、筆者もかねてから一応の見解は持っており、公表したこともある。それはつまり「毒ガス攻撃がある」「ハルマゲドンが起きる」という事態そのものに、次第に注意が集中して行った。それを誰が起こすかは途中からは問題でなくなった。そういうことだ。

 妙な喩(たと)えだが、野球で「次のバッターは内角高めがホームランコース、そこへだけは投げるな」と投手がコーチから厳重に注意されたとする。ところが気の小さい投手はそこを避けようとするあまり腕が縮み、魅入られたカエルのように球がそのコースへ行ってしまう。

 このように極度に集中させられた妄想は、ほんの一押しで自己達成予言的な様相を帯びてくる。

 この見解は必ずしも外れてはいなかったが、より明快な解が本書に示されていた。以下に引用する。

「麻原によれば、“預言”と“予言”は違う。予言は自ずと起こるものを言うが、預言は神の意志を示すもので、信者がその実現に努力すべきものとされた。」「預言とは計画なのだ。」

 寡聞にして知らなかったが、

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