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新入生は短期海外留学すべきか

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 5月1日に下村博文文部科学大臣が米国で講演し、「海外に行く学生に対して国が全額その費用を出し、そのことによって積極的に秋入学を推進する大学をバックアップしようと考えている」と述べたとの報道があった。ただし記者会見では、秋入学に踏み切る大学が現れるのは数年以上先だろうとみて、予算規模や給付基準などを具体的には詰めていないことも明らかにしたという。

 若者が海外で経験を積むことを積極的に支援する姿勢は高く評価したい。その一方で、今回提案された方法が本当に公平かつ有効なのかについては疑問の念を禁じ得ない。具体的には、秋入学移行へのステップと位置づけられていること、短期留学者を対象としていること、希望者全員に対する必要額の全額支給を前提としていること、の3点について私は違和感を抱く。

 まず、すでに本欄で繰り返し主張してきたように、秋入学という制度改革自体は、日本の大学の教育レベル改善、及び学生の国際化にはほとんど貢献しない。むしろ、その「改革のための改革」に追いまくられて、現場の教職員が疲弊するだけに終わる危険性が高い。したがって、秋入学への最初のステップとしての提案という位置づけには全く同意できない。高校卒業と大学入学の間に半年間のブランクを設けてまで、欧米の大学と入学時期を揃える意味はない。

 次に、日本の将来を担う人材の育成という観点からは、短期留学をしかも大学入学直後の新入生に対してのみ奨励するような制度は効率的ではない。それよりは1年間、あるいは2年間の長期滞在、さらには海外の大学へ入学し卒業しようとする学生をより積極的に支援すべきである。これならば、秋入学といった形式的な制度改革とは無関係に、直ちに実現可能である。実際、東京大学は入学直後に1年間休学して社会体験をする学生を支援する「初年次長期自主活動プログラム」を開始し、今年度は11人が国内外でボランティアや留学をすることとなった。そのような活動は学生の判断で従来から可能なはずだが、それは別として、大学として奨励するという態度は評価すべきなのだろう。

 大学は4年間で卒業するのが当たり前ではなく、明確な目標の実現のために5年あるいは6年かける意味を積極的に認めるように改めるべきだ。言い換えれば、学生を単なる卒業証書だけで判断するのではなく、卒業までに修得した内容に基づいて適切に評価するシステムが大切である。そうすることが、内容の薄い講義をしてとにかく単位を与えるだけで良しとしているような教員の淘汰にもつながるはずだ。

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