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石破発言の陰に「コンプラ」ばかりをみる風潮

尾関章 科学ジャーナリスト

 ああ、やっぱりな――石破茂自民党幹事長のブログ書き込みを知って、そう思った。撤回したとはいえ、1度は書いてしまった「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」という悲しくなるような認識だ。日本という国の中枢にいる政治家も官僚も、市民運動を過激派闘争とひとつながりのものととらえ、デモとテロはつながっているとみる錯誤から抜け出せないでいるということだろう。

 今回の石破ブログ発言で私が思い出したのは、20年近く前、在欧の科学記者だったころに出くわした外交官の一言だ。国内原発の使用済み燃料の再処理で出た高レベル放射性廃棄物を委託先のフランスから日本へ送り返す輸送船が出た直後のことで、国際環境NGOは船が近海を通るとみられる国々を回って反対運動を広げようとしていた。あるアフリカの国では、NGОのメンバーが現地の日本大使館に出向いて抗議文を渡すという。私は、その大使館に取材の電話を入れて、どう対応するかを聞いた。「彼らはテロリストですからねえ」。担当の書記官と思われる人から、なんのためらいもなくそんな答えが返ってきて私は息をのんだ。「それは、ちょっと違うんじゃないでしょうか」。記者の立場をわきまえず、思わず反論の言葉が口をついて出た。

 もちろん、国際環境NGОのなかに過激な一派があることは事実だ。反捕鯨の抗議行動などでそれが際立って見えることはある。だが、それをもって国際環境NGО主流の振る舞いだととらえるのは大きな間違いだ。そういう先入観は、大手銀行の一部に不正行為が見つかったからと言って金融界全体を否定する暴論にどこか似ている。

 欧州で国際環境NGОを間近に見ていて痛感したのは、その力強さだ。博士号をもった人材を多く抱えて環境保護にかかわるさまざまな報告書を出し、有力シンクタンクばりの存在感を示している。実際、保険業界と手を組んで地球温暖化をめぐる報告書を出したこともある。環境関係の国際会議では、オブザーバーの立場で参加することも多い。私自身の経験を言うと、開催中の会議で何が決まるかについては、日本の大使館関係者よりも国際NGОのほうが的確に先を読んでいたという印象がある。

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