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推薦入試で東大生は多様になるか

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 東京大学と京都大学が相次いで2016年度入試から推薦入試を導入すると発表したらしい。「らしい」と書いたのは、これは社会的に大きな影響を与えうる事項であるので、大学内でもごく一部の委員会メンバー以外にはあらかじめ情報が伝達されないからである。したがって、東京大学の推薦入試の件も、私は新聞報道で知った。それによれば、東京大学の場合、現状の後期入試を廃止する代わり、その定員100人分を前期入試に先立って推薦入試によって選抜するとのこと。

 3月15日付で大学のホームページで公開されている「基本的な枠組み」には、各高校から1、2名の推薦を受け付け、出願書類、面接、大学入試センター試験の結果などを総合的に審査し決定する、と記されているが、それ以上の詳細はわからない。今後詰めるのか、あるいはすでに決まっているのか、私にはわからないが、せっかくの機会であるので、いくつか意見を述べてみたい。

 まず、私は入試改革という方向性には大賛成である。すでに拙稿「入試の公平性ってなんだろう」(2011年1月20日)、「入試の公平性再考--木を見て森を見ず」(2011年3月7日)でも述べたように、過度な公平性だけにこだわった入試から、より多様な新入生を確保できるような入試へ変化させることの重要性は言うまでもない。今回の推薦入試に関して、「公平性がそこなわれる」という観点からの批判を耳にすることも多いが、それには与しない。それどころか、これで本当に従来の方法では合格できなかった優れた受験生を発掘できるのだろうか、と逆の心配をしているほどだ。

 もともと後期入試は、一発勝負という入試のリスク軽減と、さらに前期入試とは異なる資質を持った受験生の確保が目的とされていたようだ。しかしながら東京大学の場合、現在の後期入試は実質的に前期入試で不合格になった受験生の再チャレンジの場と化している。とすれば後期入試の合格定員となっている100人をそもそも前期入試で合格させておくほうがはるかに効率的である(むろんこれは大学ごとに事情が異なる。後期入試の受験生が前期入試とはあまり重複しない大学が存在していることも事実で、その場合には後期入試はうまく機能していると言うべきだろう)。

 現在の東京大学における後期入試と同様に、新しく導入される推薦入試も、膨大な手間をかけながらあまり有効な成果につながらないのではないか、というのが私の懸念なのである。

 今回の推薦入試で学生を推薦する校長先生の立場に自分がなったものと考えてほしい。推薦できるのはわずか1人か2人。となるとどうしても「通常の意味で」成績の良い学生を推薦する以外の選択をする可能性は低そうだ。多くの父兄に対して、なぜその学生を推薦したのか、という説明責任を果たすことが困難だからである。もちろん、数学や科学の国際オリンピック代表に選ばれた学生などは、推薦の有力候補となろう。しかしながら、そのような学生はほとんどの場合、従来の入試でも合格するとしか思えない(事実、東京大学の物理学科には、国際物理オリンピック代表になった学生が毎年2、3人進学している)。とすれば、わざわざ新しい制度を立ち上げておきながら、結局は従来の選抜方法と同じような結果になるだけではなかろうか。

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