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プリンストン大学と教養教育 (1)

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 9月下旬から11月上旬まで、アメリカのプリンストン大学の宇宙科学教室に客員教授として滞在している。

プリンストン大学の正門からのぞむナソーホール(大学執行部の建物)

 すでに本欄において繰り返し述べてきたように、私は日本の大学の「秋入学」に一貫して反対し続けてきた。一方、大学教員の一人として、現在の日本の大学の教育はいろいろな意味において改革が必要であることもまた痛感している。むしろそのような実質的な「中身」の改革を実行するためにも、理念なき秋入学という「制度」いじりに終始することで、いたずらに大学人(教員、職員、学生)を疲弊させるべきではないという立場なのだ。

 残念ながら、この私の真意がどこまで正しく理解してもらえているか分からない。また、何事であれ反対ばかりしている人間だと受け取られても仕方ない側面もある。そこで、この機会を利用して、プリンストン大学の教育について是非話を聞いてみたいと思った。知り合いにお願いしたところ、Deputy Dean of the College (教養学部副学部長あるいは学生部長といった感じであろうか)という職の、学部教育カリキュラム担当者を紹介してくれた。10月下旬に、一時間ほどではあるが直接じっくりと議論する機会を得た。あくまでプリンストン大学の話であるから、これがどこまで米国の大学に一般化できるかはわからない。ただしその点を留意して頂きさえすれば、今後の日本の大学の国際化の議論において有益な情報を含んでいるものと考える。

表1: プリンストン大学2013年度入学者の統計

 米国ニュージャージー州プリンストンにあるプリンストン大学は、1746年にニュージャージーカレッジとして設立された(正式にプリンストン大学へ名称変更したのは1896年)。米国東部の8つの名門私立大学として知られるアイビーリーグの一つである。2012年度の在学生は、学部が5264人(男子2672人、女子2592人。外国人学生は564人であるが、アジア系米国人1010人を含む2023人がいわゆるマイノリティー。2013年度の入学選抜状況は表1を参照のこと)、大学院が2648人。学部学生1万4千人、大学院学生6500人の東京大学の4割程度の少数精鋭であることがわかる。また男女比がほぼ1対1である点も、女子学生が2割程度しかいない東京大学とは全く異なる。

 これに対して、教員は

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