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新しい経済と日本の再生の出発点:発送電分離を確実に進めるべきである

大林ミカ 大林ミカ(自然エネルギー財団ディレクター)

東京電力福島第一原発事故から2年がたつのに、エネルギー政策の行方が見えない。民主党政権がきった脱原発への舵が、自民党政権の復活で、政府審議会の人事に至るまで原発推進路線へときり戻された。参議院選も自民党圧勝との報道が続く。しかし、新しい安全基準や地元の反発を考えると、停止中の原発を再稼働させるのはそうたやすくはない。現在稼働中の大飯原発3、4号基が秋に定期検査に入れば、日本は再び「nuclear power free nation」となりそうな状況だ。むしろ、原発を「どう稼働させるか」のほうが、難しいのではないか。

 乖離しているのは、政府の指向と現実だけではない。福島原発事故は、今までエネルギー政策に関心がなかった多くの人に対して、日本が抱えるさまざまな矛盾を明らかにした。人は、もうすでに知ってしまったことをなかったことにはできない。衆院選や参院選の結果がどうであれ、人々が望むエネルギー政策は明かである。少なくとも現在の政府の方針を支持するものではない。

 その一つが、今の電力システムを透明で柔軟なものとする、電力システム改革だ。

 日本では地域独占の電力会社が、一貫して発電と送配電を手がけてきた。戦後62年間も続いているこの体制では、今の市場のあり方や最新技術を反映できない。これだけインターネットが普及し、欲しい情報が手に入る状況の中で、未だ、日本の消費者は、電力会社や好きな電源も選べず、電気料金の内訳も知ることができない状態に置かれている。

 システム改革にはいくつかの論点があるが、最も肝要なのは、送電網の中立的な運用を目指す「発送電分離」だ。今年の二月に専門委員会からの答申を受け、経産省が法案化を図っている最中である。

 発送電分離は、送電網を公的インフラと捉えて規制下に置き、すべての発電事業者・電力供給者に公平な利用を保障するものだ。発送電分離が確実に行われる事で、電力会社が独占してきた送電網が新しい発電事業者に開放され、効率的な電力供給と新しい投資が起こることが期待されている。

 何より、日本の経済界で絶大な力を誇り、政府とも強いつながりを持つ電力会社の体制にメスが入ることは大きく、その事業体制のみならず日本経済全体に大きな変革をもたらすだろう。

 しかし、ここにきて、発送電分離の方針が、自民党内の反対により、骨抜きになろうとしているという。(筆者からすれば充分遅く思えるが)今後5年から7年で達成するという当初の目標年限は残しつつも、法案提出や改革の実施については「目指す」という表現を加えるという。

 実は、発送電の分離は、16年前の橋本内閣の下、当時の佐藤信二通産大臣の主導により実現しかけたことがある。その後も議論が行われ、発送電に会計の分離が導入され、電力市場は徐々に自由化されてきた。現在7割近くの需要家が「自由化対象」として、電力会社を選べることになっている。しかし、実態は、電力量でみると、97%が既存の電力会社によって占められている。

 電力会社にしてみれば、市場が自由化されても顧客が新しい電力供給会社(新電力)を選ばなければいいし、選ぼうとしても選べないほど小さな枠に止めておけばいい。実際、自由化対象の需要家が、福島原発事故以降、供給が不安定で高価な電力会社の電気以外を選ぼうとしても、市場に食い込んでいない新電力には、供給できるだけの容量がない状況が続いている。

 発電設備のほとんどを所有する既存の電力会社間の競争はまったく進まず、地域独占を越えた越境供給(区域外供給)はこの10年でわずか1件だ。2005年に、中国電力管内にある広島市のジャスコ宇品店が、九州電力から電力供給を受け始めた例のみである。

 経産省が行ったアンケート結果によれば、他の電力会社から電気を買える制度を知らない需要家も存在し、特に小さな自治体(高圧50-500kW)では7割におよんだ。自由化対象の需要家の1割がこれまで越境供給を検討、他電力へ供給を依頼しているが、結局断念した理由として、その電力会社から十分な情報提供がなかった、とする回答が多数を占めた。供給そのものを断られたという例もある。

 そして、発電された電力を需要家に届けるための送電線は、電力会社の運用下にあり、透明な利用という観点からは大きな問題がある。

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