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「脱原発とエネルギー転換に関する日独比較」ベルリン会議報告

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

福島はいまどうなっているのか、50基の原発中2基だけでどうやって、電力を賄っているのか、日本はなぜ、脱原発の方向を決められないのか? こうした疑問が世界やドイツから日本に向けられている。逆に、福島を最終的なきっかけにして脱原発を決めたドイツは、電力代金の値上げで国民の不満が高まっているのではないか、再生可能エネルギーの見通しはどれだけあるのか、これらの疑問や課題を学問的に比較検討しようという「脱原発とエネルギー転換に関する日独比較会議」が、3月11日から2周年を迎えた2013年3月11日、12日にベルリンで開催された。合計で約50人の参加があり、活発な議論がかわされた。
berlinベルリン会議の初日の様子=大沼進氏撮影

 ドイツは脱原発の方向を決めたが、国内でまだ9基が稼働している。これに対して、日本は、脱原発の方向は定まらないが、2基しか原発は稼働しておらず、省エネも進んでいる。ドイツ側の状況は、諸報告の内容を要約すれば、次のようになる。ドイツの脱原発は逆戻りできない過程だが、課題も多い。脱原発は可能だが、CO2削減との両立が困難であり、既設建築物の断熱と交通分野からのCO2削減が最大の課題である。エネルギー多消費産業と鉄道を免除した再生可能エネルギー法(EEG)の改革は不可避であり、低所得者層への負担軽減が課題となり、送電網拡充とEUとの連携が遅れている。ここでは、ドイツ側の報告を中心に紹介したい。

 環境省・エネルギー大転換副責任者・フランツヨーゼフ・シャウフハウゼン氏が「ドイツのエネルギー大転換、機会と挑戦」を基調報告した。2022年までに原発を廃止し、かつ温室効果ガスの40%以上を削減し、再生可能エネルギーで電力の35%を賄うというドイツの「エネルギー大転換」のドライバー(動因)は何か? それは、エネルギーの安全保障と気候保全、そして持続可能な発展である。その際、電気はエネルギー利用の3分の1だけであり、残りの3分の2は熱と交通分野が占めていることが重要である。エネルギー大転換の目標である省エネは、交通部門と建物の断熱改造が柱である。電力分野は比較的に成功しているが、再生可能エネルギー固定価格買取による家庭部門の負担が大きくなっている。制度改革が必要であり、経済省と環境省が協議中である。

 大転換への挑戦的課題は、電力容量市場の確立、送電網の拡大、柔軟性である。GDPとCO2との切り離しをすすめ、再生可能エネルギー生産と雇用を結びつけることであり、2011年には約38万人が関連産業に従事している。次の段階への課題は、コスト効率性、特に太陽光分野、再生可能エネルギーの市場とグリッドの統合、グリッドと貯蔵の拡大、バイオエネルギーの拡大、EUと世界との協力である。

 この報告を受けて、政府モニタリング専門家委員会のハンス・ヨワヒム・ツーチンク博士が、「ドイツエネルギー大転換のモニタリング」について報告した。ドイツのエネルギー大転換は、再生可能エネルギーに大きなポテンシャルがある。原発の8基停止で、電力輸入があった一方、事実は電力輸出の方が多かった。脱原発は難しくないが、困難なのはCO2の同時的削減である。市場に任せていては成功しない。

 エネルギー大転換のモニタリング報告は、倫理委員会報告でも強調され、経済省と環境省の責任で作成されて、それを専門家委員会が独立してコメントすることになった。2大目標は原発の廃止とCO2削減である。省エネの最重要課題は、交通と建物だが、取り組みが不十分である。再生可能エネルギーによる熱利用が不可欠である。電力市場改革が必要であり、電力容量市場が求められている。本質的な問題は分配問題であり、再生可能エネルギーの固定価格買取による電力料金の値上がりは、経済的には負担可能であっても経済的弱者への負担を考慮する必要がある。電力市場の価格動向は、低下傾向にあり、原発が減っても電力価格は上昇していない。エネルギー大綱(2010年)で脱原発のコストを計算し、150-160億ユーロ(約2兆円)程度としている。各年ベースでみると、それほど多くはないことがわかる。

 ドイツの脱原発とエネルギー大転換の歴史的意義について、

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