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「電力会社がOKしない電力制度改革はできない」という日本の歴史

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

発送電分離、家庭の小売り自由化……。自由化を進める電力制度改革のスケジュールが見えてきた。日本の電力自由化は世界から大きく遅れている。改革は絶対に必要だが、電力業界は今も抵抗している。うまく進むだろうか? 1990年代以降、日本では発送電分離や小売り自由化が何度か議論されたものの、その都度、つぶされてきた歴史がある。「電力業界が認めない電力改革はできなかった」。これまでの日本の現実だ。

  政府の方針では、「小売り自由化」は2016年をめどに行う。送電部門を発電部門と切り離し、別会社(子会社)にする発送電分離は2018~20年をめどに行う。

 どちらも「めど」という曖昧な表現だが、やっと改革のスケジュールが示されたといえる。発送電分離は完全な「所有権分離」ではなく、緩い分離である「法的分離」をめざすものだが、大きな前進になる。

 電力自由化の主要テーマは発送電分離と家庭までの小売り自由化(小売りの全面自由化)である。しかし、電力業界はこれらに反対し、つぶしてきた。自由化が進めば、地域独占を基盤にした電力10社の安定がおびやかされるからだ。

 日本の電力自由化議論は1994年から始まり、2003年までの議論で自由化を一定程度進めた。その後も、03年までの決定を具体化するための議論が08年まで続いたが、自由化のさらなる進展はなかった。

 それから長いブランクの後、昨年7月、民主党政権が発送電分離(法的分離あるいは機能分離)、小売りの完全自由化を軸とする「電力システム改革の基本方針」を決定した。その後政権交代が起きたが、自公政権は、前政権時代の改革議論をある程度受け継いで議論を続けている

 歴史をたどると次のようになる。95年に電気事業法を改正した第1次自由化では、卸電力の自由化を目的としたIPP(独立系発電事業者)の導入が始まり、99年の第2次自由化では発電も電力小売りもできるPPSが送電線を使って顧客に電気を送るための託送制度もできた。そして大口需要家向けの小売り市場を自由化した2003年の第3次自由化では小売り自由化の範囲を「50kW以上」(04年から)まで広げた。

【表 日本の電力自由化の歴史】

●1995年(第1次電力自由化) 電力会社に卸電力を供給するIPP(独立系発電事業者)の参入が可能になった。

●1999年(第2次自由化) 送電線を貸し出す託送制度の新設。PPS(特定規模電気事業者)制度の新設。大口需要家(2000kW以上)への小売りの自由化。

●2003年(第3次自由化) 日本卸電力取引所(JEPX)を新設。連系線の使用を調整するESCJ新設。小売り自由化の順次拡大を決定。04年に500kW以上への自由化、05年に50kW以上への自由化。しかし、07年に「家庭向けの小売り自由化をしないこと」を決定。

●現在議論中の自由化 12年7月に民主党政権が「小売り全面自由化、発送電分離(法的分離あるいは機能分離)をめざす基本方針」を決定。13年3月に自公政権が将来の発送電分離(法的分離)と家庭の小売り自由化の方針を決定。

 この間の議論で、発送電分離は何度も議論にのぼったが、結局、進まなかった。電力業界は「発送電分離をすると安定供給にだれが責任をもつのか」という理由で反対してきた。この考えは日本の電力業界に一貫している。東電の社史ともいえる『関東の電気事業と東京電力』には、「日本で電力自由化を推進するためには、発送配電一貫経営の電気事業者の系統運用能力を活用し、ネットワーク利用の新規事業者への開放に重点を置く託送モデルによるのが適切だと思われる」とある。

 つまり、「発送電一貫のまま自由化しよう」というものである。発送電分離は自由化の核心要素である。「発送電一貫のまま自由化」ということがありうるのか? それほど発送電分離をしたくないということだ。

 小売りの完全自由化についてはもっと劇的で、「一度実施すると決めた決定が反故にされた」歴史がある。03年の第3次自由化の決定において「将来は家庭を含むすべての小売り自由化をめざす。具体的なことは07年春から検討する」ことが決まった。普通に解釈すれば「09年ごろから家庭も自由化する」という決定だった。

 しかし、07年春からの議論では「家庭の自由化は時期尚早」として見送られてしまったのである。理由は「需要家の選択肢が十分に確保されていないから」などだった。自由化しても家庭は電力会社をいろいろ選べる状況にない、ということだ。

これは、「もっと進むはずだった自由化がうまくいっていないので、もう自由化はしない」というおかしな論理だった

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